一定期間継続して勤務をした社員に、退職時会社から支払われる「退職金」。しかし、この退職金は、実は法律で支払わなければいけないと決められてはいないのです。そのため、中には退職金制度自体を導入していない企業も。このことから、退職金とは退職する社員の長年にわたる会社への貢献への感謝や、労いの気持ちが込められたものととらえると分かりやすいでしょう。
退職金は当然退職をした際にしか支払われないため、転職経験がある場合などを除き、ほぼすべての人が一度しか受け取ることはありません。また、退職金としてどれくらいの金額が支払われるのかを公表していない会社も多いことから、自分が退職時にどれくらいの退職金をもらえるのか分からないという方も多いことでしょう。
今回は、退職金の相場や仕組み、受け取るときに注意すべきポイントをご紹介します。退職を考えている方や定年退職が近い方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
退職金の相場とは?
まずは、退職金の相場を見ていきましょう。ここでは、厚生労働省 中央労働委員会が発表した「平成29年退職金、年金及び定年制事情調査」の内容を出典元とします。
【出典元】
「平成29年退職金、年金及び定年制事情調査」
(厚生労働省 中央労働委員会)
https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/chingin/17/dl/index3-07.pdf
※上記のPDFデータは下記サイトからご確認いただけます。
https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/chingin/17/index3.html
まず、退職金の相場について考える際には、最終学歴、職種、勤続年数の各条件によって支給金額が大きく異なるということを覚えておかなければなりません。これらの条件の違いによって支給される退職金の金額には、実際にはどれくらいの差が生じるのでしょうか?
最終学歴
まずは最終学歴の違いによって表れる、退職金の差についてです。ここでは、事務・技術(総合職)の製造業で60歳まで勤務した場合をモデルとして見ていきましょう。
大学卒業後すぐにこの業界に就職し、60歳まで勤続した後、会社都合退職をする場合の平均退職金額は3,0376,000円となっています。これに対し、同様の条件で、高卒で就職した人の場合、平均退職金額は2,6427,000円となっています。
このことから、高卒の場合は大卒に比べ勤続年数が長くなることから退職金も多くなると考えがちですが、実際には大卒のほうが平均で約400万円も退職金が多く、退職金額を決める際にも最終学歴が重視されていることが分かります。
業界
つづいて、職種の違いによって生じる退職金額の違いを見てきましょう。ここでは高卒で就職し、60歳まで働いた場合の「事務技・術職(総合職)の調査産業計」と「生産の調査産業計」、それぞれの退職金相場を比較したいと思います。
「事務・技術職(総合職)の調査産業計」のケースでの平均退職金額は、2,5781,000円であるのに対し、「生産の調査産業計」のケースでの平均退職金額は2,0614,000円となっています。このことからは業界が違うだけで退職金の相場は約500万円も違うことが分かり、業界の違いもまた退職金の相場には大きく影響するといえるでしょう。
・勤続年数
最後に、勤続年数の違いによって生じる退職金相場の違いを見ていきましょう。ここでは、事務技・術職(総合職)の製造業に大卒で就職し、勤続20年で退職した場合と、勤続35年で退職した場合を比較します。
勤続20年で退職した場合の平均退職金額は1,0616,000円であるのに対し、勤続35年で退職した場合の平均退職金額は2,6692,000円となっています。このことから、勤続年数が長いほど退職金額は多くなることが分かります。
ただし、業界によっては、60歳以降に退職した場合の退職金額が60歳で退職した場合に比べて少ないといった例外もあります。
退職金の仕組み
つづいて、退職金の仕組みについて見ていきましょう。退職金の仕組みには以下のような特徴があります。
企業によって異なる制度が導入されている
退職金制度を導入することは法律で義務づけられているわけではないため、退職金制度に関する規定もまた法律で定められておらず、企業側は都合のよい制度を導入することができます。
また、このことから退職金制度を導入しないという選択肢もあるため、退職金を支払う余裕がないことも多い中小企業の退職金制度導入率は、大企業の退職金制度導入率に比べて2割ほど少ないという事実もあります。
退職一時金制度、企業年金制度の2種類がある
多くの企業が導入している退職金制度は、「退職一時金制度」と「企業年金制度」の2種類に分けられます。
このうち退職一時金制度とは退職時に退職金が一括で支払われる制度で、大企業を中心とした多くの企業が導入しています。この制度では退職金規定に則って支払いが行われるため、規定が変更されない限り会社がどのような経営状態になっても退職金の支払いが保証されます。
一方、企業年金制度には「確定給付年金」「確定拠出年金」「厚生年金基金」などの種類があり、退職後、一定期間にわたって国民年金のように毎月退職金が支払われます。また、場合によっては生涯にわたって毎月一定の退職金が支払われることもあり、退職後の生活をより安定させることができます。
前払い制度を採用している企業もある
退職一時金制度や企業年金制度と比較すると導入している企業は少ないものの、退職金の前払い制度もあります。この制度では基本給やボーナスにプラスする形で年金が支給されていき、勤続年数が長くなるほど毎月の支給額が多くなるという規定を設けている会社もあります。
退職金の給付を受けるときの注意点
前払い制度のような一部の例外を除いて、基本的には退職をしてから給付が開始される退職金。これを受け取る際には、以下の点に注意する必要があります。
退職金規則の変更がないか確認しておく
退職金に関する取り決めは企業によって異なることから、就職時にどのような退職金規則が導入されているかを確認しておいたという方も多いかもしれません。しかし、退職金規則は変更される可能性があるため、支給を受けるころになって初めて自分の認識していた規則が変わっていたという場合もあります。
そのため、退職金の支給を受ける際には、今一度就業規則内の退職金規則を確認し、変更がされていないか確認をするようにしましょう。
退職理由によっては支給額が変わる場合もある
通常、退職金は会社都合によって退職する場合には満額が支払われます。よって、定年退職やリストラなどであれば、そのときの勤続年数に合った退職金を受け取ることができます。
しかし、自己都合による転職や自身の過失を原因とする解雇によって退職をする場合、退職金は減額されることや、場合によっては全く支払われないということもあります。このことから、退職理由もまた退職金額に影響するということを覚えておく必要があります。
どれくらいの税金がかかるのか把握しておく
退職一時金では一度に得る金額が多いため、課税の対象となります。よって、退職金の給付を受ける際にはどれくらいの税金がかかるのかを把握しておく必要もあります。
国税庁では退職金に対する税金負担を軽減できるよう配慮しており、通常の給与とは別の計算方法を設けています。この計算方法は勤続年数などによって異なるため、詳細は国税庁が発表する公式の情報を参照するようにしてください。
また、退職金に対する所得税の控除を受けるためには「退職所得申告書」を会社へ提出する必要があるため、退職前に用意するようにしましょう。
退職金の相場は条件によって大きく異なる
退職金額は勤続年数や最終学歴、業界などの条件によって大きく異なることから、その相場には大きな幅があります。このことには、退職金に関する取り決めが法律でされていないということが大きく関係しており、就職をする際にはどれくらいの退職金がもらえるのかという点もよく考えながら、業界や企業を選ぶ必要があるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部