「製造業の国内回帰(かいき)」という言葉を聞いたことはありますか?
日本の製造業は、国内ではなく海外に工場を置き、そこで製品の生産をするという傾向にありました。できる限りお金をかけずにモノづくりをするためです。
しかし、最近はその海外工場を日本国内へと戻す動きがあります。これにはどんな理由があるのでしょうか。
「製造業の国内回帰」ってなに?
日本の製造業はここ10年ほどの間に、工場を次々と海外に移してきました。それはなぜでしょうか?人件費の高い日本国内の工場で生産するよりも、海外の工場で作ったほうが人件費が抑えられます。その結果、海外のほうがモノを安く作ることができるので、作ったモノの値段も安くできるという理由からです。
日本のメーカーの製品にもかかわらず、「生産国:中国」のような、日本以外の国名が書かれているのを見たことがある人も多いでしょう。その場合は、日本国内で販売するモノであっても、つくる場所は海外です。そして、海外工場から輸入をしています。そうやって、少しでも価格を下げる努力をしながら、モノづくりを続けています。
工場を海外へ移すとき、はじめは距離が近く、人件費も低い中国への進出が多数でした。しかし、中国の人件費がここ数年は高くなりました。そのため、今度はベトナムやタイといった、東南アジアの国々に工場をつくる流れができています。最近では、さらに人件費を抑えるために、ミャンマーやバングラデシュなどの、日本からより離れた国に工場をつくる企業も出てきています。お金を持っている大きな会社だけではなく、中小の製造会社も、海外へ工場を移してきました。
しかし、最近は、そんな流れに変化が見え始めています。海外につくった工場を閉鎖して、日本国内に新たな工場をつくる企業が出てきました。これが「製造業の国内回帰」と呼ばれている現象です。
大手メーカーの中には、海外生産する製品や部品の一部だけを国内生産に切り替える方針を打ち出すところが増えています。国が2014年末に行った、海外工場を持っている会社向けのアンケート「製造業をめぐる現状と課題への対応」では、約100社が「国内に一部生産を戻した」と回答しています。これらの会社には家電や電気機器、機械、自動車部品などが多く含まれています。
どうして「製造業の国内回帰」が起こったの?
では、「製造業の国内回帰」が起こった原因はどこにあるのでしょうか。
理由の一つとされているのが「円安」です。2011年の7月前後と比べると、2015年7月1日時点で47円程度の円安となっています。「円安」とは日本円の価値が下がることを言います。これにより海外の人件費が高くなったのです。人件費を安くするために海外へ行ったのに、人件費が安くならないので日本に戻ってきたということが起こったのです。
具体的には、1ドル75円(円高)のときに、月給200ドルを払う場合は、日本円で15,000円です。仮に1ドル100円(円安)となっているときは、同じ月給200ドルを払う場合でも、20,000円となります。
そしてもう一つの理由が「工場で働く人の技術力の違い」です。日本の会社の経営者は、日本の工場が持っている技術力などが、優れていることを知っています。もちろん、国内の工場では一人当たりの人件費は高くなりますが、優秀な人のおかげで、あまり人数をかけずにいいモノづくりができるのです。工場に機械を導入して、いろいろなところを自動化したりすることで、改善をすれば、人件費などのコスト削減ができるという傾向にあります。
このように、「国内回帰」が起こった理由はいくつか挙げられます。他にも、つくったモノの質や時間を守ることに対して問題があるケースもあります。そのため、国内工場でモノをつくった方がよいと判断した会社が増えたということでしょう。
「製造業の国内回帰」は今後どうなるの?
円安や工場で働く人の技術力の違いなどによって起こっている「製造業の国内回帰」。今後はどんな展開が予想されるのでしょうか。
まず知っておきたいのは、「製造業の国内回帰」が起こる一方で、海外への工場移転もまだまだ続いているということです。人口の減少によって、国内でモノを買ってくれる人が減っていたり、取引のある会社が海外であったりと、背景はいろいろ。つまり、国内に戻ってくるだけではなく、海外へ出ていくという流れは今でもあります。
ただ、「海外進出は重要。だけれども、日本に残すべきところは残す」といった姿勢をとっている会社が多いです。そのため、国内の工場がより忙しくなる可能性もあります。そうなれば、当然、国内の工場で働く人材が必要になるので、今よりも工場の求人が増える可能性は高いでしょう。短期間で、高品質のものがつくれる国内工場。日本の工場ワーカーへのニーズは、今後も増えるのではないでしょうか。
まとめ
製造業が海外移転を進めていた流れは、変わろうとしています。その原因は海外の工場で生産するメリットが少なくなったこと。そうなれば、技術力や信頼性で勝る国内の工場で生産したいと考える企業も増えます。これが「製造業の国内回帰」なのです。この新たな流れによって、国内の仕事が増え、より求人が増える可能性があります。日本の未来を左右するかもしれない「製造業の国内回帰」に、今後も注目してみてください。
制作:工場タイムズ編集部