日本には「三大工業地帯」と呼ばれるエリアがあり、活発な生産活動が行われています。その中の一つに「中京工業地帯」があります。
東海地方に広がっている工業地帯のことで、三大工業地帯の中でも、従業員数、製品出荷額ともに最大規模を誇ります。その秘密はどこにあるのでしょうか?
今回は、中京工業地帯の歴史や特徴、主力産業についてご紹介します。
中京工業地帯とは?
中京工業地帯とは、主に愛知県、岐阜県、三重県に広がっている工業地帯です。愛知県瀬戸市や岐阜県多治見市の陶磁器、愛知県一宮市の毛織物などは古くから栄えてきました。なぜこの地域に工業が発達したかというと、東京と大阪の間に位置するため、昔から交通の便が良く、人の行き来が盛んだったことが理由の一つです。また、海に面していることで貿易が活発に行われています。さらに、豊富な水量を持つ木曽川のおかげで工業用水を確保しやすく、肥沃で広大な濃尾平野があることも大きな理由です。
明治時代には製糸業、紡績業などが主力でした。第二次世界大戦前になると、航空機の生産が盛んになり、軍需産業の拠点になりました。戦後は石油化学工業が発達、名古屋港や三重県の四日市港周辺に石油化学コンビナートが建設されるようになりました。さらに、愛知県豊田市を中心として自動車産業が盛んになり、現在も三大工業地帯の中でトップクラスの生産額を誇っています。
中京工業地帯の二大輸送機産業とは?
中京工業地帯には盛んな産業がいくつかあります。その中でも「二大輸送機産業」と呼ばれるのが、自動車と航空産業です。
自動車産業
日本を代表する自動車メーカー「トヨタ自動車」があることは有名です。愛知県豊田市は、主力産業のトヨタ自動車から名前がつけられています。また豊田市内やその周辺地域では自動車のパーツを製造する企業や部品工場などの関連会社が数多くあります。他の三大工業地帯と比較して機械工業の占める割合が非常に高いのは、この自動車産業の発展が大きいからです。
航空産業
中京工業地帯は自動車だけではなく、日本最大の航空産業が集まる場所でもあります。この地域で日本の航空機とその部品の生産額の約5割、機体部品だけなら約7割を生産しています。日本の中でも随一の航空産業の拠点として機能しているのです。そのため、三菱重工業や川崎重工業、富士重工業のような大手機体メーカーをはじめとして、部品を供給する企業が数多く集まっています。
日本の航空産業は、1兆4900億円の生産額があります。その約半分を中京工業地帯が占めています。今後、さらなる規模の拡大を進める方針で、2020年までの生産額の目標は9000億円です。最終的にはボーイング社の企業城下町であるアメリカ・シアトル、エアバスの企業城下町であるフランス・トゥールーズに続く第3極になることを目指しています。
宇宙産業も盛んです。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の名古屋空港飛行研究拠点や名古屋大学の航空宇宙工学専攻など、航空宇宙に関する研究や人材開発を行うための施設もたくさん見られます。このように産業と行政、さらには学術機関の連携がスムーズに行われることで、活発な産業構造をつくり出しているのです。
ほかにはどんな産業があるの?
中京工業地帯には、自動車や航空産業のほかにもいろいろな産業があります。主だったものをご紹介します。
石油化学
四日市市は昭和30年代ごろから石油化学の拠点として発展しました。石油精製工場や関連化学工場の建設を進め、国内屈指の石油化学コンビナートをつくった結果、四日市市の主力産業となりました。しかし、1960年代から「四日市ぜんそく」という公害が発生しました。原因は、石油化学コンビナートの排煙に含まれる亜硫酸ガスでした。
陶磁器
瀬戸市や多治見市を中心に、陶磁器の盛んな地域です。江戸時代から尾張藩によって陶磁器産業は保護され、明治時代以降は全国的に有名な陶磁器の町となりました。歴史の古い地元産業です。
刃物
岐阜県の関市は、刃物の町として知られています。700年以上の伝統を誇り、産業としてだけでなく、観光面でも売りになっています。なかでも一大イベントになっているのが「刃物まつり」です。メイン会場から約1kmにもわたって刃物の名店が出店します。名刀がリーズナブルな価格で販売されているほか、抜刀術の実演や刀剣展などの催しが開催されます。その日は全国から人が訪れ、にぎやかになります。2023年は10月7日(土)、8日(日)の開催が予定されています。
中部地方における産業の現状
先頭に立って日本の産業を引っ張ってきた中部工業地帯ですが、時代の流れの中でさまざまな課題にも直面しています。
競争力の低下
アジア地域において著しい経済成長が広がっている中、これまで高い技術力を誇ってきた日本の産業は経済発展の停滞が目立ち始めました。(参照元:国土交通省・中部地方整備局「まんなかビジョン第2章」平成15年)
これは、工場など製造拠点を海外に移し、日本国内での製造業が衰退していく産業空洞化や、高いコストをかけた製造業の構造から抜け出せずにいることが大きく影響しています。国際競争が激化している時代に、日本の製造業界が遅れをとっている事実は否めません。
こうした状況は、日本の産業をリードしてきた中部地方にも関係してくることであり、この先も国際競争で戦っていける対策が必要です。
日本の産業競争力を上げるためには、新しい産業が活性化できる環境づくりが鍵を握ります。人材不足に拍車がかからないよう、若者や女性、外国人労働者などに配慮した生活環境づくりや、企業のスタートアップを支え、都市部への集中傾向を抑えるための環境整備などが求められています。
環境問題
世界規模で地球温暖化が進み、早急な対策が求められている今日、産業の二酸化炭素排出による環境汚染問題も他人事ではありません。
自然豊かな環境にある中部地方は、産業においても自然の恵みから恩恵を受けてきました。これからも多くの森林や河川、広大な平野などを守って産業発展に役立てるためには、特に自動車産業や運輸業が盛んな中部地方のCO2削減が大きな課題になります。
いかにして二酸化炭素の排出を抑えるかに加え、自然環境の整備も積極的に取り組む必要があります。
昨今は林業の人手不足もあり、中部地方の山林では荒廃が進んでいます。森林が減って環境破壊が進むと、二酸化炭素の量を減らしていくことが難しくなったり、保水機能崩壊の懸念も出てきます。
災害への対策
言わずと知れた地震大国の日本で生活している以上、災害への対策は切り離せないものです。南海トラフ地震など、巨大地震の発生が現実味を帯びてきている中、産業においての充分な災害対策が不可欠となっています。
政府による南海トラフ地震の想定では、中部地方が最も大きな被害が出るとされており、産業にも大打撃を受けることが予想されます。巨大地震が起きれば被害を完全に防ぐことはできないので、どうしたら最小限の被害に抑えられるか、できるだけ早く復興するために今できる準備は何かを考えておくことが大切になります。
また、大きな河川が多くある中部地方では、水害対策も重要になります。これまで多くの水害が起こってきましたが、近年の異常気象により、この先も水害の懸念は大きいものです。
こうした災害への不安を和らげる環境整備を徹底していくことで、安心できる生活環境に人口が戻り、労働力確保や経済発展に繋がっていくことも期待できます。
日本のモノづくりを支える最大の工業地帯
自動車、航空機、宇宙など、中京工業地帯ではいろいろな産業が盛んに行われています。従業員数、製品出荷額とも日本最大であり、日本のモノづくりを大きく支える重要な役割を担っています。最近では次世代自動車や光電子技術など高度な産業の開発も進められており、それに伴って企業や工場の集積がさらに進むと見られています。モノづくりに携わりたい人には、魅力的な街と言えるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部