工場や建設現場などでは極端な高温や低温、放射性物質、粉じんなどにより労働者に健康被害が及ぶこともあります。そのような労働災害を未然に防ぐために作業環境測定士の存在は欠かすことができず、その活躍の場は多岐にわたります。
ここでは、この作業環境測定士の仕事内容や資格を取得する方法などについて解説します。
作業環境測定士とは?
作業環境測定士とは職場における有害物質などの測定を行うことで、その環境改善を図ると同時に労働者の健康を守ることも主な職務としています。また、作業環境測定士の資格は国家資格にも指定されています。
作業環境測定士の活躍の場は労働安全衛生法で定められた有害業務を行っている現場となっており、具体的には以下の条件がそろった現場が挙げられます。
高温・低温の物質を扱う、もしくは極端な高温・低温下で作業を行う現場
例えば加熱した金属の加工を行う現場では当然火傷などの危険が伴います。このような高温、あるいは低温の物質を扱う作業や高温・低温下で作業を行わなければならない現場は作業環境測定士の活躍の場のひとつとなります。
異常な気圧下で作業を行う現場
海中や特に高い山での仕事などでは気圧の変化が健康被害をもたらすこともあります。このような異常な気圧下で作業を行う現場もまた作業環境測定士の活躍の場となります。
有害物質を取り扱う現場
工場などではヒ素やクロム、水銀などを取り扱わなければならないこともあります。このような現場における環境の改善も作業環境測定士には求められます。
極端に大きな騒音が発生する現場
工場や建設現場などでは極端に大きな騒音が作業者の聴覚に障害をもたらすことがあります。このような現場にて騒音の数値を測定し、環境の改善を図ることもまた作業環境測定士には求められます。
以上のことから、作業環境測定士とはさまざまな作業が行われている現場にて環境改善を図る上で不可欠な存在といえます。
作業環境測定士の仕事内容
作業環境測定士の仕事は上記した現場の環境改善となりますが、具体的な仕事内容は多岐にわたります。続いてはその詳細について解説していきます。
有害物質のサンプリング
ヒ素やクロム、水銀などの有害物質は健康被害が表れるだけの量が流出してしまったとしてもすぐに気付くことはできません。作業環境測定士はこのような有害物質の流出をサンプリング調査をとおして未然に防ぐことを仕事のひとつとしており、そのためには有害物質に関する知識や正しい取り扱い方も必要となります。
職場環境改善のアドバイス
サンプリング調査の結果を分析し、その職場環境に問題があることが判明したら、その改善を促すためのアドバイスを事業所や企業に対して行います。また、その際に具体的な改善方法を提案することも作業環境測定士の仕事のひとつとなっています。
担当した現場の定期的な訪問
作業環境測定士は一度サンプリング調査を行ったらそれで終了ではなく、担当した現場を定期的に訪問し、再度のサンプリング調査や改善策がしっかりと実施されているかの確認も行わなければなりません。そのため、担当した現場を長期的に監視していくということも作業環境測定士の仕事となります。
作業環境測定士の資格を取ろう
国家資格である作業環境測定士の資格は受験資格や試験方法なども厳密に決められています。続いては、作業環境測定士の資格を取得する方法について解説します。
資格の種類
作業環境測定士の資格は第一種と第二種の2種類が存在します。各々の詳細は以下のとおりです。
<第一種作業環境測定士>
第一種作業環境測定士は、作業環境測定におけるデザイン(測定計画の立案)、サンプリング(試料の採取と分析の下準備)、簡易測定器による分析業務など、作業環境測定士の資格所有者に許可されたすべての業務を行うことができます。また、有害物質を対象としたこの資格は、「放射性物質」、「鉱物性粉じん」、「特定化学物質」、「金属類」、「有機溶剤」のそれぞれに特化した5種類に分類されています。
<第二種作業環境測定士>
第二種作業環境測定士はサンプリング、デザイン、簡易測定器による分析業務のみを行うことができます。また、多くの場合、第一種作業環境測定士の資格取得は、第二種作業環境測定士の資格を取得してから目指すこととなります。
受験資格
国家資格である作業環境測定士の資格は受験資格も厳密に決められています。その主なものは以下のとおりです。
「理系の大学または高等専門学校の卒業者で、実務経験が1年以上ある方」
「理系以外の大学または高等専門学校の卒業者で、実務経験が3年以上ある方」
「技術士試験の第2次試験に合格している方」
「労働衛生の実務に8年以上従事した経験がある方」
また、これ以外にも受験資格は細かく指定されているため、詳細は公益財団法人 安全衛生技術試験協会( http://www.exam.or.jp/ )をご確認ください。
受験料
第二種作業環境測定士の受験料は科目数に関係なく11,800円となっています。それに対して第一種作業環境測定士の受験料は選択する科目数や受験方式によって異なり、10,600円~27,100円までと幅広く設定されています。詳細な金額は、こちらも公益財団法人 安全衛生技術試験協会( http://www.exam.or.jp/ )にて発表がされていますので、そちらをご確認ください。
また、作業環境測定士の資格取得のためには受験料だけでなく、後述する登録講習の登録手数料として20,000円が別途必要となるため、この点も忘れないようにしましょう。
試験方法
試験は第一種、第二種共に選択肢が5つあるマークシート方式となっており、60%以上に正解すると合格となります。詳細な試験内容は以下のとおりです。
<第一種作業環境測定士>
共通科目…「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」「デザイン・サンプリング」「分析に関する概論」
選択科目…「有機溶剤」「鉱物性粉じん」「特定化学物質」「金属類」「放射性物質」
<第二種作業環境測定士>
共通科目…「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」「デザイン・サンプリング」「分析に関する概論」
作業環境測定士になるための登録講習
作業環境測定士を資格を取得したらすぐにその仕事に就けるわけではなく、法令に基づいて指定された登録講習を受講しなければなりません。また、登録講習は資格の種類によって受講機関が異なるため注意が必要です。詳細な機関名は下記のとおりです。
第一種作業環境測定士講習(放射性物質を除く選択科目)
「(公社)日本作業環境測定協会」
「(公社)関西労働衛生技術セセンター」
「(公財)大原記念労働科学研究所」
「(一財)西日本産業衛生会」
第一種作業環境測定士講習(放射性物質のみ)
「(公社)日本アイソトープ協会」
第二種作業環境測定士講習
「(公社)日本作業環境測定協会」
「(公社)関西労働衛生技術セセンター」
「(公財)大原記念労働科学研究所」
「(一財)西日本産業衛生会」
「(株)大同分析リサーチ」
労働者の健康を守る作業環境測定士の大切な役割
作業環境測定士は多くの企業や事業者を対象とすることから仕事が絶えることがなく、安定した収入が期待できます。また、それだけでなく労働者の健康を守るという大きな使命が課されるという点で作業環境測定士の仕事には大きなやりがいが伴い、今後は労災などに対する世間の目が厳しくなるほど、より大切な役割を担うことも想定されます。
作業環境測定士の資格は国家資格であることから簡単に取得することはできませんが、以上のようなメリットが伴うため、取得を検討してみる価値は十二分にあるといえます。
制作:工場タイムズ編集部