「原価計算」という言葉をご存知でしょうか。原価と聞くと製造業で必要なものと思われがちですが、ほかのさまざまな業界でもちゃん原価計算ができていないと、経営状態が知らないうちに悪くなっていたりすることもあるくらい重要なものです。
今回はこの原価計算にスポットを当てて、原価計算がどのようなものかをはじめ、計算の仕方や業界によって求められる比率が違うことなどをご紹介していきます。
原価計算の重要性
原価計算とはそもそもどのようなものを指すかと言うと、「製品を作るためにかかった金額を計算すること」と言い換えられます。
これだけ聞くと「製品を作る製造業や飲食業以外は関係ない」と思ってしまいがちですが、「製品を作る」という言葉を「サービスを提供する」という言葉に置き換えると、病院や役所と言った接客業やインフラなどのサービス業をはじめ、第一次産業にあたる農業や漁業など、さまざまな業界に通じるのです。
そして原価計算が重要な理由は、経営に重要な以下の5つの目的を算出することができるからです。
・「いくら儲かっているか」を把握する「財務諸表の作成」
・「いくらなら元が取れるか」を計算する「価格計算」
・「ムダをなくす」ための「原価管理」
・「事前に利益を想定して予算を立てる」ための「予算管理」
・「設備や人員などの計画を考える」ための「経営上の基本計画の設定」
原価計算ができていないと、せっかく製品を作って提供しても、その製品が原価割れをしていたりムダな支出が多かったりと、企業や工場が本当に儲かっているのかがわからなくなってしまうのです。
一方、原価計算がきちんとできていると必要な在庫量を正しく把握できますし、モノを生産するときにどれくらいの材料費が必要になるか、という管理を適切に行えます。
原価と一口に言っても、材料費、労務費、経費と、大きく3つにわけられます。
・材料費=素材費や燃料費、部品費などがあたる
・労務費=従業員の給料をはじめ、労働によって発生する費用
・経費=減価償却費や賃貸料など材料費や労務費以外の原価要素
またそのすべてが、製品に直接の関わりによって発生する「直接費」と、どの製品に関わったかはっきりしない「間接費」にわけられるため、実質的に6分類から成り立っているものと言えます。
何が直接費で何が間接費なのかを、例として挙げます。缶詰のように工場のラインで生産されているもので言えば、缶詰に使われる食材や缶に使うアルミニウムやスチールは「直接材料費」にあたり、ベルトコンベアに使われるベルトや潤滑油など直接缶詰に影響していないものは「間接材料費」にあたります。
原価計算をするために原価を把握するにはこのように分類別にし、それぞれに計算をしてからでないと原価計算ができなくなってしまうので、分類別に把握することがとても重要になります。
業界で異なる原価の特徴
原価計算の重要性やその理由、原価計算をするにあたって必要となる考え方などをご紹介してきましたが、ここからは業界ごとに原価の特徴や構成比が違う点についてみていきましょう。
業界ごとに原価の特徴が異なると言っても、さまざまな業界に携わる人でもなければその違いを知ることはほとんどないと言えるのではないでしょうか。実際に業種によってどのような差があるのかご紹介します。
製造業
製造業はほかの業種と比較しても、原価の中で「材料費」が占める割合が40~60%と、非常に高くなっています。これは当たり前のことですが、製造業で製品を売るためには売れる数以上の製品を作らなければならないため、人件費を指す労務費や経費より材料費のほうが、比率が高くなるからです。
しかし最近では、パソコンなどをはじめとして企画や設計は自社で行うものの、実際の製造は外部に依頼をして作るという「ファブレス」と言われるビジネスモデルも増加傾向にあり、このような企業は「外注加工費」が含まれる経費が材料費よりも高くなるケースもあります。
飲食業
パン屋やカフェ、ラーメン店、ファミレスなど、多くの外食産業が成り立って店舗を展開していますが、一般的に飲食業においては「原価率」とも言われる材料費は30%前後とされています。
同時に30%を超えてしまうような店でも、「FLコスト」と呼ばれる「Food=原価」と「Labor=人件費」を合計したものを売り上げ全体の60%以内に収めることで、利益をしっかり出せるという考え方があります。
高級食材を使うような料亭やレストランのメニューで、値段が高い理由はここから来ていると考えれば納得できるのではないでしょうか。
IT業界
IT業界で原価と言っても、「何かを作っているわけではないので材料費はほぼ発生せず、働いている人の労務費と経費で100%になる」と考える人もいることでしょう。実際の話として、給与などを労務費ではなく、すべて経費としてひとくくりにしている会社も少なくありません。
しかしソフトウェアの開発や関連するプロジェクトなどにエンジニアが関わる場合、エンジニアに発生する給与は「経費(労務費)」ではなく、「原価(材料費)」として扱われています。
原価と言うと不自然なイメージを持つ人も少なくないかもしれませんが、このエンジニアに対して発生する原価は「売り上げにかかわらず発生する原価」で、ソフトウェアを開発しても売れなかったからエンジニアに給与が支払われないということは当然ありません。IT業界、ことさらソフトウェアなどの開発をする企業にとっては、原価の構成比は大きく変動があるものと言えるでしょう。
原価計算の求め方
業種による原価の違いなどを見てきたところで、次はどのように原価計算を行うのかをご紹介します。
原価計算には、「標準原価計算」と「実際原価計算」という2つの計算方法が存在しています。「標準原価計算」は、前もって製品をひとつ作るのにいくらくらいかかるかという見積もり(予測)を立て、見積もりの単価(標準単価と呼ぶ)を使って原価を計算する方法です。
それに対して「実際原価計算」は、「実際に製品を作ってかかった原価」を集計して原価を計算する方法です。「標準原価計算」と比べると正確な数字が出ると思われがちですが、休日に伴う生産量の変化や材料費の変動などによって左右されやすいので、一概にこちらが正しいとは言えないものです。
それでは実際に、それぞれの計算式について見ていきましょう。
標準原価計算の求め方
標準原価(標準材料費+標準労務費+標準製造間接費)×完成品数量
標準原価は標準材料費(標準価格×標準消費量)、標準労務費(標準賃率×標準作業時間)、標準製造間接費(標準配賦(はいふ)率×標準操業度)という3つのデータから成り立ちますが、標準原価が変わることはないので、完成品の数量をかけることで完成品の原価を求めることができます。
「実際原価計算」と比較すると、数字が求めやすいのが特徴です。しかし、標準原価はあくまでも予測で求められたものなので、実際額との差異がほぼ必ず発生し、どこでその差が発生したかを分析しなければなりません。この差異を「原価差異」と呼び、分析することを「差異分析」と呼び、「標準原価計算」にはこの3つがほぼ必要となると言えるでしょう。
実際原価計算の求め方
実際原価計算は「個別原価計算」と「総合原価計算」という2つにわけられ、さらに「総合原価計算」は加工形態によって分かれます。費用別原価計算と部門別原価計算、さらに製品別原価計算と直接費や間接費など、すべてを計算して足すことにより「総原価」を求め、総利益や営業利益を求める計算式です。
「標準原価計算」と違って関係するすべての計算をしなければならないため、計算に時間がかかります。しかし「標準原価計算」と「実際原価計算」を併用して使うことで、しっかりとした原価管理を行うことができます。
原価計算は経営管理や企業の利益追求につながる重要なもの
今回は原価計算にスポットを当てて、原価計算が重要になる理由や業種ごとに細かい違いがある原価の特徴、さらには原価計算の求め方である「標準原価計算」と「実際原価計算」の求め方をご紹介しました。
利益を出すためには、売り上げを伸ばして原価を減らすことが重要になりますが、原価計算をしっかりと行うことで、事業の見直しをはじめ企業の利益追求につなげることができます。
専門分野のひとつなので簡単なものではありませんが、しっかりと勉強して活かしていくのが望ましいといえるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部