溶接工というと「火花が散る仕事で危なそう」「女性では無理そう」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。実際の溶接工の仕事は、イメージほどハードなものではありません。しっかりとした技術を身につけてさえいれば、男性はもちろん女性でも安全にこなすことができます。
今回の記事は、溶接工の詳しい仕事内容、給料、溶接工に就くために必要な資格、未経験から目指す方法などについてご紹介していきます。
溶接工の仕事内容
まずは「溶接工」とは何か、溶接の作業にはどんな種類があるかについて見ていきます。
溶接工とは
溶接工とは「溶接を仕事としている人」のことです。自動車の部品、金属アクセサリー、家具、公園の遊具、時計など種類や場所は問わず、溶接の仕事をしている人が溶接工と呼ばれます。溶接工として働くためには、資格の取得や、実際に工場や建設現場でスムーズに作業するためのスキルが必要になります。
溶接とは
溶接とは、「材料を加熱・加圧することで、2つの材料(部材)を接合する加工技術」のことをいいます。加熱・加圧だけでなく、「溶加材(溶かして使用する接着剤)」を使って接合する場合も溶接と呼びます。
溶接の方法には以下の3種類のものがあります。
1. 融接
融接は溶接方法のなかで最も基本的なものです。部材に熱を加えて溶かし、それぞれ溶かした2つの部材を接合させ、そのまま冷やして固まらせる方法です。溶接方法として有名な「アーク溶接」もこの方法に当てはまります。
2. 圧接
圧接はプレス機などの機械で部材に圧力を加え、2つの材料を接合する方法です。この方法は、特に硬い金属製の部材をくっつけるときなどに用いられます。
3. ろう接
ろう接は鑞(ろう)=溶加材を用いて、部材そのものを溶かすことなく各部材を接合する方法のことをいいます。溶加材が鑞(ろう)なので「ろう接」と呼ばれますが、同じイメージで溶加材が半田であれば「半田付け」になります。
溶接が必要な場面
溶接が必要とされる仕事の分野は、主に「一般機械」と「建設現場」の二つに分かれます。
1. 一般機械の現場
自動車や重電機など、一般機械の製造分野では溶接加工の技術が必要になります。この分野の作業は基本的に工場内で各部品に溶接が行われ、そのあとに組み立てられて輸送されます。各部材ごとに溶接作業を行うので、扱われる材料のサイズはそれほど大きくはありません。
2. 建設現場
一般機械での溶接とは違い、建設現場での溶接は比較的サイズの大きい材料(建材)を用いるため、作業レベルは難しくなります。また、扱われる建材のサイズが大きい建設現場では、工場内で使われるようなプレス機による圧接はほとんど行われず、「融接」と「ろう接」の割合が多くなります。
溶接工の仕事が「きつい」「辞めておけ」といわれる理由
溶接工の仕事は「きつい」「辞めておけ」といわれることがありますが、なぜなのでしょうか。理由を紐解いていきます。
理由①体力が必要
溶接工の仕事が「きつい」「辞めておけ」といわれる理由の1つは、体力が必要だからです。溶接工は、中腰になる姿勢を続けたり、重い鋼材を運んだりなど、肉体労働といってもいいほど、体力を使います。夏場になると暑さが増して、なおさら体力を奪われてしまうので、きつい仕事だと思われているのです。
しかし、実際には、溶接をする際の正しい姿勢や、重いものを持つコツを身につければ、それほどきつい仕事ではありません。もちろん、ある程度の体力は必要です。ただ、最近では休憩時間をきちんと確保したり、残業がなかったりなど、少しでも体に負担がかからないような労働環境を整えている会社もあります。
理由②健康被害を受けやすい
溶接工の仕事は、健康被害を受けやすいことも「辞めておけ」といわれる理由の1つです。健康被害の主な事例としては、溶接時の光(紫外線)を裸眼で見ることで起こる表層角膜炎、アーク溶接時に発生する溶接ヒュームによりじん肺などです。
このほかにも、火傷やヘルニアなどの健康被害も受けるリスクはありますが、大抵は作業時に予防することはできます。
例えば、保護メガネや防護服、防じんマスクを着用することです。基本的に、会社が設けている安全基準を遵守していれば、重大な健康被害を受ける可能性は低いといえるのです。そもそも、防護具も進化していて、一昔前には溶接で健康被害を受けていたとしても、現在では失明やじん肺になることはほとんどありません。
理由③スキルが必要
溶接は「センスが必要」といわれることもありますが、実際に必要なのはスキルです。鉄と鉄をきれいにつなぎ合わせるには、溶接工としてのスキルを身につけ、磨き続けることが大切です。初めて溶接工の仕事をする場合は、なかなかうまくできなくて「きつい」「もう辞めたい」と思う人もいるでしょう。
しかし、溶接に限らず、どんな仕事でも、最初から完璧にこなせる人はほとんどいません。ひたすら練習をして、失敗から学び、様々な情報を取り入れる柔軟性を持つことで、スキルを高めていくのです。つまり、技術を学んでしっかり練習をし、柔軟な思考があれば、自然と溶接がうまくなって楽しく感じられるようになるでしょう。
溶接工の給料
溶接工の給料は、雇用形態によって大きく変わってきます。雇用・給与形態ごとの平均給与額について見ていきます。
時給
時給制が取られるのはアルバイトなどの非正規雇用がほとんどです。非正規雇用で溶接工の仕事をした場合の平均時給額は1,476円となっています。この時給額は、他の職種・業種と比較しても割合として高い水準となっています。
月給
溶接工は一般的にフルタイム勤務が多いため、正規雇用だけでなく非正規雇用でも月給制が採用されることがあります。月給制の場合、平均月給額は30万5,100円となっています。特定の資格を取得していると、別途手当が支給されるケースもあります。
賞与・ボーナス
正規雇用(正社員)として溶接工の仕事をすると、賞与・ボーナスが支給されます。正規雇用の溶接工における平均賞与額は58万9,100円となっていますので、アルバイトなどの非正規雇用の人も、のちのちは正規雇用を目指していくことをおすすめします。
推定年収
月給30万5,100円×12か月分、賞与58万9,100とした場合、推定年収は425万300円ということになります。月給、賞与・ボーナスの支給額は各企業によって異なるので、年収の幅としては425万円~480万円くらいを想定できるでしょう。
溶接工に必要な資格
溶接工として働く場合は、必ず専門の資格が必要になります。
溶接技能者
「溶接技能者」の資格は、溶接工として働くうえで最も基本的な資格のひとつです。日本溶接協会が実施する評価試験を受け、合格すれば資格を取得することができます。
溶接技能者の資格には「基本級」と「専門級」の2つが設定されています。基本級は「下向きの態勢で行う溶接、板の溶接」のみであり、専門級は「立ったままの溶接、また横向き・上向き、水平・鉛直固定での溶接、板・管の溶接」と幅広い作業が対象となります。
溶接技能者の資格は細分化されており、例えば「アーク溶接技能者」「アルミニウム溶接技能者」「ステンレス鋼溶接技能者」など、自分が就きたい職種を考えたうえで選択する必要があります。
溶接管理技術者
「溶接管理技術者」の資格は、溶接技能者よりもさらに上の資格で、溶接技術のみならず作業現場における「管理能力」が求められることになります。溶接管理技術者の資格を取得すると、単に溶接作業をするだけでなく、工事や施工現場における管理、監督、計画、実行を任せられる立場になります。溶接管理技術者の資格は、溶接技能者と同様に日本溶接協会が実施する試験に合格することで取得することができます。
溶接管理技術者として管理や監督を任せられると当然基本給も高くなりますし、給与以外の手当が出ることもあります。溶接工の仕事で収入をさらに高めたいと思う人は、溶接管理技術者を目指すのもよいでしょう。
溶接工に向いている人
溶接工に向いている人の特徴について見ていきます。
1つのことにコツコツと取り組むのが好きな人
溶接工の仕事では、1つの部材に向き合ってコツコツと時間をかけて作業をすることになります。集中して黙々と作業をこなすことが苦にならない人、1つの作業を根気強く進められる人が向いています。
素早く正確に仕事ができる人
モノづくりにおいては、なによりも正確さが求められます。正確に作業をしないと欠陥品を生み出すことにつながりますから、生半可な気持ちでは溶接工は務まりません。同時に熱している間に素早く仕事をすることも求められるので、溶接工はスピードと正確さに自信のある人ほど向いています。
細かい作業が得意な人
溶接工の仕事では、人の手でなければできないデリケートな作業も多くなります。当然そこでは技術者としてのプロの腕が試されます。細かい精密な作業を慎重に行える人ほど、失敗や事故も起こりにくくなります。大雑把な人や、「このくらいで大丈夫だろう」と楽観主義になりがちな人は溶接工に向いているとはいえません。
技術の習得に前向きな人
上述したように、溶接技能者の資格にはさまざまな種類がありますから、自分の頑張り次第では、より多くの資格を得ることができます。幅広い素材や技術を扱える溶接工になると、仕事の幅も広がり、技術者として優位に立つことができます。「新たな技術を取得することが楽しい」「技術者としてステップアップしていきたい」という人ほど向いているといえます。
溶接工は女性には向いてない?
溶接工は、男性の仕事というイメージを持っている人も多いでしょう。実際は、女性も就ける仕事ですが、そもそも女性に向いている仕事といえるのでしょうか。ここでは、溶接工が女性に向いているかについてご紹介します。
女性溶接工の割合は少ない
溶接工は、男女問わずできる仕事ですが、賃金構造基本統計調査では、女性溶接工の割合は圧倒的に男性の割合が多いのが現状です。しかし、女性溶接工の割合は年々増えており、男女比が1:1という会社もあるほど、溶接界への女性進出を推進している会社もあります。
また、日本溶接協会では「溶接女子会」という会を設置し、女性も働きやすい職場にするための環境を整備しているのです。暑さや火傷のリスクを完全になくすことはできませんが、会社によっては、女性が働きにくいという心配はほとんどありません。
溶接工では女性ならではの丁寧さも必要
溶接工の仕事は、体力やスキルが必要ですが、繊細さも求められる仕事です。溶接は、複数の鉄をただつなぎ合わせればいいというわけではありません。つなぎ合わせたところの見た目のよさや、製品にした時にぐらつきがないようにすることが重要です。
もちろん、丁寧な作業ができる男性もいますが、女性ならではの丁寧さは溶接工の仕事に適しているといえます。
溶接工に向いている女性
溶接工に向いている女性は、スポーツ経験者や根気のある人です。丁寧で細かい作業が得意な女性が溶接工に向いているとはいっても、それだけでは溶接の仕事を続けていくのは難しいです。重いものを持ったり、長時間同じ姿勢を続けたりすることもあります。
もともと男性が多い業種ということもあり、男性と一緒に働くにはスポーツ経験者で体力に自信がある人の方が、溶接工に向いているといえるのです。
また、溶接工の仕事を長く続けるためには、根気も必要です。最初は下積みからはじまって、1人で溶接をできるようになるには、数年かかることがあります。このような下積み時代に根気強く仕事に取り組める女性は、溶接工の仕事を身につけて昇給・昇格につなげることができます。
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未経験から溶接工を目指す方法
「未経験の状態から、どうすれば溶接工になれるのだろう?」と思う人も多いと思います。そこで、未経験から溶接工を目指す方法についてご紹介します。
専門知識を身に付ける
溶接工になるには、まずは専門の知識と技術を身に付ける必要があります。一般的には、工業高校、専門学校、職業訓練校の「溶接技術科」「溶接技術取得コース」などで学ぶのが普通です。中卒や高卒、また社会人になってから未経験で溶接工を目指す場合は、職業訓練校で受講して知識と技術を学ぶ方法もあります。
資格を取得する
溶接工の仕事をする場合、資格が必ず必要となります。資格がなければ即戦力の溶接工(技術者)として採用されることはありません。溶接工の資格で特に基本とされるのが「ガス溶接」と「アーク溶接」なので、まずはこの2つの資格を取得したほうがよいでしょう。専門学校や訓練学校に在籍中にいくつかの資格を取得しておけば、就職活動を有利に進めることができます。
求人に応募する
全くの未経験の状態でも、企業に入社してから溶接の技術を学んで溶接工になるという道もあります。この場合は、OJT(現任訓練)として人材を募集している企業に限られます。OJTとは、従業員に職場で実務を経験させて技術を学ばせる方法で、企業内教育の一種です。
OJTでは、いきなり溶接の訓練を行うのではなく、最初は溶接のサポート役として仕事をすることがほとんどです。未経験者は職場で教育を受ける形で溶接の技術を習得していき、数年後にようやく溶接工として仕事ができるようになります。
溶接工に応募する際の志望動機
溶接工の面接では、「なぜ溶接工を志望したのか」を詳しく聞かれます。面接官はやる気や熱意のある人物を採用したいと考えるので、しっかりとした前向きな志望動機が答えられるように準備しておく必要があります。効果的な志望動機の例をいくつかご紹介します。
「子どものころから機械をいじるのが好きで、大人になってから製造の現場で自分の技術を活かした仕事をしたいと考えていました。溶接工にはさまざまな資格があり、自分の頑張り次第で常に新しい技術を習得していけるのでやりがいを感じます。溶接工というスペシャリストを目指していきたいです」
「私は昔からモノ作りが好きで、中学生のときは半田ごてを使った電子工作に熱中していました。コツコツと時間をかけて細かい作業をするのが好きで、大人になってからもその楽しさや喜びを仕事としても味わいたいと思い溶接工を希望しました。自分が本当に楽しいと感じられることを仕事にできるのは、幸せなことだと思います」
このように、単に給料が良いからといった理由ではなく、仕事に対して前向きな熱意を語るようにすると、採用担当者にも好印象を与えることができます。面接だけでなく、書類に志望動機を書く際もこの点に注意してみましょう。
溶接工として働く場合は資格を取得するのがおすすめ
溶接工として働く場合、企業内教育が実施されている会社ならば未経験の状態で応募することもできますが、そのような条件での求人はかなり少ないのが現状です。そのため、溶接工での就職を有利にするためには、専門学校や職業訓練校などで技術を身に付け、同時に資格を取得しておくことがベストといえるでしょう。
また、採用が決まってもそれで終わりということではなく、溶接工として働きながら新しい資格取得を目指すことも大切です。資格が増えれば手当がもらえるようになるだけでなく、仕事の幅も増えてさらにキャリアアップしていくことができます。
制作:工場タイムズ編集部