停電になると「いかに電気が大切か」、身をもってわかりますよね。そんな毎日の生活で当たり前のように使っている電気を家庭に送り、身近な暮らしを支えているのが電気を扱うプロである「電気工事士」です。
電気工事士の仕事は、一般家庭への電力供給以外にもいくつかあります。では、どのような仕事をしているのでしょうか?
電気工事士の仕事内容や電気工事士になるための資格についてご紹介します。
電気工事士の仕事内容とは?
たとえばエアコンひとつ取り付けるときでも、勝手に電気工事をしていいわけではありません。充分な知識もなく取り付け工事をすると、事故が起きて命に関わることがあります。
そんな事故が起きないよう、安全に電気工事を行うために必要なのが電気工事士の資格です。ビルや工場、住宅など、電気を使う施設での電気工事はもちろん、鉄道電気工事、線路工事の業務などにも関わってきます。
電気工事士の業務内容は、大きく分けて「建築電気工事」と「鉄道電気工事」の2種類に分けられます。
建築電気工事
建築電気工事は、屋内・外線の配線工事、ビルのメンテナンス、エアコンの取り付け・取り外し工事などを指します。新しく建物を建てた際のコンセントや照明器具の取り付け、建物内の配線工事など、電気に関わる作業が電気工事士の仕事です。場合によっては電気工事に関連した、穴掘りやペンキ塗りといった作業を行うこともあります。
また、機械の稼働に多くの電気を使っている工場でも電気工事士は欠かせません。設備機器の新設から保全、メンテナンス、清掃、照明の交換など、工場の電気に関わる仕事に幅広く関わっています。
鉄道電気工事
電車そのものの電圧調整をしてメンテナンスする「変電設備工事」、線路や信号の整備・点検を行う「線路工事」、駅構内の照明や改札、モニターなどの機械類を整備する「駅の設備工事」などといった、鉄道電気設備に関わる作業内容が鉄道電気工事です。主に、鉄道会社や鉄道工事を受注する会社の電気工事士が従事する業務内容になります。
このような電気設備の安全を保つ電気工事士として働きたい人は、資格取得を考えると良いでしょう。資格の有無や難易度によって、工事の対応可能な範囲が変わるので、スキルの向上やキャリアアップを目指せます。
資格なしでも電気工事士として仕事はできる?
無資格の未経験者でも、電気工事士として採用している企業はあります。ただ、仕事として行う電気工事は、電気工事士の資格がないとできない業務が大半です。
資格なしで電気工事士として働く場合、最初は見習いとして入社し、仕事を覚えながら電気工事士の資格を取得していく流れとなります。
無資格では工事できない範囲
電気工事は、施工不良による人的災害などを防ぐため、主に「電気工事士法」と「電気工事業の業務の適正化に関する法律(電気工事業法)」という2つの法律で安全性を図っています。特に電気工事士法では、電気工事士の資格が必要な工事内容について明示されており、「一般用電気工作物」と「自家用電気工作物」が対象です。
一般用電気工作物は一般家庭や商店などの配電設備や小規模の発電設備などを指し、自家用電気工作物は600V以上で受電するようなビルや工場などの需要設備といった、一般用電気工作物にあてはまらない、最大電力500kW未満の電気工作物が該当します。
後述する「軽微な作業」を除いて、一般用電気工作物と自家用電気工作物の工事を行うには、電気工事士の資格を有している者でなければ、電気工事士法の違反となるので注意が必要です。
資格が必要ない軽微な工事・作業
次に挙げるような作業は「軽微な工事」として位置付けられ、電気工事士法の電気工事から除外されるため、資格の有無を問わず行うことができます。
- 差込み接続器やソケットなどの接続器、またはナイフスイッチやカットアウトスイッチなどの開閉器にコードやキャブタイヤケーブルを接続する工事
- 電気機器の端子に電線をねじ止めする工事
- インターホン、火災感知器などに使用する小型変圧器の二次側の配線工事 など
(参照元:電気工事士法施行令 第一条)
また、電気工事に分類される工事内容であっても、次のような「軽微な作業」にあたる業務は電気工事士以外も作業できます。
- 電気工事士法施行規則の第2条第1項第1号イ~オならびに第2項第1号イとロ以外の作業
- 電気工事士が従事する作業を補助する作業
(参照元:電気工事士法施行規則 第二条)
これらは電気工事士の資格に関わらず作業することが可能です。上記のほかにも作業可能な工事や電圧の制限などの細かい取り決めが定められているので、詳細は参照元の電気工事士法を確認してみてください。
法令違反による罰則
電気工事士法や電気工事業法には、違反した際の罰則が設けられています。
例えば、電気工事士の資格が必要な電気工事を無資格の者が行った場合、電気工事士法第3条の違反となり、3ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金が科せられます。
電気工事を仕事として営む場合は、電気工事業法にも大きく関わってきます。電気工事業法は、電気工事士として働く従業員より、電気工事業を経営する事業者側の規制が主となる法律です。
例えば、義務付けられている電気工事業の登録を行わずに営業した場合、電気工事業法第3条の違反にあたり、1年以下の懲役もしくは10万円以下の罰金、または両方の刑罰に処されます。
資格の第一種と第二種の違いって?
電気工事士の資格には「第一種電気工事士」と「第二種電気工事士」があり、作業できる工事内容の範囲が異なります。
第二種電気工事士は一般用電気工作物のみ行える資格であるのに対し、第一種電気工事士になると一般用電気工作物と自家用電気工作物の両方を工事することが可能です。ただし、自家用電気工作物は最大電力500kW未満の需要設備に限ります。
電気工事士の試験には、受験資格の制限がありません。第一種、第二種とも誰でも受験することができますが、第一種の免状交付には3年以上の実務経験が必要になります。また、基本的には、第二種電気工事士の免許を取得していない状態で、第一種電気工事士の試験に合格しても、一般用電気工作物などの工事には従事することができません。
条件の違いや電気工事士になるまでの流れなど、自分の状況に適した情報は電気技術者試験センターのホームページなどで確認してみてください。
電気工事士の資格の取り方
資格を取るためにはどうしたら良いのでしょうか?その手順についてご紹介します。まず学科試験が行われ、その試験に合格すると技能試験が行われるため、学科と実技の両方を勉強します。
申し込み方法
試験を受ける際には、郵便申し込みとインターネット申し込みの2種類があります。インターネットでの申し込みの方が安くなっています。
また、前年度の試験にて学科試験に合格している場合は学科試験が免除され、前年度~前々年度で一部の科目に合格している場合はその科目が免除されます。申し込みの際に必ずその旨を記載しておきましょう。
スケジュール確認方法
電気工事士の試験日程は、毎年Webサイトなどに公開されます。試験は学科と技能の二つに分かれており、それぞれの実施日と合格発表日までの日程がすべて事前に確認できます。
申し込みから資格取得までの流れ
申し込みを行った後、学科試験を受け、合格発表まで約1ヶ月掛かります。合格発表から次の技能試験まで3週間~1ヶ月程度離れていて、技能試験の合否がわかるのが1ヶ月程度掛かります。最終的に合格が決定するまでには、申し込み完了後から考えると約半年掛かります。
電気工事士の資格は独学でも取得可能?難易度や勉強方法について
電気工事士の資格は、独学でも合格を目指せます。学歴などの受験資格は設けられていない上、試験の難易度の面でも比較的合格しやすい国家資格のひとつです。
電気工事士試験の難易度
第一種、第二種電気工事士試験の合格率は以下の通りです。
第一種電気工事士 | 第二種電気工事士※1 | |||
学科試験 | 技能試験 | 学科試験 | 技能試験 | |
令和元年度 | 54.1% | 64.7% | 65.9% | 65.3% |
令和2年度 | 52.0% | 64.1% | 62.1%※2 | 72.4% |
令和3年度 | 53.5% | 67.0% | 59.2% | 72.8% |
令和4年度 | 58.2% | 62.7% | 56.0% | 72.6% |
※1 第二種電気工事士試験は上期と下期の合計による合格率
※2 上期は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止
(参照元:電気技術者試験センター 試験実施状況の推移)
近年の合格率をみるとすべて50%を超えており、合格しやすい試験であるといえます。特に、技能試験は7割前後の受験者が合格しているため、まずは学科試験をしっかり対策することがカギとなります。
試験勉強のポイント
電気工事士の合格基準は、学科試験の場合は基準点が60点、技能試験の場合は作品に欠陥がないこととされています。
学科試験は、出題内容が大きく変わることがないため、過去問題を繰り返し解く試験対策が有効です。技能試験は、電気技術者試験センターのホームページ上で候補問題が公表されているので、試験本番の時間制限がある中でも落ち着いて作業できるように練習しておきましょう。
また、令和5年度からの学科試験では、従来の方式に加え、パソコンで回答するCBT方式が導入されています。電気技術者試験センターのホームページでは、学科試験の例題やCBT方式の体験版の利用ができるので、ぜひチェックしておきましょう。(参照元:電気技術者試験センター「学科試験のポイント」第一種電気工事士試験・第二種電気工事士試験)
第二種の取得で仕事の幅が広がる
電気工事士の資格は、第二種であれば初心者の方でも取得を目指すことができます。一般住宅やオフィスビルなど、電気設備の工事やメンテナンスができる電気工事士の資格をもっていると、職場で重宝されるでしょう。また、実務の経験があり、条件を満たしているベテランの方は第一種を目指し、キャリアアップをするのもよいでしょう。
制作:工場タイムズ編集部