「エアーキャスター」という名前を聞いたことがありますか?
重さが数トンある物を運ぶとき、これまではクレーンやフォークリフトなどを使っていたと思いますが、エアーキャスターならそうした重機を使わなくても、空気の力を利用して人ひとりの力で動かすことができるのです。
一体、なぜそのようなことが可能になるのでしょうか? 今回は、エアーキャスターの仕組みや活用例についてご紹介します。
エアーキャスターって何?
まず、エアーキャスターがどのようなものなのかについてお伝えします。
「エアーキャスター」とは、台の上に乗せた重量物を空気圧の力で浮き上がらせることによって、小さな力で水平移動させられるようにした搬送装置です。エアーキャスターは、アメリカの航空宇宙機器開発製造会社である「ボーイング社」で、航空機の組み立て時に消費するエネルギーを削減することを目的に開発されました。その後、その有用性の高さからエアーキャスターは社外からも評価されるようになり、エアーの基礎技術のパイオニアと呼ばれる「エアロゴー社」が技術を引き継ぎ、改良を続けています。現在では日本でも運輸、物流、造船、土木などの業界で、移動・搬入出の手段として使用されています。
どうやって動かす?エアーキャスターの原理とは?
エアーキャスターがどのような原理で動いているのかについて、「ボックスカルバート」の設置作業を例にお伝えします。
ボックスカルバートとは?
私たちの生活にとって、トンネルや下水・排水用の地下道は欠かせないものです。ボックスカルバートとは地下道の床や壁、天井部分にあたる「四角くて、中が空洞になった筒状の巨大なコンクリート」のことです。四角いトンネルを想像するとわかりやすいと思います。以前まではボックスカルバートに設置にクレーンなどの重機が使われていましたが、クレーンを運転するには免許が必要です。これに対し、エアーキャスターなら空気の力を利用して重量物を移動させられるので、ボックスカルバートの搬送・設置作業にかかる手間が大幅に削減されました。
エアーキャスターを使った移動方法
まず、電車の線路のように凹型になっている基礎コンクリートの上に置かれたボックスカルバートの隙間に、エアーキャスターを設置します。そしてエアーキャスターに空気を注入してボックスカルバートを持ち上げれば、あとは地下道内の設置したい場所まで押して移動をさせるだけです。ボックスカルバートを目的の位置に移動させたら空気を抜いて、エアーキャスターを撤去すれば設置完了となります。
エアーキャスターの作動原理
エアーキャスターの装置は、重量物を乗せても壊れない丈夫な「基盤部分」と、その底部に取り付けられた柔らかい浮き輪状をした「トーラスバッグ」で構成されています。基盤にある供給口からトーラスバッグに空気が注入されるとトーラスバッグが膨らみ、そのことで床との隙間に薄い空気の膜ができて、約0.1mmというわずかな厚さながらエアーキャスターが浮いている状態になります。このとき摩擦係数が0.001~0.007程度と摩擦がほとんどない状態となるため、人ひとりの小さな力でも重量物を動かせるようになるのです。
どんなところで使われる?エアーキャスターのメリット
エアーキャスターは、その便利さからいろいろなところで活用されています。エアーキャスターのメリットと使用例をお伝えします。
エアーキャスターのメリット
エアーキャスターを使用することには、主に次の5つのメリットがあります。
1)重量物を最小限の力で動かせる2)初期コストが少なく、物流・保管コストもほとんどかからない3)本体がコンパクトなので、狭い場所でも使用しやすい4)空気の力のみを利用するため環境に優しい5) 大きな重機を使う必要がない
エアーキャスターの使用例
エアーキャスターを使えば、重さ10トンのものを30kgの力で動かすことができます。その利点がいろいろなところで活用されています。上記ではボックスカルバートの設置作業についてお伝えしましたが、ほかには寿命が来た高炉(製鉄用の溶鉱炉)の改修・設置作業でエアーキャスターが活躍しています。その方法とは、高炉をあらかじめいくつかのブロックに分け、ブロックごとに搬出すると同時に新しいものと取り替えていくというものです。そのほか「イベントの展示物の移動」や「テニスコートの観客席の移動」などにも、エアーキャスターが使われています。
重量物の移動を格段に容易にしたエアーキャスター
空気の力で重い物を持ち上げ、人の力で動かすエアーキャスター。大きな重機を使わなくても、重量物を簡単に水平移動させることを可能にしたエアーキャスターは、今後さらに改良が加えられ、今まで以上にいろいろな現場で取り入れられていくことでしょう。最近ではエアーキャスターの小型版ともいうべき「エアスレッド」も登場していて、工場や事務所などで重量物を動かしたり、リフォームや引っ越し時に重い家具を運搬するときなどに活用されています。エアーキャスターやエアスレッドともに現在は主に企業向けの商品ですが、今後は家庭用も登場するかもしれません。エアーキャスターがどんな動きをするのかを見たい人は、動画サイトにいくつか動画がアップされていますので、チェックしてみてください。
制作:工場タイムズ編集部