どの業界にもいえることですが、その中でも特に食品工場では「異物混入」は絶対にあってはいけません。しかし、製造工場では万全を期した品質体制が整っているはずですが、21世紀の現代においても異物混入のニュースはなにかしらあるもの。
なぜ気をつけているはずの異物混入が、しばしば起きてしまうのでしょうか。今回では、製造・流通過程における異物混入について考えてみましょう。
そもそも「異物」の定義とは?
大まかな意味での「異物」の定義は、普通とは違ったもの、違和感を与える奇異なもの、となっています。体内で言いえば、周囲の対組織になじまないもの、ということになるでしょう。それでは、異物を食品の世界に限って見てみましょう。
流通の過程で、本来食品に含まれるべきでない物
異物とは文字通り食品とは異なる物のことで、本来食品の中には含まれてはいけないものです。それでも、異物というのはどこからか食品の中に入ってしまうのです。その進入経路はさまざまです。
異物の事例
食品に混入した異物の例を示します。
・鉱物性の異物
土砂・金属片(針金、釘など)・プラスチック片など
・植物性の異物
わら・もみがら・糸くず・包装紙など
・動物性の異物
寄生虫・卵・ネズミの毛やフン・昆虫・ダニ・ゴキブリ・幼虫など
この中で、動物性の異物はおいしい食品ほどつきやすいとされています。製造工程では厳しい品質管理によって、異物混入は考えづらく、多くは、食品製造後の保管・陳列中に侵入します。
異物の中でも特によく知られているのは、幼虫です。昆虫はどのような形態でも食品への侵入を狙っているのですが、幼虫は小さい上に鋭い歯を持っているので、アルミ箔やポリエチレンなどは包装などを容易に食い破って侵入することがわかっています。
対策をしていてもなかなか異物混入がなくならない背景には、設備的なもの品質管理的なものに落ち度があるか、そもそも膨大な食品をすべて管理することができず、それがコンマ数パーセントの割合で異物混入を許しているという側面があるのです。
異物混入が発生する主な原因
食品に異物混入が起こる原因には、さまざまな要素が考えられます。一般的には、食品の製造時、さらには流通販売時が考えられます。一方で、食品の原料自体にすでに異物の混入が起きてしまっていることもあるのです。
原料自体に異物が付着している
食品の原料に既に異物混入が起きている場合は、異物混入というよりも最初から異物が付着しているケースが多いようです。輸入製品であれば、すべてのものを検査することは量的に不可能です。特に大豆や小麦などになると、複数のサンプルで検査をするだけです。それでも水際で異物混入が防げているのは、殺菌消毒が優れているからです。
自然由来のものしか使っていないというのも幻想で、最初の殺菌消毒などで化学製品が使われていることも多いです。化学製品が使われているといっても、もちろん健康に被害のない程度の数値になっていて安心です。もっとも動物由来の異物だと、卵状態の場合は取り除くことができずに、食品の製造ラインや流通経路などさまざまな場面で孵化し、異物となって食品の中に入っていってしまいます。
製造工程で異物が混入する
食品製造工場ではよくあるのですが、食品を扱う清潔な区画があると思えば、一方でそうではない区画もあります。両者は明確に区別されていることが多いのですが、その部分が明瞭に分かれていない場合、その施設環境によっては異物混入が起きる可能性が否定できないのです。この場合は、工場内のホコリである場合や、作業員の頭髪や持ち物の一部などが異物混入として考えられます。
また、食品製造工場の経年劣化によって破損したものの、一部が異物として混入する場合があります。異物といっても、「消費者がこれは異物では?」と考えて保健所あるいはメーカーに問い合せることがほとんどです。すべてとはいわないまでも、正常に食品含まれているものを異物と考えてしまう場合も多々見受けられる、という現状も理解しておいたほうがいいでしょう。
異物混入を防ぐための主な対策
異物混入は食品衛生法で明確に定義してあるのかというと、そうではありません。食品衛生法の第6条4項「不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの」これだけです。明確に何が異物であるのかは定義されていないのです。そのため明確に定義していないだけ、人に健康被害が及ぶ物はすべて異物として考えることもできます。
ここでは、食品においての異物混入をさまざまなシーンでその対策を紹介します。
帽子、マスクを着用する
食品の製造現場では異物混入対策として、服装や帽子、マスク、さらには靴など、身につけるさまざまなものに気をつけなくてはいけません。帽子などは通常のキャップタイプが主流となっており、食品の製造現場では異物混入を防ぐためにさまざまな工夫が施されているのです。食品の製造現場では帽子もフードキャップと呼ぶことが多く、確実に頭をすっぽりと覆わなければいけません。そして、その中に頭髪をすべて入れるような形になります。当然ですが、髪の毛一本でも外部に出ていてはいけません。
フードキャップはさらにケープ付きになっているものが主流で、それを上着の中に入れることによって、より毛髪対策に効果的とされています。さらに、フードキャップにはインナーキャップが付属されていることが多いので、二重三重の毛髪対策となっているのです。
フードキャップと同様、マスクも必須で着用します。工場内では原則として会話は禁止されていますが、指示などの会話は認められているので、唾液や唾などが会話をすることで、外部に出ることをマスクによってくい止めるのです。工場によってはメガネをかけることもあり、フードキャップ、メガネ、マスクを全て装着すると、外部に露出する部分がないくらいに完全装備となるのです。
具体的な着用方法は以下となります。
・前髪をヘアバンドなどでおさえ、インナーネットを被ります。
このとき頭全体を覆うように、後ろ髪もしっかりとインナーネットに入れるようにしましょう。
・フードキャップを被ったら、あごの部分を留めます。
フードキャップのもみあげ部分や毛髪がはみ出していないかを鏡でチェックします。
・帽子のたれ(帽子についているネット)を上着の中に入れます。
・マスクを鼻に密着させて、あごの下まで覆います。
食材を厳密に選別する
異物混入を100%防ぐことは、残念ながら不可能とされています。しかし、まずは水際で異物混入を防ぐということを意識するようにしましょう。動物性の異物混入を防ぐ場合は、食材に卵などが付着していないかしっかり選別することが大切です。主な対策としては、人力や機械に頼るしかないのですが、ふるいやメッシュを利用するなど、野菜などの食材に付着している異物の多くはそういった方法で取り除くことができます。
定期的に機械の整備を行う など
清潔であるべき食品工場のそれぞれの区画を、しっかりと定義することが大切です。そしてその区画に、異物となりうるものを持ち込まないことが重要になるのです。また、作業員がその区画に入るときには、ホコリ取りやエアシャワーなどで頭髪やごみをしっかり取り除くこと、髪の毛や爪がすべて隠れるような作業着を装備することで異物混入が劇的に改善します。
加工機械のメンテナンスがとても大切です。製造ラインに破損個所がないかどうか、機械の寿命を超えて使っているものはないかなど、定期的にチェックをしなくてはいけません。また、金属探知機やX線回折などを利用している工場も多くなってきました。そうすることで、異物混入の検査することがとても有効なのです。大きな設備投資が必要になりますが、健康被害を最大限防ぐためのメーカーの努力事項ではなく必達事項となっているのです。
異物混入を防ぐために
異物混入は、完全に防ぐことはできないとされています。しかし、特に食品製造においては人の口に入るものですから、限りなく100%異物混入を防ぐようにしなくてはいけません。それにはさまざまな対策があるのですが、製造現場、流通現場に携わる1人1人の意識改革が必要です。また、水際での異物混入の対策も、これまで以上に熱い論議を呼んでいるようです。外来種のコンテナへの混入がこれまで以上に増えている現状から、食材に異物混入を水際でシャットアウトする施策も大切です。
制作:工場タイムズ編集部