工場などでは「5S」という言葉が職場におけるルールのひとつとして頻繁に使用されていますが、製造業などの仕事をしたことがない方はこの言葉の意味をご存じないかもしれません。
しかし、この5Sは工場以外の職場でも大いに活用できることから、その意味を知っておく価値はあると言えるでしょう。
今回は、主に製造業で使用されるこの5Sという言葉の意味と、それが重要視される理由や実施するための取り組みについて説明します。
5Sとは?
5Sとは工場をはじめとする仕事現場において重要な5つの要素の頭文字をとった言葉として、1980年代に製造業の専門誌で紹介されました。この「5S」が意味する具体的な内容は以下のとおり。
整理(Seiri)
必要なものと不要なものを分けて不要なものを捨てることは、特に工場のような大量の資材や廃材がある職場では非常に重要な作業であり、それらをまとめて「整理」と呼びます。また、工場では、使用頻度の少ない機械の工程を外注することもこの「整理」に含まれます。
整頓(Seiton)
資材や道具をすぐに取り出せるよう、置き場所や置き方をあらかじめ決めておくことは「整頓」に当たります。このことは作業効率を向上させる上でも重要となります。
清掃(Seisou)
作業終了後に掃除をしてゴミや汚れのないきれいな職場を保つことだけでなく、機械のメンテナンスを定期的に行うことも「清掃」に含まれます。
清潔(Seiketsu)
「整理」「整頓」「清掃」に共通する目的として、「清潔」な状態を維持することもまた5Sの概念に含まれます。常に職場を清潔な状態に保つためには、汚れたらすぐに掃除をすることを意識する必要があります。
しつけ(Sitsuke)
これら4つの「S」を決められたとおりに実行するための「しつけ」もまた、5Sの概念に含まれます。忙しいときや疲れているときなどは上の4Sを疎かにしがちであることから、いつでも変わりなく4Sを維持するという点においても、この「しつけ」は重要となります。
5Sが重要視される理由と効果
工場のような数百人規模など多数の従業員が同時に作業を行うような職場に勤務したことがないという方の中には、そもそもこの5Sがなぜ重要視されるのか分からないかもしれません。そこで、この5Sを実践することが重要視される理由やその効果としては以下をご紹介します。特に工場を正常に稼働させる上では、必要なルールといえるでしょう
職場環境を整えられる
きれいな部屋よりも汚い部屋に住みたいという方はいないはず。それと同じように汚い工場よりもきれいな工場のほうが職場環境としては状態がよく、従業員のモチベーションの向上や企業としてのイメージアップという点において、5Sは大きな効果が期待できます。
生産性を向上させることができる
整理整頓が徹底されておらずゴミや汚れが多い職場では、作業で必要な資材や道具などの「モノ」をスムーズに見つけることができません。これにより、モノを探すための時間がかかることは生産性にも大きな悪影響を及ぼし、製造業にとっては死活問題となりかねません。5Sには、このような問題を解消し、生産性を向上させる効果も期待できます。
安全性の向上も図れる
5Sが徹底されていない工場では、機械のメンテナンスが十分に行われていないことによる事故や、衛生状態が悪化することによる感染症にかかるリスクが多くなってしまいがち。このようなリスクを軽減し、従業員が気持ちよく安全に作業に集中できる環境を整えるという点においても、5Sを徹底することには大きな効果があります。
5Sを実施するための取り組み
5Sはただルールとして掲げるだけでなく、それを定着させるための取り組みも行わなければ、大きな効果が表れることはありません。続いては、実際に行われている5Sを実施するための取り組みをご紹介します。
社員が正しく理解する
5Sを定着させるためには、なによりも社員がそれを正しく理解することが重要です。多くの従業員が働いている工場などでは、パートやアルバイトなどの従業員も多いため、まずは社員が先頭に立って5Sの重要性を説いていかなければなりません。そのための方法として、勉強会や抜き打ちチェックなどを行う企業は多く存在します。
目的と指標を設定する
社員だけでなくアルバイトやパートなども含めた全従業員に5Sを実施することを促すためには、明確な目的と指標を設定しなければなりません。そのためには勉強会や抜き打ちチェックなどを実施するだけでなく、毎月スローガンを掲げ、それを達成することもまた業務のひとつであることを全従業員に認識してもらう必要があります。
具体的な行動目標を設定する
5Sを実施するためには、その概念を従業員に認識してもらうだけでなく、具体的な行動目標を設定するのも有効です。たとえば、「整理」を徹底するために不要なものに赤札を貼る「赤札作戦」などを毎日実施することを行動目標として設定したとします。そうすると、それを達成することがすなわち5Sを実施することにもなります。
企業オリジナルで追加される項目
一方、業界や業務内容によっては、この5Sだけでは不十分なケースも。中には5Sにオリジナルの項目を追加し、6Sや7Sを実践している企業も多く存在します。ちなみに、追加されることが多い項目としては以下のものが挙げられます。
消毒
食品業界では5Sだけでは製造する食品の安全性や高い品質を十分に維持できなかったりするため、食品や使用器具の衛生状態を管理するための「消毒」を徹底して行っています。また、この業界では消毒だけでなく、「殺菌」「洗浄」などの項目が5Sに追加されていることも少なくありません。
測定
製造業においては、製造する商品のサイズや製造に費やした時間などを測定する機会が多くあります。この作業を徹底して行うことは生産性の向上や安全性の確保においても重要であることから、「測定」を5Sに追加するというケースもまた多いようです。
習慣
「しつけ」と若干似通った部分はありますが、5Sをはじめとしたルールの順守を習慣づけることもまた製造業では必須となります。このことから、「習慣」もまた5Sに追加されることが多い項目となっています。
笑顔(Smile)
広義的な職場環境の改善という意味で、「笑顔」を5Sに追加している企業も存在します。この笑顔という項目には従業員が笑顔で作業するのを心掛けることだけでなく、従業員が笑顔になれるような環境づくりを目指すという意味合いも込められています。
5Sで職場環境の改善を
今回は、工場などの製造業をはじめとした業界の職場で実践されることが多い「5S」について、その詳細や重視される理由と効果、実際に行われている取り組みなどをご紹介しました。
現在では、5Sという用語自体は製造業に限らず幅広く使用されるようになりました。しかし、現場ではその意味や目的に関しては深く理解しておらず、仕事をする上でも特に気にしていないという方は多いようにも思われます。しかし、ご紹介してきたように5Sは商品の品質の維持だけでなく、消費者、従業員にとっての安全の確保や生産性の向上が図れるという点で、実は多くの人にとってメリットがあります。
また、5Sは業界や業種によってはそれだけでは不十分であることも多いため、場合によってはご紹介したような項目を追加する必要があるということも覚えておきましょう。5Sとは、あくまでも安全性・品質・生産性を向上させて広く職場環境の改善を図る上で、重要な最低限の基準と捉えるのがおすすめです。
制作:工場タイムズ編集部