「ろう付け」と「はんだ付け」は同じような種類のものだと思われがちですが、実は使っている材料が違うため、用途や仕上がりが大きく異なります。どちらかというと認知度が高い「はんだ付け」ですが、一方で「ろう付け」も昨今のDIYブームにのってその加工方法への理解は深まっており、比較的簡単に取り入れられることもあって注目度が高くなっています。今回はその「ろう付け」について詳しく紹介します。
ろう付けの基礎知識
「ろう付け」は「はんだ付け」と同じ、溶接の一種です。溶接というと火花が散るようなイメージがありますが、ろう付けはガスを使って溶接する方法となります。
ろう付け(ロウ付け)とは
ろう付けは、はんだ付けと同じ「ろう接」技術のひとつで、接合する2つの母材の間に、融点が母材より低い「ろう」を溶かして落とし、毛細管現象によって浸透拡散させ、冷却して凝固することによって接合する方法です。
母材自体を溶融させずにろう材を一種の接着剤として用いて接合させるので、母材を傷めずに接合することが可能となります。同じ金属同士、さらには異なった金属同士の接合に使われる手法のため、その用途は多様にあり、小さいものであればシルバーアクセサリーやパイプの接合などにも用いられています。
接着剤を使用した接合方法、ナットとボルトで固定する方法、溶かした金属によって接合する方法など物体同士を接合させるためにはさまざまな方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
このように多彩な接合方法のなかでも、最古の冶金(やきん)的接合技術であるといわれる「ろう付け」はエジプト期の文化遺産の製造にも用いられているほか、奈良の大仏もこの「ろう付け」によって接合されているのです。
このように長い歴史を持つろう付けはさまざまな進歩を遂げ、今でも多くの工業製品の製作に活用されているほか、近年ブームとなっているDIYなどにも用いられており、より身近な溶接方法として浸透しています。
ろう付けとはんだ付けの違い
ろう付けとはんだ付けはとてもよく似た溶接手法ですが、この2つは文字通り「ろう」と「はんだ」を溶かして溶接するもので、溶接材を加熱した際、液体になる融点(温度)が違います。はんだは温度が450℃以下で液相(液体)になりますが、ろうは450℃以上で液相になるため、この2つの違いは溶融点(溶解温度)と理解するとわかりやすいです。
また加熱する道具にも違いがあり、「はんだ付け」には「はんだごて」、「ろう付け」には「ガスバーナーや工業炉」などが用いられます。また強い熱によって溶ける「ろう」は金属同士が固着後に強く接合され、接合強度ははんだを上回ります。
ろう付けに必要な道具
ろう材
「ろう材」は接着する金属などによって使い分けされ、その種類はさまざまです。ここからは主に使用されているろう材の種類をいくつか紹介します。
①銀ろう
「銀」「亜鉛」「銅」が混ざったもので、使用されるろう材としてはいちばん使用頻度が高いものとなります。母材がアルミやマグネシウム以外であれば「銀ろう」で問題なく溶接できるといわれています。
棒の形をした銀ろうが一般的ですが、板型やペースト型の種類もあります。ろう付けしたときの色は文字通り銀色となり、趣味のDIYといったろう付け初心者の方にも使いやすい素材です。
②銅・黄銅
銅・黄銅は「銅」と「亜鉛」が混ざったものです。真鍮(しんちゅう)の色なので、銅や真鍮製品などのろう付けに使われるほか、鉄と銅といった異種金属間のろう付けにもよく使われています。
③リン銅ろう
「銅」と「リン」が混ざったもので、リンの含有率は5%から8%程度。銅管のろう付けに使われるケースがほとんどです。ろう付けには「フラックス(=ヤニ)」という促進剤が必要となることが多いのですが、リン銅ろうには還元作用(酸化物を還元する)があるので、単独で使用することが可能という特徴があります。
④アルミろう
融点が低く簡単に溶けてしまうため難易度の高い素材として知られていますが、コツをつかめば接合が可能です。基本的にアルミ専用のため、母材がアルミ以外の場合の「ろう付け」には使用できません。技術をマスターすればDIYの幅が広がります。
耐熱レンガ、セラミックボード
「ガスバーナー」を用いてろう付けする際、通常のレンガだと高熱で割れてしまうことがあるため、小さなものの加熱はセラミックボードや耐熱レンガの上に置いて行います。その際、ガスバーナーなどの火勢(火のいきおい)が周囲に広がらないよう小さな囲いを作ることが望ましいです。
ガスバーナー など
ろうを溶かすのに最適な道具がガスバーナーです。火勢があるのでよく使われており、家庭用ガス管を使って気軽に利用できるという点も、使用する上でのメリットといえるでしょう。
ろう付けの方法
ろう付けの具体的な工程は、主に次の通りです。
①溶接する母材の固定
まずは母材が動かないようしっかりと固定します。小さいものであれば「つかみ(=ペンチやプライヤーなど)」などで手で持って作業する方法もあります。ただし母材の固定が不安定だとろう付けの位置が定まらないなどデメリットも考えられるため、あまりオススメはできません。
②サンドペーパーでならす
母材の表面にサビや油があると接合が失敗する原因になるため、ろう付けする面をサンドペーパーでならします。
③フラックスの添加
母材の接合部にフラックスを添加し、その部分を清浄化します。フラックスは多すぎるとろうが流れてしまいますが、少なすぎると逆にろうが流れません。適度な「ぬれ」が必要なので、気持ち多めにフラックスを添加しましょう。
④ろう棒の差し込み
フラックスが溶けて母材の加熱状態も整ったら、ろう棒を差し込みます。ろうを流し込んだらガスバーナーでさらに重点的に加熱し、接合部全体にろう材を広げましょう。
⑤フラックス除去
①~④までの工程が終了したら、母材が冷めないうちにフラックスを取り除きます。
ろう付けに役立つ資格
工場などで製品の溶接を行う職業に就くためには資格が必要となる場合があります。仕事として溶接を行う際に役立つ資格や講習としては、下記のようなものがあります。
ガス溶接技能講習
資格ではありませんが、講習の修了者でなければ溶接業務に従事させないという事業所も少なくありません。講習内容は学科・実技で構成されており、学科が8時間、学科試験1時間、実技5時間の計14時間で、その日のうちに修了証が交付されます。
ガス溶接作業主任者
受験資格は特にありません。学科試験のみで、事業者証明書があれば学科試験のいくつかは免除となります。学科試験が合格であっても、免許申請の際は以下の条件を満たしていなければなりません。
・18歳以上
・ガス溶接技能講習修了者
・上の二つの条件を満たし、実務経験が3年以上
他にも学歴や専攻過程によって細かな条件があり、それを満たしている必要があります。
銀ろう付技能者
銀ろう付け技能者は、用いる材料によって資格の種類が異なり、下記の4種類があります。
・FA-Cu:銅板/薄板
・FA-S:炭素鋼板/薄板
・FA-SUS:ステンレス鋼板・薄板
・PA-Cu:銅管/薄肉管
受験資格は、1ヵ月以上ろう付け技術を事業所などで習得している15歳以上の人で、さらに以下のいずれかを満たしていることが必要です。
・ガス溶接技能講習を修了している
・在学中の高校または職業訓練において、「ガス溶接技能講習」と同等の教育・講習を修了している
・ガス溶接作業主任免許を取得している
メリットの多いろう付け技術を習得し、趣味や仕事に生かそう
ろう付けにはさまざまなメリットがあります。たとえば複雑な構造物や、薄い断面と厚い断面が混合しているもの、異種材が混ざっている構造物なども一度で接合できる点などがあげられます。また仕上げ作業がほとんど必要のない点もメリットのひとつです。
このようにメリットが多く、現在も工業製品の製作において利用されているろう付けの技術。身につけておけばDIYといった趣味から製造メーカーなどでの仕事にも幅広く役立つでしょう。
制作:工場タイムズ編集部
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