日本の技術力はいろいろな分野で世界中から注目を集めていますが、なかでも大きな脚光を浴びているのが炭素繊維です。
「鉄より強いのに、軽い」という炭素繊維の特性を生かして、飛行機や自動車をはじめ、活用の場が広がっています。
今回は、日本がトップシェアを誇る炭素繊維についてご紹介します。
炭素繊維って何?
炭素繊維とは、90%以上が炭素でできている繊維です。炭素以外の成分では主に窒素などが含まれています。なかには、ほぼ100%炭素で構成されている繊維もあります。
炭素繊維の特徴
炭素繊維の最大の特徴は、軽くて強いことです。金属としてよく使われている鉄と比較すると、重さは鉄の4分の1程度しかありませんが、強度は鉄の10倍、弾性率(変形しにくさ)は7倍もの差があります。現在も炭素繊維は日々進化を遂げています。従来の炭素繊維は300度くらいになるとゴム状に柔らかくなってしまいましたが、近年開発された炭素繊維は320度でも利用できる耐熱性を誇ります。
日本における炭素繊維の歴史
日本での炭素繊維の開発・製造は1970年代になって本格的にスタートしました。80年代に入って、国内のメーカーが技術開発を重ね、品質の向上に努めた結果、品質、生産量ともに世界№1に成長しました。現在、日本が誇る代表的な産業の一つになっています。
炭素繊維はどうやってつくられる?
炭素繊維の原材料は「プリカーサー」と呼ばれる特殊なアクリル繊維です。石油からつくられたアクリル繊維を、まず250~350度の高温で熱処理します。この作業を「耐炎化」といいます。次に1000~1500度という高温で焼成することで炭素化させます。最後に表面処理をすれば、炭素繊維の完成です。
炭素繊維のもうひとつの魅力は、地球環境にやさしいことです。通常、炭素繊維1トンを製造するのに、20トンの二酸化炭素を排出します。しかし、国内の乗用車や飛行機に炭素繊維を使用し、軽量化による燃費向上を実現できれば、年間で約2200万トンもの二酸化炭素を削減できると考えられています。炭素繊維は地球温暖化の進行を食い止める、環境にやさしい素材なのです。
こんなものにも!?拡大する炭素繊維の用途
炭素繊維は、いろいろな分野で使用されています。一般的には「炭素繊維強化プラスチック」という物質として使われることが多く、私たちの生活に密接につながっています。
飛行機
ボーイング社をはじめ、かつて機体の素材には「ジュラルミン」というアルミニウム合金が使われていました。しかし、最近の機種では主に炭素繊維強化プラスチックが使われています。ジュラルミンと比較して、軽量で、なおかつ強度が高いということが、ジュラルミンに取って代わって素材の主流となった理由です。炭素繊維のシェアは日本が7割を占めており、ボーイング787の場合は機体の35%を日系のメーカーが占めています。
自動車
自動車にも、ボディなどに炭素繊維強化プラスチックを用いるのが主流になりつつあります。以前まではF1のカーレース業界でしか使用されていませんでした。しかし、技術の進化や製造コストの効率化によって量産型の自動車にも取り入れられるようになりました。それによって車体の軽量化を実現し、低燃費化が進められると期待されています。
土木や建築部材
炭素繊維は土木や建築部材としても活用されています。たとえばコンクリート建造物に炭素繊維を貼り付けることで、建造物の耐久性を高めることができます。また、まだ実用段階には至っていないものの、吊り橋のケーブルや鉄骨に代わる材料としての活用法も検討が進められています。
医療機器
X線の透過性が高いという炭素繊維の特性を生かして、医療の世界ではレントゲン機器で使用されています。ほかには、義足などの外科装具にも使われています。炭素繊維は軽量ですから、今後は車いすや介護ベッドなど福祉器具への活用が検討されています。
モノづくりの世界に欠かせない炭素繊維
炭素繊維は軽くて強度に優れており、しかも熱に強いという化学的な安定性を持っているため、長期間使用しても劣化しないという際立った特性があります。そのため、飛行機や自動車にとどまらず、いろいろな分野への応用が期待され、世界中が注目する日本の代表的な産業になっています。
素材なのであまり目立つ存在ではありませんが、これからもさらに用途を拡大し、より身近で、私たちの生活になくてはならないものになっていくでしょう。
制作:工場タイムズ編集部