私たちが普段着ている衣類やタオルなどは、平面上の生地から縫製されています。では、生地の材料である糸はどのようにつくられているかご存じでしょうか?
糸は、最初からあのような形をしているわけではなく、繊維をつむぐ作業である「紡績」(ぼうせき)を行うことで、糸へと変化しているのです。
今回は糸を生み出す紡績の工程や、紡績工場の仕事についてご紹介します。
紡績って何?
「紡績」とは、原料となる麻や羊毛、綿などの天然繊維から糸をつくる工程のことです。紡績の「紡」は撚(よ)り合わせること、「績」は引き伸ばすという意味で、紡績によってつくられた糸を「紡績糸」といいます。
江戸時代末期までの日本では、綿の栽培から紡績、布の生産までが伝統的な手作業で行われ、一連の工程が工場のライン作業のような形を取って行われていました。しかし、1853年の黒船来航をきっかけに再び外国との貿易が行われるようになり、英国などから品質の良い綿織物が輸入されるようになった影響で、日本の伝統的な綿織物工業は、休業や廃業に追い込まれていきました。そこで日本は、貿易再開を機に外国産の機械の輸入を開始し、1867年に鹿児島に日本初の洋式紡績工場を設立します。その後、1878年には明治政府が官営の紡績所を設立。それをきっかけに1892年までに、全国に20もの紡績会社が次々と設立され、世界に誇れる紡績大国へと発展していきました。現在でも日本の紡績技術は世界トップクラスの水準を誇っています。
糸はどうやってできる? 紡績糸ができるまで
紡績糸は、どのようにつくられているのでしょうか?紡績工場で行われている、糸ができるまでの製造工程をお伝えします。
混打綿(こんだめん)
最初に「混打綿」と呼ばれる、繊維の原料をほぐして混ぜる作業を行います。混打綿機を使って綿の幅や厚さを均一にし、綿を板状にした「ラップ」と呼ばれるものを作成します。
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梳綿(りゅうめん)
綿を繊維まで細分化して方向をそろえ、「スライバー」と呼ばれる太いロープ状の繊維束(せんいそく)にする工程です。紡績における特に重要な工程で、紡績の品質の8割は、梳綿で決まるとも言われています。
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練条(れんじょう)
均一な糸をつくるために複数の繊維束を重ね合わせて細く引っ張り、繊維の方向を平行にします。
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粗紡(そぼう)
繊維束をさらに細く引っ張って平行度を上げていき、細い篠(しの)状にします。
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精紡(せいぼう)
繊維束に撚りをかけて糸の形にします。この工程での撚りの強弱によって、その糸の風合いが決まります。
紡績工場のお仕事って?
紡績は紡績工場で行われます。最後は、紡績工場の代表的な2つの仕事についてお伝えします。
紡績運転工
紡績で使用する機械の操作を行う仕事です。紡績工場では混打綿機や梳綿機などの特殊な機械を使用することになるため、機械を扱う人の存在は欠かせません。紡績の作業工程は流れ作業なので、製造途中の糸が切れてしまった場合や、それが原因となって機械が停止してしまった場合には、紡績運転工が素早く糸をつないで再稼働させます。そのため、紡績運転工には、細かい作業をするのが得意で、かつ瞬発力がある人が向いているといえるでしょう。最近では、機械の操作をシステム化している紡績工場も増えているため、機械の不具合にすぐ気づける観察力があるとなお良いでしょう。
紡績保全工
紡績工場にある機械の保全をするのが紡績保全工です。機械の点検や整備、調整、故障部分の修理、部品や機械の管理などを行います。機械に触れることが多い仕事なので、機械に強くて細かい作業が苦にならない人に向いています。紡績運転工に機械の使い方を指導することもあるため、ある程度のコミュニケーションができる人なら仕事をスムーズに行うことができるでしょう。
紡績運転工も紡績保全工も、特別な資格がなくても仕事をはじめることができます。工業高校や職業訓練校などを卒業してから就職する場合が一般的ですが、他業種からの転職者も多く、未経験からでもスタートすることができます。基本的に紡績運転工は女性が、紡績保全工は男性が多い傾向にあります。どちらの職種も、根気よく作業を続けられることが大切です。
日本の技術力の高さを感じられる紡績工場の仕事
歴史ある日本の紡績技術は世界で高く評価されています。最近では、海外に製造拠点を持つ紡績工場も増えてきました。華やかなファッションの世界を支えているのは、日本が誇る高いレベルの紡績技術です。人々の生活に密着したモノづくりである紡績の仕事は、やりがいを感じられると同時に、誇りを持って取り組むことができるでしょう。ファッションや服づくりに関心がある人は、動画サイトなどで紡績の仕事をチェックしてみると、糸をつむぐ仕事の奥の深さに興味を持つかもしれませんよ。
制作:工場タイムズ編集部