「ハラール認証」という言葉を聞いたことがありますか?最近、ニュースや街角で「ハラール認証」という言葉を見聞きしたという人もいるかもしれません。
ハラール認証はイスラームと密接に関係しています。日本にもムスリム(イスラーム教徒)は約11万人いると言われています。みなさんの知人や工場で働く人の中にも、ムスリムの人がいるかもしれません。2020年の東京オリンピックへ向けて、その数はさらに増えるでしょう。
ムスリムの人たちの文化を正しく理解するためにも、今回はハラール認証と日本についてご紹介します。
ハラール認証って何? 食べていいもの、だめなもの
ムスリムは創造主である唯一神アッラーを信仰しています。したがって、「してよいこと(ハラール)」と「してはいけないこと(ハラーム)」の区別もアッラーが決めた基準に従います。「ハラール認証」とは、このハラールの中でも食品について、「食べてよいもの」ということです。では、どんな食べ物なら食べて良いかというと、主に次の3つが挙げられます。
1)イスラームの教えで禁止されている食材を含んでいないこと
2)なるべく自然に近い状態で飼育・栽培されていること
3)イスラーム法に則って食品処理されていること
具体的な食品は次の通りです。
肉食品
「自然に近い状態で育成され、絞殺・銃殺されたりせず、ムスリムによって正しく処理された」牛、鶏、羊
魚介類
天然の魚や、「自然に近い状態で栽培された」エビ
野菜
天然のきのこや、無農薬栽培の野菜
飲料
天然水や果汁100%ジュース
反対にハラームである食品とは、先ほどの1〜3の条件を満たさないものです。アルコールや豚肉のように、特別にハラームが決められている食品もありますが、多くは人間にとって有害であるために、ハラームとされています。また、食品自体はハラールであっても、それらを育て、食品として製造する過程にハラームとされる餌や行為が混じっていると、食品もハラームとされてしまいます。たとえば、豚を含んだ飼料を使用することや、豚を処理した器具でそのままほかの肉を処理することが挙げられます。遺伝子組み換え作物も、「自然に近い状態」を満たしていないために、ハラームな食品とされます。
では、実際にどのようにして「ハラール認証」が下りるのでしょうか? ハラール認証を発行している団体は世界各地に存在し、その基準も国や地域によって、わずかに違います。そのため、仕事の拠点を置く地域をエリアとする発行団体に申請すると良いでしょう。認証には大きく2つのステップがあります。
1つは、ハラールの基準を満たしていることです。これは先ほどの1〜3の項目をもとにチェックされます。
もう1つは、衛生面と安全面が十分であることです。これら2つの基準をクリアすると、「ハラール認証」が発行されます。
ハラール食品って日本でも作られているの?
次に、ハラール食品に対する日本の取り組みについてお伝えします。
日本の中でも空港は、諸外国からの玄関口として、早い段階からハラール食品に取り組んでいました。最近では、単にハラール食品を提供するだけでなく、うどんや、そばといった日本の代表食である「和食」を、ハラールの基準のもとで提供するようになっています。街中では、ハラール認証マークを提示しているレストランを見掛けるようになりました。しかも空港と同じように、和食をハラールで提供している店舗が登場しています。和食はアルコールを含むみりんなどを使用するため、ムスリムは日本に旅行に来ても和食を食べられない状態にありましたが、食事可能な店が出てきました。また日本に住むムスリムは、インスタント食品を食べようとしても、それがイスラームの教えに則って正しく調理・製造されているか不明なために、食べられませんでした。しかし最近ではハラール認証を持つ食品メーカーが現れています。それらは大学の研究機関と提携しながら、ハラール食品を製造しています。
ただし、食品メーカーが1つのハラール食品を製造するには、主に次のようなハードルがあります。
・原材料にハラームが入っていないことを1点1点証明すること
・製造の過程でアルコールの発生や使用がないこと
・添加物などに、豚由来の成分が含まれていないこと
・使用する器具や機械、製造ラインはハラール食品の専用にすること
・食品工場は豚舎から十分離れていること
こうしたハラール認証のためには、工場を1つ別につくらなければならないこともあります。しかし、そうしてでも認証を得たい企業があるということは、それだけハラール食品への注目が集まっていることを表しています。
なぜ日本でハラールが注目されているの?
最後に、日本でハラール熱が高まっている理由について説明します。理由は主に3つあります。
1つ目は、2020年に開催予定の東京オリンピックの影響です。オリンピックが開催されると、世界中から大勢の選手、関係者、観光客が日本に押し寄せます。その際にハラール認証は、ムスリムに対する売り上げを拡大するのに役立ちます。オリンピックをチャンスと見て、多くの観光客を相手にビジネスをするためには、ハラール認証は不可欠です。
2つ目は、日本の観光立国化の動きです。2013年に訪日観光客数は1000万人を初めて突破しました。しかしこれは世界30位の数字に過ぎず、観光が日本を支える産業となるためには、まだパワー不足です。しかし、ここで立ちふさがるのが日本独自の文化です。先の和食もその一例です。日本の文化を体験して魅力を感じてもらうためには、宗教上の制限はあらかじめクリアしておくことが大切です。観光の門戸を広く開放するためには、ハラール認証が鍵なのです。
3つ目は、ムスリムの人口の多さです。世界人口のうち、ムスリムは約4分の1を占めています。ハラール認証がないというだけで、彼らに対してビジネスができないというのは、もったいない話です。国際化の進む現代で会社が生き残るためには、国や宗教にとらわれないビジネスが大切です。ハラール認証はその一つの証明になるでしょう。
グローバル化への切符、ハラール認証
日本には日本人だけでなく、多くの外国人が暮らしています。いろんな国籍の人が一緒に仕事をしている職場もあるでしょう。現代は人やモノが国境を飛び越えて行き来する「グローバル社会」になっています。そんな時代に、日本人だけを相手にするビジネスでは損をします。できるだけ多くの人とビジネスをしていくためにも、ハラール認証は重要です。ムスリムからすれば、イスラームについて理解してくれているという安心材料になります。空港や街でハラールメニューに対応したレストランを見つけたら、一度食べてみてはどうでしょうか?
制作:工場タイムズ編集部