バラエティ番組で、ヘリウムガスを吸い込んで声が高くなった人を見たことはありますか?
一般的には人の声を変える効果があることで知られるヘリウムガスですが、用途はほかにもいろいろあります。実は、非常に利便性が高くて、さまざまな産業の現場で使われているのです。
今回は、ヘリウムガスについての基礎知識と意外な用途についてご紹介します。
ヘリウムって何?どうやってつくるの?
名前を聞いたことがあっても、実体はよく知られていない「ヘリウム」。どんな物質なのか詳しく説明します。
ヘリウムとは?
ヘリウムとは、無色無臭の気体です。主に産業ガスとして用いられていますが、空気中にもごくわずかに含まれています。気体の中では水素に次いで軽いのが特徴です。沸点もすべての地球上にある物質の中で、-268.9℃と一番低く、高い圧力を加えないと固体にならないという性質があります。
ヘリウムってどうやってつくるの?
天然ガスから分離してつくる方法が一般的です。ヘリウムは空気中に含まれていますが、0.001%にも満たないほどごくわずかな量です。しかも、絶対零度(-273.15℃)でなければ液体にならないという特徴があります。そんな微量しか含まれていない空気中からつくるのでは効率が悪すぎます。
一方、天然ガスには、ヘリウムが0.5~1%程度含まれていることがあります。ここから、低温技術を利用して他の物質を取り除き、純度100%に近いヘリウムガスをつくることができるのです。ちなみに、ヘリウムを採算に見合うコストで採取できる地域は限られていて、世界でもアメリカ、ロシア、ポーランド、アルジェリア、カタールの5カ国しかないと言われています。それだけ貴重な資源なのです。
ヘリウムは何に使われている?
ヘリウムが持つ特性は、私たちの生活やモノづくりの現場で幅広く活用されています。
ヘリウムガスとして
ヘリウムガスは空気よりも軽いという特性を活かして、いろいろな用途に使われています。街中で風船や飛行船が空気中をフワフワ浮かんでいる光景を目にすることがありますが、これは空気よりも軽いヘリウムガスの特性を活かしています。冒頭に紹介した声が甲高くなる現象(ドナルドダック効果)は、空気中よりもヘリウムの中のほうが音を伝える速度が速いという特性を利用しています。
また意外なところでは、光ファイバーの製造現場でも使用されています。均一で透明性のあるファイバーを作るためには、原料であるガラスを、不純物が取り除かれた状態で焼成(加熱)します。このときにヘリウムガスを入れることで、不純物の混入を防ぎ、品質を高く維持することができるのです。
液化ヘリウムとして
液化ヘリウムもいろいろな産業に利用されています。たとえば、最近注目を集めているリニアモーターカーの動力源、「超電導リニア」として使われています。超電導リニアとは、超電導の状態をつくり出すことによって、超高速での走行を可能にする技術です。超電導とは、物質を一定の温度以下に冷却することで、電気抵抗がゼロになった状態のことを指します。この冷却時のクーラーの役割を果たすのが、液化ヘリウムなのです。
液化ヘリウムは最も沸点が低い物質であるため、多くは冷却材として利用されます。医療の世界では、上記に挙げたような電気抵抗がゼロの強力な磁場を発生させる特性を利用して、画像診断機器のMRIに使われています。
世界的なヘリウム不足!これからの技術とは?
産業や医療などあらゆる分野で必要とされるヘリウムガスですが、現在世界では深刻なヘリウム不足が指摘されています。たとえば、1996年と2012年のヘリウムの輸出平均価格を比較してみると、その差は2倍以上にもなります。また、2012年にはヘリウムの供給量が悪化し、日本の国内ガス会社の倉庫からヘリウムが消える「ヘリウム・ショック」が発生しました。
原因としては、需要に比べて産出できる地域が限られていること、近年経済成長を遂げている新興国での使用量が増加していることが挙げられます。このような現状に合わせて日本の大学や企業では、ヘリウムガスの消費量を減らすための対策を進めています。
たとえば、大学研究者が立ち上げたベンチャー企業では、ヘリウム循環装置を開発し利用しています。それによって、機械類の保守期間を大幅に後ろに持っていけるようになりました。この装置から生み出されるシステムを利用すれば、ヘリウムの消費量は従来の1/100にまで縮小できると言われています。
また、日本企業の中には、ヘリウムの新たな供給源としてカタール産ヘリウムの購入権獲得に成功したところがあります。今まで日本はヘリウム輸入量の95%をアメリカに依存していたため、供給源であるアメリカで何か問題が起きた場合の対処が心配されていました。しかし、安定供給が見込まれるカタールから輸入することで、いざというときでも供給がストップしない体制づくりを講じています。
ヘリウム問題は世界共通の課題
ヘリウムガスはいろいろな分野で活用されている貴重な物質です。その半面、限られたところでしか採取されず、しかもなかなか一度に大量のガスを確保することは難しいという問題も潜んでいます。限られた資源をいかに有効利用するか、これが世界の今後の課題と言えるでしょう。ちなみに、バラエティ番組でよく使われていたヘリウムガスですが、12歳のアイドルがヘリウムガスを吸って卒倒、全身けいれんを起こすという大事故が2015年にありました。以降はほとんど番組では使われなくなっています。
制作:工場タイムズ編集部