大震災はいつ来るのか、予想もつきません。「地震大国ニッポン」で暮らしている以上、いつ、どこで地震の被害に遭うかわからないという前提をもとに、日頃から防災マニュアルをしっかりつくっておくべきです。
それは工場も同じです。大型で重量のある機械や最新設備、薬品、危険物を扱う工場では、もし大地震の直撃を受けても最小限の被害で食い止められるよう、いろいろな対策が取られています。たとえば、機械の転倒や製品の落下を防ぐための固定金具や落下防止バーの設置、一定の震度以上で機械が停止するシステムなど、工場ごとに必要に応じて導入が進められています。
今回は、工場の地震対策についてご紹介します。
慌てないために普段から備える!
大切なのは、定期的に避難訓練を行っておくことです。2011年の東日本大震災で震度6強の被害を受けた福島県の工場の中には「ケガ人ゼロ」「その日のうちに復旧」を実現できたところがありました。それは、日頃から避難訓練をしっかりやっていたことが最大の理由だそうです。
工場の中では、まず避難所を確認しておきましょう。大きな工場では、「1次避難所」「最終避難所」などと避難所が設置されています。もし、地震に遭遇したら自分の担当する部署はどの経路を通ってどの避難所へ行くのかを事前に確認し、避難訓練をしておくと被害を最小限に防げます。工場の中には2交代制や3交代制などシフト制のところがたくさんあります。早朝や夜間に大地震が発生したことを想定し、それぞれの場合で避難訓練を行っておきましょう。
次に、安否連絡の方法です。避難所まで無事にたどり着いた場合、誰がどのような方法で安否確認をするのか、休暇中の人とどう連絡を取り合うのかをあらかじめ決めておきましょう。つまり「緊急連絡網」を作成し、実際に連絡して訓練しておくのです。その際、固定電話より携帯電話を使いましょう。できれば緊急連絡用のメールやSNSを準備しておくのが望ましいです。理由は、大地震で自宅が倒壊したり、津波で自宅が流されてしまうと、固定電話が使えないからです。
東日本大震災のときには、いくつかの工場で緊急連絡網があったにもかかわらず、固定電話の番号しかわからず、津波で自宅が流された従業員の安否がなかなか確認できなかったところがありました。その点、メールやSNS、ネットの災害掲示板は携帯電話がつながらない場合でも使えることがあり、役立ちます。
工場内での地震対策
工場での地震対策の基本はレイアウトを整えることです。避難経路や避難スペースをしっかり確保するとともに、避難時に邪魔にならないよう配管やダクトを最短距離でつなぐ機械のレイアウトを整えましょう。危険物や薬品の入った棚やキャスター付きの機器は、固定されていないととても危険です。固定金具やストッパー、耐震マットを使用して壁や床に固定し、転倒や移動を防ぎましょう。
スチール棚の場合は、物が落ちてこないよう落下防止バーを設置するのが良いでしょう。さらに、床に蛍光テープを貼っておくと停電時でも避難経路がすぐわかります。また、大地震発生と同時に製造ラインなどが自動でストップする緊急停止システムが導入されていると、より安全性が高まります。
建物から対策を!工場の耐震
工場の耐震化を支援する取り組みを行っている自治体があります。地震で工場が倒壊や半倒壊してしまうと操業ができなくなり、復旧まで時間がかかります。中小規模の工場では地震保険に入っていたとしても、経営難に陥るおそれがあります。それでは自治体としても困ります。そこで自治体の中には、老朽化した工場を中心に耐震性の診断や耐震工事の費用の一部を助成するところがあります。
一方、工場側にとっても、耐震工事を行うことはメリットがあります。大地震でも被害を最小限に食い止めて早期復旧ができれば、経営面のダメージを抑えられます。さらに、海外の企業からすると、日本の地震リスクは有名ですから、その対策が万全だとアピールすることは会社の強みとなるでしょう。
工場の耐震化を考えるとき、いくつかポイントがあります。一つは、新耐震法が施行された1981年以前に建てられた建物かどうかです。新耐震法以降に設計された建物は、大震災発生時でも「建物が倒壊するまでに避難する時間さえなかった」という事例は報告されていません。1981年以前の建物なら、耐震工事を行うことをオススメします。
さらに、老朽化などによって床が傾いていたり、柱や梁、壁に腐食・ヒビ割れがないかといった点も重要チェック項目です。また、工場の増改築を繰り返している場合にも建物の強度が劣化しているおそれがあります。
「耐震工事をすると、その間、製造ラインを止めなくてはならないのでは?」と考える人もいるでしょう。その心配はありません。現在の耐震工事では、製造ラインを停止することなく耐震補強を施すことが可能なのです。地盤の弱いところに建てられている工場は、本格的に検討してみてはどうでしょうか?
防災意識の徹底が非常事態を乗り切る最良の手段
日本では首都直下型地震や東海地震、南海沖地震などいろいろな大地震が近い将来に起こる可能性があると予想されています。国内であればどの地域に住んでいても、地震のリスクは免れません。工場の耐震化、避難経路の確保とともに定期的に避難訓練を行っておきましょう。日頃の備えと、その地道な繰り返しが工場と社員を守る最良の手段なのです。
制作:工場タイムズ編集部