ニッカポッカの基礎知識
日本ではニッカポッカという名称が広く知られていますが、英語では「Knickerbockers」と表記されるため、「ニッカーボッカーズ」と呼ぶのが正確です。ニッカポッカとは、ニッカーボッカーズの略したものと考えるとわかりやすいですね。
ニッカポッカとは、基本的にはひざ下まで丈があるゆったりとしたズボンのことです。鳶職人が仕事現場ではくときは、裾の部分を足袋の中に入れます。ニッカポッカは鳶職人の必需品である足袋との相性がよく、そのことも広く普及した要因のひとつといえます。
ニッカポッカの歴史は、主に小さな子どもがはいていた「ブリーチズ」と呼ばれるオランダあたりで生まれた短いズボンにまでさかのぼります。具体的な時期に関してははっきりわかっていませんが、オランダ人が移民としてアメリカへ渡った1700年代末期のころにブリーチズもアメリカへと渡り、その後アメリカ国内で大量生産が開始されたとのこと。
その名残か、アメリカ国内にてオランダ系移民を意味する言葉として、「ニッカボッカ」が現在も使われています。もともと子ども向けのズボンであったニッカポッカですが、いつしか大人向けのものが生産されるようになり、野球やゴルフ、乗馬のスポーツウェアとして使われたという記録も残っています。
日本でニッカポッカが広く使われるようになったのは、1900年代に入ってから。当時は大量生産がしやすくて丈夫であることから、軍服として使われていました。また、戦後は登山用のニッカポッカなども登場し、一時期広く流行しました。
その後、耐久性の高さから鳶職人をはじめとする作業員がはくズボンとして普及したニッカポッカですが、最近では足元が見にくくなることや強風を受けた際にバランスを崩しやすいといった理由から、高所での作業でははくべきではないとの声も多くなっています。よって、ニッカポッカをはいて建設現場などで作業をする際には、サイズの合ったものを選ぶことが大切です。
ニッカポッカをはく理由とは?
ニッカポッカの安全性を危惧する声は多くなりつつあるものの、現場で働く作業員にとってはやはりはきやすく、現在でも多くの職人が愛用しています。また、その理由としては、以下のことが考えられます。
足を動かしやすい
ニッカポッカの大きな特徴のひとつが、股下のダボっとしたシルエット。
建設現場などで働く作業員にとって、ズボンのこの部分が肌に密着していると足が動かしにくいのです。作業がスムーズに進められなくなるだけでなく、転落事故を引き起こしかねません。しかし、ニッカポッカは、股下に余裕があるため足を動かしやすいのが特徴です。
高所でバランスを取りやすい
綱渡りをしている人が、長い棒を横にした状態で持って行っているのを見たことがある方も多いかもしれません。高所では、この棒のような「バランサー」があるとバランスを取りやすく、建設現場などでは転落事故を予防できます。
ニッカポッカの股下部分のダボっとしたシルエットには横幅があるため、このバランサーとしての役目も担っているのです。このためベテランの鳶職人の中には、ニッカポッカをはかないとバランスが取れず不安という方も多いようです。
作業中のけがを予防できる
建設現場などでは、建材や高い場所で作業をする際に設置する足場の一部が通路にはみ出していることがあります。この箇所に足を引っかけてしまうとけがをしてしまうため、作業中は特に注意をしなければなりません。
ニッカポッカのダボっとした股下部分は、このような箇所に誤って足を引っかけてしまった際に衝撃を和らげる働きがあります。よって、けがを予防するはたらきがあると言えるでしょう。
風の強さを測れる
高所での作業中は、風の強さにも常に気を配らなければなりません。多くの経験を積んだ鳶職人においては、ニッカポッカの股下部分にあたる感触で風の強さを測れる人もいます。強風にあおられることによる転落事故の防止もまた、ニッカポッカが使われる理由のひとつといえます。
ニッカポッカの種類
ニッカポッカというと、なんとなく股下の部分がダボっとしたズボンというイメージを持たれがちです。しかし、実際は丈の長さが異なるさまざまなタイプがあるのです。作業員の間でも、ニッカポッカの長さについて好みが分かれているようです。
ロング7分
7分丈の「ロング7分」は、最もオーソドックスなニッカポッカです。多くの人はこのタイプのニッカポッカをはくと裾の部分が膝の少し下あたりに来るため、足袋の中に入れやすいというメリットがあります。
また、ロング7分は一時期流行したことから、現在でも入手しやすい種類です。「7分」と呼ばれて親しまれています。
ロング8分
「ロング8分」は、8分丈が特徴的なニッカポッカです。このタイプでは裾の部分がロング7分よりもさらに下にくるため、ゆったりとした感じではきたい方に人気があります。また、足が長い人はロング7分よりもロング8分のほうが違和感なくはることもあります。
超ロング
ロング7分の流行が下火になり始めたころから多くなったのが、裾が足首のあたりまである「超ロング」のニッカポッカです。このタイプのニッカポッカは裾の部分を足袋の中に入れた後、余った部分を折り曲げることから、長さの調節がしやすいというメリットがあります。
超超ロング
超ロングよりもさらに丈の長いタイプのニッカポッカを、「超超ロング」と呼びます。このタイプは、ロングタイプのニッカポッカの中でも人気が高く、現在では主流となっています。また、ここまで丈の長いものになるとはいたときに十分な余裕ができるため、しゃがんで作業をすることが多い方に特に好まれています。
超超超ロング
超超ロングよりもさらに長いタイプのものを、「超超超ロング」と呼びます。ここまで丈が長くなると十分なゆとりがあり保温性にも優れるため、冬だけはこのタイプをはく方も多いようです。
四超ロング
超超超ロングよりもさらに丈が長いタイプを、「四超ロング」と呼びます。メーカーによってはこれ以上の長さのあるものを製造していることもありますが、一般に流通しているものではこのタイプが一番長いです。また、ここまで丈が長くなると、人によっては作業に支障が出る場合もあります。
ニッカポッカはさまざまな現場の作業員にとって不可欠
丈夫なニッカポッカは、どのような種類でも現場を選ばず作業員の安全を守ってくれます。また、その独特な形状には見た目からはわからないようなメリットもあるため、鳶職人をはじめとした幅広い作業員にとって欠かせません。
最近ではさまざまなタイプのニッカポッカも販売されており、機能性だけでなく見た目のことも考えながら自分好みのものを探してみるのもおすすめです。
制作:工場タイムズ編集部