2020年6月に施行され、2021年6月に完全義務化となる「HACCP(ハサップ)」。この言葉を見たり聞いたりしたことがありますか?
なかには、食品の包装や外箱などに「HACCP」というマークが付いているのを見たことがある人もいるかもしれませんね。HACCPはアメリカではじまった食品の衛生管理に関する手法で、今では世界的に導入が進められています。
では、具体的にどんな手法で、導入することでどんなメリットがあるのでしょうか? 今回は、HACCPについてご紹介します。日常生活に役立つ内容もありますよ!
HACCPって何? わかりやすく教えて!
まずHACCPの基本情報をわかりやすくお伝えします。そもそもHACCPとは何でしょうか?
HACCPとは?
HACCPとは「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」という言葉の略語で、食品を製造する際に安全を確保するための管理手法のことを言います。日本語ではそのまま「危害分析重要管理点」と訳されます。HACCPは、食品の製造・出荷の工程で、どの段階で微生物や異物混入が起きやすいかという危害をあらかじめ予測・分析して、被害を未然に防ぐ方法です。この点がそれまで行われていた製品の抜き取り検査による安全確認とは大きく違うところです。
HACCPはアポロ計画が進められていた1960年代、宇宙食などの食品の安全性を確保するためにNASA(アメリカ航空宇宙局)を含むアメリカの各機関によって構想されました。その後、1973年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が缶詰食品の製造基準として取り入れたのをきっかけに普及がはじまりました。
HACCPの12手順と7原則
食品を取り扱う会社がHACCPを導入する際には、12の手順を踏まなければならないと決まっています。なかでも手順6から手順12までは特に重要で、「HACCPの7原則」と呼ばれています。
手順1:HACCPのチームを編成する
手順2:製品の名称や種類、原材料、添加物などを記述する
手順3:製品を加熱して食べるのか、そのまま食べるのかといった用途や、主に誰が食べるのかという消費者を確認する
手順4:原材料の仕入れから最終製品の出荷まで製造工程の一覧図を作成する
手順5:製造工程一覧図が現場の認識とズレがないか確認する
手順6(原則1):各工程で危害要因になりそうなものを洗い出して分析し、対処方法を検討する
手順7(原則2):加熱殺菌や金属探知など危害要因を取り除くための重要管理点(CCP)を決定する
手順8(原則3):CCPが適切に制御されているかどうかを判定するための管理基準(CL)を設定する
手順9(原則4):CCPが適切に管理されているかどうかを確認するためのモニタリング方法を設定する
手順10(原則5):モニタリングした結果、CLから外れているときに行う改善措置を設定する
手順11(原則6):HACCPが適切に機能しているかを確認するための検証方法を設定する
手順12(原則7):HACCPを実施したことを記録に残し、保存するための方法を設定する。そのことでどの工程で問題が生じたのか、ひと目でわかるようにする。
HACCPを導入するメリット
上記の手順を見ればわかるようにHACCPは合理的な衛生管理方法です。そのため、HACCPを導入すると次のようなメリットがあるとして国際的に評価されています。
・働く社員の衛生管理に対する意識が向上する
・製品に不具合が発生したときに、原因追及と改善対応が迅速に行えるようになる
・事故やクレームが減少する
・企業のイメージが良くなり、顧客の信頼度が上がる
・生産性が向上し、利益が拡大する
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HACCP認証とは? どんな種類がある?
続いてはHACCPの認証制度についてお伝えします。日本にはHACCPに関係した認証制度がいくつか存在しています。
HACCP認証とは?
HACCP認証とは、自社の衛生管理システムとしてHACCPがしっかり機能しているということを第三者から評価してもらうための制度です。合格した企業には認証機関から「HACCPマーク」が与えられます。認証機関は一つではなく、日本国内に複数の機関が存在しているため、表示しているマークのデザインもそれぞれ違います。
HACCP認証機関の代表例
日本国内には次のようなHACCP認証機関があります。
総合衛生管理製造過程
厚生労働省が食品衛生法によって定めているHACCP認証で、「乳」「乳製品」「食肉製品」「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」「魚肉練り製品」「清涼飲料水」の6つの製品に限り、取得することができます。
業界団体認証
適用の範囲が特定の業界・業種に限られているHACCP認証です。
地域認定HACCP
各自治体が独自に定めた基準で審査を行っているHACCP認証です。中小の食品会社でも取得しやすいという特徴があります。
食中毒を予防しよう! 自宅でできるHACCP!
自宅でもできるHACCPの方法をご紹介します。ぜひ実践してみてください。
食品購入時
食品を購入する際は、消費期限のできるだけ長いものを選びましょう。
特に肉や魚、野菜など冷蔵や冷凍が必要な食品については、レジに行く直前に買い物カゴに入れるようにすると、少しでも鮮度を良い状態に保つことができます。
家庭での保存時
冷蔵や冷凍の必要な食品については、家に持ち帰ったらすぐに冷蔵庫(冷凍庫)の中に入れましょう。
温度は冷蔵庫なら10℃以下、冷凍庫なら-15℃以下にし、庫内に食品を詰め込みすぎないようにすることが大事です。
下準備時
タオルやふきん、スポンジなどはできるだけ清潔なものを使い、使用後はすぐに洗いましょう。
生の肉や魚を切るときに使った「まな板」や「包丁」は、その都度よく洗いましょう。熱湯を使って消毒をすると、より安全です。
調理時
調理をはじめる前には、台所を清潔な状態にして手を洗いましょう。
加熱調理は十分に行いましょう。中心部の温度が75℃以上の状態で1分間以上加熱するのが理想的です。
飲食時
料理を載せる食器は清潔なものを選び、清潔な器具を使って盛り付けましょう。
食中毒菌は時間の経過とともに増殖してしまうため、食べ終わったものをいつまでもテーブルの上に放置しないようにしましょう。
料理を食べきれなかった場合
残った食品は早めに冷蔵庫(冷凍庫)に保存しましょう。その場合も、小分けに使う器具や容器は清潔なものを選びましょう。
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HACCPを導入して、世界基準の衛生管理システムを!
食品業界が衛生管理に神経質になるのは、ちょっと異物が混入していただけで、その企業を揺るがす大問題に発展しかねないからです。食品を扱う工場でも、徹底した衛生管理体制が取られています。HACCPはそんな衛生管理システムの一つです。アメリカでは食肉や水産食品などはHACCPが義務付けられています。EUでも同様に食肉や水産食品の製造工程でHACCPが導入されています。日本でもいろいろな企業がHACCPを導入し、製品の品質を安定させ、不良品の出荷を未然に防ぎ、問題が発生したときの原因追及に役立てています。今度スーパーなどに買い物に行ったとき、どんな商品にHACCPマークが付いているか確認してみてください。
制作:工場タイムズ編集部