写真や文章を印刷するときに使うプリンター。日頃から自宅や会社で使っている方がほとんどだと思います。
そんなプリンターですが、最近では平面だけでなく、立体的な造形物を作るものづくりの現場でも使われています。
3Dプリンターと呼ばれ、様々な素材や材料を立体的に造形する次世代のプリンターなのです。
私たちの生活の中で着実に用途が広がっている3Dプリンターとは、一体どんなものなのでしょうか。
3Dプリンターとは?
3Dプリンターとは、3次元(3D)の設計データ(3DCAD、STLデータとも)をもとに、樹脂や金属などの素材から立体的なものを造形する装置です。私たちが普段使っている印刷用プリンター(2Dプリンター)は、紙などの平面上にインクを噴き付けて印刷を行います。
一方3Dプリンターは、2次元にスライスされた樹脂や金属などのデータを層にして積み重ね、デジタルデータによる立体的造形を作るための装置です。手軽に立体的なものを実体化、可視化することができるため、近年は印刷業界だけでなく、様々な業界からその活用方法に注目が集まっています。
一般的な家庭用レベルまではまだ普及しているとはいえない3Dプリンターですが、近年は使える素材・材料が増えたり、造形の精度が上がるなど、改良されて用途が広がっています。従来の印刷業のほか、製造業、医療分野などでも活用されており、本体の価格が下がっていることもあって、今後は企業だけではなく個人利用もさらに広がるでしょう。
3Dプリンターで使われる素材・材料
3Dプリンターでは、樹脂や金属などの材料を使います。現在販売されている3Dプリンターで利用できる素材は以下の通りです。
ABS樹脂
ABS樹脂はアクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)を化学的に結合した熱可塑性(ねつかそせい=常温では変形しにくいが、加熱すると軟化して成形しやすくなり、冷やすと再び固まる)樹脂。耐衝撃性、耐熱性、耐寒性、耐薬品性に優れるが、耐候性には不向きで日光に長時間さらされると強度が低下する。光沢のある外観が特徴で、原材料は薄いアイボリー色だが着色可能なのでどんな色のものでも作ることができる。最も汎用性の高いプラスチック。
PLA樹脂
PLA樹脂は「ポリ乳酸」とも呼ばれ、主にトウモロコシ、テンサイ、小麦やジャガイモなどの植物から抽出されたデンプンを発酵、乾燥させて重合した熱可塑性樹脂。ABS樹脂に比べ耐久性、耐熱性が弱く、また弾力性もなく硬いため成形に工夫が必要。成分が植物由来のため、廃棄処理後は二酸化炭素や水に分解される。地球温暖化や石油資源枯渇が問題となる石油由来のABS樹脂の代替物質として開発された新時代のプラスチックといえる。
アクリル樹脂
アクリル樹脂はアクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体の重合によって作られた合成樹脂。透明度が高く耐衝撃性と耐候性に優れているため、水族館の大型水槽などに使われている。そのほかの用途としては、戦闘機の風防(キャノピー)や自動車のテールランプなどにも採用され、ガラスよりも光を透過する特性から光学レンズにも使用されている。
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は高分子内にエポキシ基を有する化合物で、熱硬化性(=液体状の樹脂を加熱して硬化させる)樹脂に分類される。主に接着剤や塗料といった原材料として、電子部品(電子回路の基盤やICなど)や土木建築など、幅広い分野で利用されている。寸法安定性、耐薬品性、電気絶縁性に優れ、現代のエレクトロニクス製品には欠かせない素材であるといえる。
ナイロン樹脂
ナイロン樹脂は「ポリアミド樹脂」とも呼ばれ、アメリカのデュポン社が開発。女性用ストッキングをはじめとした衣類からバッグなどのアパレル製品だけでなく、自動車のエンジンカバーやペダル、ハンドルやドアなどの材料としても使われている。耐衝撃性、耐熱性に優れ着色も可能。細かい粒子でできているため表面がザラザラしているのが特徴。
石膏(せっこう)
主に粉末(パウダー)状の石膏パウダーとして、接着剤を塗布しながら造形される。主に模型やフィギュアなどの造形物に使用され、成形時間が短いこと、コストが安いことなどが特徴。素材が粉状のため造形時には粉塵対策が必要なことや、成形物は耐久性が低く脆いため、デザインの確認用などに用いられることが多い。
ゴム(シリコンゴム)
スマートフォンケースやシリコンスチーマーなど、私たちの生活にとって身近なところで使われることの多いシリコンゴム。耐熱性、柔軟性に優れ着色可能。臭いがないのも特徴で、また厚さによって硬さを調整できる素材のため、食品業界だけでなく医療業界での活躍も多く見られる原材料。
金属
3Dプリンターの素材として使われる金属は鉄、マルエージング鋼、ステンレス、アルミニウム、銅、チタン、クロムモリブデン鋼、インコネルなどさまざま。金属粉末にレーザーを照射して一層ずつ溶融させながら成形していく方式が主流。試作品として使われることの多い樹脂に対し、金属は完成品として航空機の部品や医療部品、自動車のマフラーなど数多くの用途に使われている。
3Dプリンターの造形方式
3DCAD等でプログラミングされたデータを元に、樹脂や石膏、金属などの素材を層状に積み重ねていき、最終的につくりたいものへと形づくっていきます。この仕組みが基本ではありますが、細かく分けると3Dプリンターの造形方式にはいくつかの種類があります。
熱溶解積層方式(FDM)
主に家庭用3Dプリンターで採用されている方式。比較的安価で、小型でシンプルな構造の機種が多く手軽に使いやすい。熱可塑性樹脂であるABS樹脂、PLA樹脂などを熱で溶かしノズルヘッドから噴射して層を成形していく。
粉末焼結積層造形方式(SLS)
粉末(パウダー)状の材料にレーザーを当て焼き固めていく方式。ナイロン樹脂や金属など多くの素材を使うことができ、複雑な造形にも向いている。試作品だけでなく実製品として活用しやすい。比較的高価な機種が多く、粉末対策など設置環境面での課題は多い。
光学造形方式(SLA)
液体樹脂(主にエポキシ樹脂)に紫外線レーザーを照射して、一層ごとに硬化させながら立体物を造形する方式。熱による影響が少ないため材料の収縮や変形が起きにくく、また材料が液体のため高精細かつ大型の造形に向いている。
インクジェット方式(マルチジェット・プリント方式)
インクジェットプリンターのヘッドから紫外線硬化性の樹脂を噴射し、UVランプで紫外線を当てながら固めていく方式。ピッチが細かいため高精細な造形が可能。アクリル樹脂やゴム素材など数種類の素材に対応している。
粉末接着方式(インクジェット粉末積層方式)
石膏などの粉末材料をテーブルに敷き詰め、形状に沿ってヘッドから接着剤や着色剤を塗布しながら積層し固めていく方式。従来の印刷プリンターに近い動きでスピーディかつフルカラーでの造形が可能。フィギュアや模型などの用途に使われることが多い。
3Dプリンターを使うメリットは?
3Dプリンターが登場する前は、ものづくりの現場では金属で作った型(鋳型)に樹脂などの素材を流し込む方法で造形が行われてきました。しかし鋳型を作るためには様々なノウハウが必要で、手間と時間もかかります。具体的には
・試作品を作るための型を作る
・試作品を作ってみて、修正が必要であれば型から作り直す
といったように、実際に完成するまでの期間が長くなってしまう傾向があります。
しかし3Dプリンターを使えば、3DCADなどの設計データを入力するだけで簡単に造形、ものづくりができます。鋳型を作る工程がないため、1個だけ作ってみよう、とか100個作ってみよう、などということが簡単にできるわけです。しかも3Dプリンターはそれほど場所をとりません。このように、3Dプリンターはものづくりをする上で必要なお金と時間を削減することができるのです。
3Dプリンターはものづくりのあり方を変えつつあります。アイデアをすぐ形にできることから「誰もがメーカーになれる時代が来た」とも言われています。小規模な企業や個人でも、ものづくりができる時代になったと言っても過言ではありません。
3Dプリンターで作れるもの
3Dプリンターを使えば、身近なものからこれまで作ることが困難だったものまで、いろいろな造形、ものづくりができます。3Dプリンターの本体は見たことがあるけれど、実際に3Dプリンターを使って何が作れるのかが分からないという方に、いくつかの実例をご紹介します。
スマートフォンカバー
自分だけのオリジナルスマートフォンカバーを作ることができます。量販店などでお気に入りのスマートフォンカバーがなかなか見つからなかったとしても、3Dプリンターを活用すれば自分が考えたデザインで、自分の手にフィットする厚みや大きさのものを造形することができます。このように3Dプリンターは、世界に一つしかないユニークなものを簡単に作れるのです。思いつきで実物がすぐ手に入るスピード感も大きな魅力です。
フィギュア・模型
かつてのフィギュアは、原型を作成してシリコンなどで金型を作成し、そこに材料を流して固まったものを一つ一つ筆やブラシなどを使って手で着色していくという、非常に時間のかかる作業が必要でした。今では3Dプリンターを使い、造形から着色まで一気に仕上げることができます。3Dプリンターの登場で、自分だけのオリジナルフィギュアを販売するクリエイターも増えているとか。
キーホルダー・おもちゃ
落書きで書いた子どもの絵をパソコンでスキャンし、データ化。それを3Dプリンターで造形してオリジナルのキーホルダーやキャラクターグッズのおもちゃとして造形する方が増えています。世界でたった一つだけの貴重なアイデアを具現化して、お子さんがそれで夢中に遊ぶ、考えるだけでも素敵ですね。
自動車
なんと、実際に人間が乗って動かすことのできる自動車を3Dプリンターで作ることができます。アメリカのアリゾナ州にあるLocal Motorsでは、Stratiという世界初の3Dプリンターで造形した走行可能な自動車を作っています。ただし全ての工程を3Dプリンターで製作しているわけではなく、構成部品の約70%をまかなっているとのこと。
医療用模型
医療の現場では、義手や義足の制作などでも3Dプリンターが活躍しています。人間の体は成長とともに変化していくため、義手や義足は成長過程で何度も交換する必要があり、今までは体にフィットするものを作るために非常に長い時間と手間が必要でした。しかし3Dプリンターを使えば、これまでよりも圧倒的に早い時間で、個人にフィットしたものを造形することができます。
まとめ
オーダーメイドの一点ものは制作に時間とお金がかかる、というのがこれまでの常識でした。けれど3Dプリンターがあれば、複雑にカスタムされたオーダーメイドのものでも、安価に早く造形することが可能です。
3Dプリンターの登場以前、造形、ものづくりというと難しいイメージがありました。特殊な機械を持っていることや、専門的な技術や知識が必要とされていたからです。作ることが難しいとされていたものやコストがかかっていたものが数多くあり、業界に参入できないこともしばしば。今は3Dプリンターによって、それらを簡単に、安価に造形することが可能になったので、ものづくりへのハードルが大きく下がりました。
手軽さ、便利さから家電量販店で家庭用3Dプリンターを目にする機会も増えてきました。これを機に、ものづくりに挑戦する人がますます増えるといいですね。
制作:工場タイムズ編集部