インターネットもGPS(全地球測位システム)も始まりは軍事目的でした。
ドローンもまた空飛ぶ無人兵器を作ろうという発想から生まれました。それがいまやホビー用、産業用へと広がり、より高機能、高精度をめざして激しい開発競争、販売競争がつづいています。
市場はようやく立ち上がったばかり。年率100%以上で伸び続けるとの予測もあって、メーカーは目の色を変えています。
ドローンって、一体何ですか?
ドローンの仕組みや利用法を知ると、IT時代に生まれるべくして生まれてきた技術であることが納得できます。
ドローン(DRONE)とは英語でミツバチのこと。そのイメージ通り、複数のローター(回転翼)を充電池でまわして自在に飛びまわります。ちょっと興味があるなら1万円前後から手に入ります。ホビー用でも20万円前後の高級品になると、コンピュータやGPSシステムを内蔵し、3軸ジャイロセンサー、超音波センサーなども搭載しています。決められたコースを自動飛行するようプログラムすることもできます。ここまでくると、同じく無線を使うものの操縦は機影を見ながら人が遠隔操作するラジコンとは、製品化の方向性がはっきり違ってきます。
さっそく一部のマニアが飛びつき、人気が広がりはじめたところで問題が発生しました。首相官邸の屋上で墜落しているドローンが発見されたり、15歳の少年が浅草の三社祭にドローンを飛ばそうとした事件です。国も無視できず、「ドローン規制」が始まりました。人が多く集まる場所や空港周辺での使用が禁止され、夜間も禁止、昼間でも目視できる範囲で飛ばすなどの飛行ルールが決まりました。ただし、「かえって健全な需要が育つ」とメーカーは意気盛んです。
ドローンって、どこでつくられているの?
専業メーカー、大手メーカーの自社開発、さらには新興企業が入り乱れるドローン市場。次にどんなベンチャーが現れるか予想もつきません。
世界のドローン市場で先頭に立っているメーカーはDJI、Parrot、3D Roboticsの3社です。DJIは中国の会社で2006年創業です。立ち上げが早かったのが功を奏し、世界の産業用ドローン市場で7割のシェアを誇ります。アメリカの小売大手ウォルマートがDJI製のドローンを使った宅配便サービスを計画しています。
フランスのParrotは他社に先立って2010年にスマホで操作できるドローンを発売しました。アメリカの3D Roboticsのドローンは一般ユーザーでもプロ級の空撮画像が撮れるのがウリです。
一方、ホビー分野ではやや出遅れ感のある日本メーカーも産業用で巻き返しをねらいます。菊池製作所(東京)は放射線計測のニーズがある福島県に工場を置き、有害放射線を計測できるカメラを搭載した大型ドローンを開発しました。大手企業の自社開発も目立っています。建設大手のコマツは上空を10数分飛ぶ間に数百万カ所のポイントを測量するドローンを開発、またセコムのドローンは敷地内の侵入者を自動で捕らえ撮影します。大林組、NTT東日本も自社業務用のドローン開発に入っています。
ドローンが秘める可能性とは?
人件費の削減、スピード化、効率化という企業の至上命題にドローンはこたえてくれます。
ドローンの活躍がどこまで広がるか。まずは荷物の配送があります。国家戦略特区である千葉市では、ドローン研究・実験の拠点になろうと、ドローン規制を緩和しています。これを利用してドローンによる配送実験に取り組むのがヤマト運輸や楽天です。ネット通販の人気で荷物は増えるばかり。コスト削減に迫られ、ドライバー不足も深刻になっていますから業界も真剣です。
ドローンは農業のIT化をもすすめます。高精度なセンサーとカメラで農作物を眼下に見下ろして生育の状態を観察、データを蓄積していけば若者を引きつけるIT農業の始まりです。人が入り込めない場所、危険な場所での活用も活発になりそうです。いま、安全・安心の要であるインフラの点検が問題になっていますが、従来のやり方では時間もコストも膨大にかかっていたのを、ドローンなら簡単かつ低コストで行うことができます。ジャーナリズムの世界で使おうという人もいます。危険な紛争地域でも高解像度のビデオが撮影できるドローンなら安全に取材できます。
ドローンが飛び交う未来がやってくる!?
産業用のドローンに目を向けると、これが単なるオモチャではないことがはっきりわかります。ところで、「空飛ぶコンピュータ」であるドローンが普及し、たくさん空を飛び交う時代が来たら、どうなるでしょうか?ドローン同士の衝突を防いだり、旅客機や軍用機の空域に入らせないセキュリティが必要になるでしょう。そこで、ドローン専用の航空管制システムをつくろうとしているのがNASA(米航空宇宙局)です。すべてのドローンの動きや位置をモニターしながらコントロールする時代も遠くはありません。
制作:工場タイムズ編集部