近年、「就職が難しい」「仕事がない」と言われる一方で、製造業は人手が不足していると言われています。
その理由は、企業側が技術者や専門職の採用を増やしたことや、漠然としたイメージから製造業への応募のハードルが高くなっていることが考えられます。
日本企業では人手不足にもかかわらず、就職難民はいまだ増え続けているのが現状です。両者はどうすればマッチするのでしょうか。
今回は、製造業の人手不足の原因と、解決へ向けた取り組みについてお伝えします。
日本全体が人手不足?
「職があるというのは、選ばなければ仕事はあるという意味だ」と言われますが、これは正しくはありません。雇用統計などを見ると、2014年11月から労働者が足りない企業が、全体的に増加傾向にあるのです。中でも製造業、運送業、医療、接客業などで人材をより多く採用する動きが見られます。
日本全体の景気が回復傾向にあったことも人手不足に拍車をかけました。たとえば小売りが儲かれば物流が盛んになり、トラックドライバーの需要が増えます。東京オリンピックに向けて建設ラッシュが起こり、各都道府県で工事作業員の追加採用が進められています。このように、企業にとっては人手不足の悩ましい状況が続いているのです。
求人はあるのに、なぜ仕事がない?
各業界で人手不足と言われる中で、なぜ私たちは仕事がないと感じるのでしょうか。それは、企業の求人募集が仕事を探す人に上手く届いていないか、届いていたとしても誤解を生んでいることが理由として考えられます。
たとえば、企業が募集を専門職という枠組みにすれば、未経験の人や大学の専攻が違う人は、応募がしづらくなってしまいます。また就職先に悩む人の中には、時間に制約のある主婦や、体力面が心配される高齢者などが多いという現実もあります。こうした求職者の状況を受けて、企業では雇用形態の見直しや労働環境を改善する動きが見られます。
また、雇用形態に関してはパートやバイト、契約社員で働いていた人を正社員として登用する場合が増えています。これは人手不足を受けた流れであり、人材獲得競争がより激しくなるのを見込んで、先に人員を確保しておきたいという企業側の強い姿勢の現れです。
人手不足の原因とは?
製造業の人手不足の原因とは何でしょうか。大きく二つの要素があると考えられます。
製造業に対する漠然とした不安や疑問
一つは製造業に対する先入観が強いことが原因です。製造業と言うと「力仕事があるのでは?」「休日が少なそう」「専門の知識がなければ採用されないのではないか」という不安や疑問が先行しがちです。製造業の本来の状況を伝えていかなければ、根本的な人材不足解消は見込めないと言います。
この状況を受け、国や企業は、製造業のイメージアップに取り組み始めています。それが、製造業での労働環境を整備するための「5S活動」です。これは「整理・整頓・清掃・清掃・躾(しつけ)」を意味していて、労働環境を整え、安全・快適に働けるように工場を改善する取り組みです。
少子化が人手不足に拍車をかける
日本社会の大きな課題でもある少子化問題も、大きく影響しています。仕事の数は増えても、若者の数が増えなければ人手不足は解消されません。また、大手企業へ就職したい安定志向の強い若者も依然多く、中小企業では人材の確保がしづらくなっています。
人手不足は解消できる?できない?
人手不足を解消するためには、労働環境を見直すだけでなく、企業側と職を得たい人をつなげることが大切です。政府の「ものづくり白書」(2015年版)でも「ものづくり人材の確保と育成」がモノづくり産業の大きな課題として提示されています。その課題を解決する取り組みとして、白書では「専門的な技術を学べるポリテクカレッジ(職業能力開発大学校/職業能力開発短期大学校)のカリキュラム見直し」や、「ものづくりマイスターと連携したモノづくりの魅力を発信するイベントの実施」「女性技術者の育成」などを例として挙げています。
モノづくりへの女性進出
モノづくりは男性中心のイメージがありますが、最近は「リケジョ(理系女子)」を支援する活動も活発に行われています。中部経済産業局は、「製造業を中心に働く女性(ものづくり女子)を応援するサイト」を開設しました。モノづくりに勤(いそ)しむ女性たちを紹介するとともに、研修情報を掲載するなど情報提供に力を入れています。
モノづくりに気軽に親しめるファブスペースが増えつつある
製造業のイメージアップを図るために、モノづくりを気軽に楽しめるスペース(ファブスペース)が増えています。機械や金型などの専門知識や技術がなくても、クラフト(手芸品)感覚でモノづくりを体験できるため、特に主婦や学生に人気が広がっています。
工具は、近年デジタル化や低価格化、小型化によって購入しやすくなりました。ファブスペースに置かれている工具も種類が豊富になりつつあります。こうして、より手軽にモノづくりに挑戦できる環境が整ってきているのです。今話題の3Dプリンタを使うクラスや、初心者から上級者向けのワークショップなど、自分の興味に合わせて体験できるのがうれしいポイントです。
人手不足を解消するには、相互理解が重要
今、日本の企業は全体的に人手が不足しています。特に製造業・運送業・接客業・医療などの人手不足が目立ちます。どれも、専門のスキルがなければ就職できないのではないか、体力勝負のきつい仕事が待っているのではないか、というネガティブなイメージを持たれがちです。しかし実情はまったくイメージと違う場合が多いです。モノづくりの現場は、国も連携して改善しつつあります。モノづくりに興味があるなら、町の商工会議所や公民館で、まずはワークショップ体験をしてみてはいかがでしょうか。
制作:工場タイムズ編集部