会社の方針や考えを重視した商品開発・生産・販売を行う「プロダクトアウト」が注目を集めています。顧客ニーズを重視する「マーケットイン」の対義語として知られるプロダクトアウトの戦略によって、いままで多くのヒット商品が生み出されてきました。
ここでは、プロダクトアウト・マーケットインの意味をおさらいし、プロダクトアウトによる企業戦略や過去の成功事例を取り上げます。
プロダクトアウトの意味
製造者視点で、製造できる商品や戦略開発すべき商品を作り、販売すること
マーケティング用語の一つに「プロダクトアウト」という言葉があります。これは、企業側の視点で、開発・生産・販売を行うことを意味します。商品開発において、顧客ニーズよりも企業が「作りたいモノ」や「作れるモノ」を重視する考え方です。いわば「企業主導の思想」と言えるでしょう。
高度経済成長期においては「大量生産・大量消費」が続き、企業主導の商品開発が推し進められ、良いモノを作れば売れるという時代でした。
自動車や電化製品から日用品まで、いわば商品中心主義の傾向が色濃く、実際に好景気もあいまって消費の拡大が続き企業も好況に沸きました。そういった時代にあっては、企業主導でモノを作ることは非常に有効でした。
しかし不況期に入り、それまでの考え方ではモノが売れない時代に入りました。商品の過剰供給によって、企業業績が下がりました。いくら良いモノを生産しても売れない時代においては、顧客ニーズをくみ取るマーケティングの手法が重視されるようになりました。
対義語はマーケットイン
プロダクトアウトの対義語は「マーケットイン」です。これは、企業や商品主導ではなく、顧客ニーズや消費者の意見を取り入れた商品開発を行うことを指します。企業が独りよがりにモノを作って販売するのではなく、顧客の求めている商品や必要な商品を調査して商品開発することを重視します。
モノが売れない時代にあっては、商品の差別化が重要になります。競合他社の商品を分析するとともに、市場や顧客を知ることが重要です。
このように、プロダクトアウトとマーケットインによる商品開発が、それぞれに有効な時代がありました。それでは、現在の市場環境においては、プロダクトアウトとマーケットインのどちらの考え方がより商品開発で重視されるべきなのでしょうか?
インターネットやスマートフォンの普及に伴って、顧客は今まで以上に多くの情報を手に入れられるようになりました。そのため現代は顧客中心の時代ともいわれています。そうした一人ひとりの顧客ニーズを掘り起こした商品開発(マーケットイン)を重視すべきかと言うと、実は一概にそうとは言えません。過去にはプロダクトアウトで革新的な商品を生み出し、近年もまたプロダクトアウトの戦略で成功を収めている企業が多数現れているからです。
プロダクトアウトに必要な戦略
自社の強みを認識し、顧客に対して提供できる価値を把握する
アップルの「iPhone」やソニーの「ウォークマン」などは、プロダクトアウトの戦略で大きな成功を収めました。自社の強みをよく理解し、技術力を最大限に生かした商品開発に注力した結果だと言えます。
また自社の技術力によって、顧客に何が与えられるかを把握していた点も重要です。顧客主導ではなく、自分たちができることを冷静に追い求めた結果と言えるでしょう。
マーケットインの戦略は、ニーズに沿った商品開発のため、顧客や市場に与える影響や価値は限定的で、想定の範囲内に収まるのが普通です。一方で、アップルのように、自社の商品に確固たる哲学を持った商品は、大きなイノベーションを起こすことがあります。顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、新しい価値を創造する可能性を秘めているのです。
従来なかった価値を創造し、顧客に提供する
こうしたプロダクトアウトによるイノベーションは新しい価値を作り出し、市場を拡大させます。多くの顧客は、自分が本当は何が欲しいのか、何が本当に必要なのかを完璧には理解していません。そうした消費者からの聞き取りを行って商品開発を行ったところで、企業が成功を収めるのは難しいでしょう。
特に価値感が複雑化し消費行動が多様化している今日にあっては、消費者ニーズを追い求めすぎるあまり、商品開発にブレや迷いが生じてしまうことが多々あります。むしろ顧客の声に惑わされずに、企業側が独自に商品開発することが重要になってきています。
プロダクトアウトの主な事例
電子レンジ
プロダクトアウトで成功を収めたのは、アップルなど最近の先進企業だけではありません。成功事例として、1960年代から70年代にかけて市場に投入された電子レンジが挙げられます。
電子レンジは、実は軍事用レーダーの技術転用で生まれた製品です。当時は「料理を温め直す」という考え方は一般的ではありませんでした。また電子レンジで料理を温めると発がん物質が発生する、などといったネガティブな声も聞かれました。しかし米国市場での普及が進むにつれ、日本でもその価値が見直され、今では各家庭に必ず1台はあるような生活必需品にまでなりました。
商品を市場に投入することで、価値を変容させ、市場を創り出した好例と言えるでしょう。
イヤホン
先に挙げた「ウォークマン」に関連して実は「イヤホン」も、プロダクトアウトの成功事例の一つです。音楽は基本的に自宅やホールで聞くことが当たり前とされていた時代には、通勤や通学など外出時にも「音楽を持ち出せる」という考え方は消費者にはあまり浸透していませんでした。
しかし積極的な広告活動や普及活動などを経て徐々に認知度を高め、今では音楽鑑賞はもとより、映画や動画の観賞など、外出先でイヤホンを使うのは普通のことと言えるまで普及したのは皆さんご存知の通りです。
空気清浄機・ロボット掃除機
空気清浄機やロボット掃除機なども、発売当初は市場の評価はあまり芳しくありませんでした。
空気清浄機は、当初はフィルタを通して埃などを除去するシステムでした。それをプラズマクラスターなど新しい技術を使うことで、市場に新しい価値を産み落としたのです。現在ではさまざまな分野でプラズマクラスターの技術が転用され、新しい価値を創造しています。
ロボット掃除機も同様に、現在はさまざまなメーカーが競うように商品開発をしています。自動で部屋の掃除をしてくれるロボット掃除機は、現代人の生活を一変させたと言えるでしょう。現在では自宅だけでなく、事務所や店舗などより大きな施設などでもロボット掃除機が活躍しています。
スマートフォン
ほかにもプロダクトアウトには多くの成功事例がありますが、最後に特筆すべきは、やはりアップルの「iPhone」に代表されるスマートフォンです。現代人の生活や行動を変えたスマートフォンは、さまざまな情報に瞬時にアクセスできる端末の普及で、消費者行動を激変させました。
こうしたプロダクトアウトで生まれた製品は、どれも一様に大きなイノベーションを生み出す可能性を秘めています。企業は「マーケットイン」だけでは生み出せない「プロダクトアウト」の戦略を取り入れる価値が、今後も十二分にあると言えるでしょう。
今後も続く、プロダクトアウトとイノベーションの可能性
企業の視点に立った商品開発・生産・販売を行う「プロダクトアウト」の戦略は、市場に新しい価値を生みだす可能性に満ちています。顧客中心の時代にあっては「マーケットイン」の考え方が重視されがちですが、かつての電子レンジやイヤホン、さらには近年のスマートフォンやロボット掃除機まで、プロダクトアウトによって生まれ爆発的にヒットした商品は多数あります。
企業は自社の強みを認識し、顧客に対して最大限の価値を提供するため、プロダクトアウトの戦略を取り入れた商品開発に注力してみるのも、有効な経営手段だと言えるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部