部屋の窓やお店のショーウインドウなど、ガラスは私たちの身の回りにいつも存在します。このガラスの一種に、「見えないガラス」というものがあります。
見えないガラスとはその名の通り、「目の前にガラスがあるのに、まるでないように見える」ガラスです。一体、どのような構造になっているのでしょうか?
今回は、「見えないガラス」の性質や用途についてご紹介します。
「見えないガラス」ってどうして見えないの?
普段見ているガラスは色などがついておらず、基本的には透明です。
しかし、透明であるにもかかわらずガラスは目に見えていて、私たちは、そこにガラスがあることを常に認識することができます。これは当たり前のようでいて、よく考えてみると少し不思議なことではないでしょうか。
光がモノに当たったとき、光が何%の割合で反射されるかを示す数値のことを「視感反射率」と呼びます。ガラスに光が射したときに、その光のうち約92~96%が透過(通り抜けること)し、残りの約4~8%が反射しています。その反射している部分が目に見えているため、私たちはガラスを認識することができるのです。このように通常のガラスの場合、視感反射率は片面あたり約4%と言われています。
一方、見えないガラスの場合は、ガラスの両面が特殊なフィルムで作られた反射防止膜でコーティングされています。反射する光は約0.2~0.5%程度と大幅に光の反射が抑えられていることが、通常のガラスとの違いです。光が映り込むこともほとんどないため、目の前にガラスがあるのにないように見えるのです。見えないガラスの視感反射率は、約0.08~0.3%程度であると言われています。
「見えないガラス」用途は無限大!
とても画期的な発明の「見えないガラス」ですが、一体、どのような用途が向いているのでしょうか。
見えないガラスに適した用途の一つとして、お店のショーケースが挙げられます。ネックレス、指輪、ブローチなどの貴金属類や、フィギュアなどが飾られているショーケースに見えないガラスを使用することで、高価な商品や小さな商品などをより見やすくし、より美しくお客さんに見せることができます。
また、見えないガラスは美術館に飾ってある絵画の保護にも適しています。絵画には貴重な作品が多いですが、見えないガラスによって保護をすることにより、より良い状態で展示をすることができ、同時に傷やほこり、色あせなどを防ぐことができます。絵を鑑賞しているときに周りにいる人がガラスに映り込むこともないため、絵本来の良さをじっくり鑑賞できるのも良い点です。
ほかには、テレビ画面やモニターなど、液晶ディスプレイに見えないガラスが使用されています。液晶ディスプレイに使用すると、通常よりも画面が大幅に見やすくなります。映像や画像を鮮明に見ることができるため、映画鑑賞やスポーツ観戦のみならず、医療現場でも活躍しています。
この見えないガラスの製造技術を応用して、100%に近い割合で光を反射するガラスの開発が行われています。最近では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙プロジェクトでも見えないガラスを使用した研究が進められています。
まだある!技術が詰まった特殊なガラス
見えないガラス以外にも、特殊な機能を持ったガラスが次々と開発されています。
たとえば、「ファイアライト」。こちらは温度の変化に強く、高い防火性能が特徴のガラスです。ビルやマンションなどで火事が起きたときには、火がもたらす熱で窓ガラスが割れてしまう危険があります。ファイアライトは超耐熱結晶化ガラスと呼ばれ、熱の衝撃に強いことが最大の特徴です。800℃の熱にも耐えることができるため、火事が起きたときでも割れる心配がなく、ケガや建物の破損など被害を小さくすることができます。
「放射線遮蔽(しゃへい)用ガラス」は、優れた放射線遮蔽性能を持った鉛のガラスで、主に医療現場で活躍しています。病院で患者のX線検査やCTスキャンなどの操作を行う医師などは、操作中に微量の放射線を身体に受けています。放射線遮蔽用ガラスを使用することにより、放射線による被爆を軽減することができ、安心して仕事に取り組むことができます。
「蓄光ガラス」は、光のエネルギーを蓄えることにより、暗い場所でも光るガラスです。蛍光灯や太陽の光などを当てることによって、光から生まれた電子が「トラップ」という部分に蓄えられます。その状態が少しずつ元に戻る力を利用して発光するという仕組みになっています。ガラスが光を放つ様子は見た目にも美しいため、商業施設や駅などでオブジェとしても使用されています。
活躍場所を増やす「見えないガラス」
とてもユニークな「見えないガラス」。最近では、その優れた性能と品質の高さから、見えないガラスを使用するところが増えてきました。今後、さらなる研究が進められて、より高性能なタイプが登場することでしょう。みなさんも街の中で、「見えないガラス」を探してみませんか?意外なところで見つけられるかもしれませんよ。
制作:工場タイムズ編集部