近年、ある自動車メーカーの工場で行われていた「完成検査」において不正が発覚し、リコールが行われるといったニュースがたびたび話題になっています。国土交通省は2018年10月、各自動車メーカーが適切な完成検査を実施するよう「自動車型式指定規則」を改正しました。
このように、完成検査の重要性は日増しに大きくなっているのが現状であり、検査の質やそれに取り組む企業・人の姿勢についても注目が集まっています。そもそも自動車の完成検査とはどんなものか、その仕事内容についてなど、詳しくご紹介します。
完成検査の基礎知識
自動車工場の完成検査とは
自動車が作られる工程を「製造ライン」といいますが、この製造ラインの最終工程にあたるのが完成検査です。その言葉どおり、完成した自動車の最終的なチェックと検査を行います。完成検査の前に、整備士がその自動車に不具合がないかどうかを検査し、そのあと最終検査として、国の定める安全基準を満たしているかどうかのチェックを行います。
完成検査は、国が定める安全基準をクリアしているかどうかを確認する作業なので、いわば国の業務を手助けしている仕事といえます。
完成検査には、テスト試走や水漏れ試験など100以上の検査項目があります。完成検査をクリアしなければ、その自動車は市場に出荷されることはありません。基準を満たしていない自動車が市場に出れば、機械トラブルや重大事故につながる可能性があります。そのため、完成検査はなくてはならない工程であり、同時に人命に関わる重要な仕事といえます。
完成検査に必要な検査員の資格
自動車を扱う仕事には、さまざまな資格があります。自動車の整備・修理を行う場合は「整備士」の資格が必要ですし、車検を通すための検査を行う場合は「自動車検査員」の資格が必要です。
完成検査を行う場合、後者の自動車検査員の資格が必要になります。完成検査を行う自動車検査員は、国が指定する指定整備工場の従事者でなければなりません。
近年問題になっているのは、国内の工場で自動車検査員の資格を持たない無資格者が完成検査を行っていたという事実です。完成検査自体は行われていたものの、正規の資格保持者が検査を行わなかったということが問題視されています。無資格者が検査を行った工場は、問題発覚後に約2週間の出荷停止などの措置が取られています。
完成検査の仕事内容
完成検査は、製造された自動車が国の定めている保安基準や形式に合っているかを検査する仕事です。「外観検査」「水漏れ」「排気漏れ」「ボルトのゆるみ」「スピードメーターの正確さ」「ブレーキに不具合はないか」「排出ガスが環境基準を満たしているか」などを細かにチェックします。すべての検査をクリアして初めて、その自動車に適合証が発行され、市場で出荷されることになります。
この完成検査において、不適切な行為が行われたのちに自動車が出荷されるという事案が発生してしまったのです。このような事案を受け、国土交通省は同じような不正・不適切行為が発生していないかを国内の各自動車メーカーに確認を求めました。
検査員の資格を取る方法
自動車検査員の資格は、各都道府県で実施される自動車検査員教習を受講する必要があります。しかし、自動車検査員教習は無条件で誰でも受けられるというわけではありません。受講資格は以下のようになります。
1. 整備主任者としての実務経験が1年以上あること
2. 直近において整備主任者研修を受けていること
3. 勤務先の工場が指定自動車整備事業の指定を受けていること
4. 勤務先の工場が指定自動車整備事業の指定を受けようとしていること
これらの条件を満たしていない場合は、教習を受けることができません。自動車検査員教習を受け、そののちに行われる修了試験で合格すれば自動車検査員の資格を取得することができます。
自動車検査教習の受講と、資格取得までの流れをまとめると、
1. 自動車検査員教習の受講の申し込み
2. 自動車検査員教習の受講
3. 自動車検査員修了試験の受験
4. 自動車検査員修了試験の合格
5. 自動車検査員資格の取得
このようになります。なお、修了試験は主に選択問題と計算問題で構成されています。教習では「自動車検査科目」と「基礎法令・整備士法令」の科目を学ぶことになりますが、修了試験ではこの教習(科目)で学んだところから問題が出題されます。
完成検査に向いている人
完成検査に向いている人の特徴をいくつか挙げてみましょう。
自動車について幅広い知識がある人
当然のことではありますが、完成検査には自動車についての幅広い知識が求められます。実際の完成検査では、安全基準に適合するかどうかの細かなチェックをしなければならず、小さなミスもチェック漏れも許されません。基準に適合しないまま出荷されると、それが事故の原因となり、人命に関わる可能性もあるからです。
そのため、「不適合の自動車は市場には出してはいけない」という責任感と、自らの仕事を全うできる十分な知識が必要になります。
細かいことに気が付く人
完成検査の仕事は細かなチェックの連続であり、細部にわたってどんな不具合も見逃さない慎重さが求められます。一つひとつの項目で安全基準を満たしているかを、細心の注意を払ってしっかり判断できる人、小さな不具合も見逃さず、同じ集中力で検査を行える人ほど完成検査の仕事に向いています。
性格的に見れば、「非常に几帳面であること」「細かな仕事を長時間できる忍耐力があること」「地道な作業をコツコツとこなすことが好き」な人ほど向いているといえるでしょう。
逆にいえば、何事にも大雑把な人、「まあいいか」で済ましてしまうことが多い人、注意力や集中力がない人、コツコツ作業が苦手な人、などは完成検査の仕事には向いていないと思われます。
使命感の強い人
自動車の検査というものは、人の命が関わっている仕事です。不具合を見逃したまま出荷された自動車は、人の命を奪ってしまう可能性があります。そのため、自動車検査員が担う役割と責任は重大であり、生半可な気持ちで取り組んではいけないものです。「人の命がかかっている」という責任感、「絶対に安全な自動車を世に出したい」という強い使命感を持たなければなりません。
完成検査は、自動車が出荷される前の最終的な検査であり、その検査によって実際に販売されるかどうかが決まります。つまり、自分の検査能力と判断によって適合証が出されるかどうかが決まるので、自らが担っている仕事の重大さをしっかりと認識できる人でなければ務まりませんし、そのような認識がない人は自動車検査員として適切であるとはいえません。
完成検査は人命に関わる重要な仕事
自動車メーカーの完成検査における不正問題は、自動車を購入するユーザーにとっては見逃せない事実です。実際に事故や被害が出ていないからといって許されるものではありません。このような不正行為が継続的に行われた結果、いずれそれが原因で誰かの命を落とす可能性があるからです。
完成検査は自動車が出荷されるがどうかの最終的な検査なので、製造ラインのなかでも極めて重要な工程です。またそれに取り組む従業員は正規の資格保持者でなければなりません。企業側も、一人一人の従業員も、「人命にかかわる仕事に取り組んでいる」という確固とした意識を持つ必要があります。
これから自動車検査員の資格を目指す人はこのような意識をしっかりと持ち、社会に対する強い責任感を持って仕事に取り組むことが求められます。そういった姿勢で仕事に取り組むことができれば、高い品質の自動車を世に送り出し続けている日本の自動車メーカーの一員として、誇りを持って仕事に携われることは間違いありません。
制作:工場タイムズ編集部