10年ほど前から「仏像ブーム」が続いています。
仏像巡りの旅行ツアーが次々組まれたり、仏像関連の書籍が数多く出版されたり、仏像関連の展覧会に100万人近い人が詰め掛けたことが話題になりました。若い世代の仏像ファンも多いようです。なかには、仏像を見るだけでは飽き足らず、自分で彫って「マイ仏像」を作る人もいます。
では、自宅で趣味として仏像を彫ることは簡単にできるのでしょうか? 今回は、初心者からできる仏像彫刻の魅力についてご紹介します。
どんな仏像が作れるの?
実際に仏像作りを始める前に、まずは仏像の主な種類や特徴をお伝えします。
如来(にょらい)
「釈迦が悟りを開いた姿」が如来だと言われています。つまり「仏陀(ブッダ)」のことです。仏像の中でも最高位です。「阿弥陀(あみだ)如来」「釈迦(しゃか)如来」「薬師(やくし)如来」「大日(だいにち)如来」などがあります。如来の特徴は、パンチパーマ風のヘアスタイルです。これは「螺髪(らはつ)」といいます。服装は質素ですが、「薬師如来」については手に「薬壺(やっこ=小さな薬箱のこと)」を持っているものがたくさんあります。
菩薩(ぼさつ)
「修行中の釈迦」をモデルにしたのが菩薩だと言われています。「悟りを求める者」という意味があり、仏陀になることを目指して修行している姿です。もともと仏陀は貴族の出身ですし、菩薩はまだ修行中なので、派手な装飾品を身につけています。代表的な菩薩には「観音(かんのん)菩薩」「弥勒(みろく)菩薩」「文殊(もんじゅ)菩薩」「地蔵菩薩」などがあります。たくさんの手を持つ「千手(せんじゅ)観音」も観音菩薩で、多くの人に手を差し伸べて救おうとしている姿です。
明王(みょうおう)
如来の教えに従わない人を救おうとしている仏像です。怒りの表情を浮かべて、動きのあるポーズをしています。なかでも、「お不動さん」と言われる「不動明王」がよく知られています。炎を背中にまとった勇敢な姿は圧倒的ですが、本当は心優しい仏と言われます。
天部(てんぶ)
「毘沙門天(びしゃもんてん)」や「大黒天(だいこくてん)」「弁財天(べんざいてん)」「韋駄天(いだてん)」「帝釈天(たいしゃくてん)」などがよく知られています。仏教の「守護神」で、仏教を信じる心を邪魔する者から人々を守る役割があると言われます。
彫刻に必要な材料・道具とは?
次に、仏像彫刻のときに使う木材や道具の種類をお伝えします。
木の種類
仏像彫刻に向いている木材の特徴は、材質が均一で、耐久性に優れていることです。とはいえ、入手するのが難しいものでは趣味にできないので、ネットなどで簡単に購入できるものが良いでしょう。代表的な木材は「木曽檜(きそひのき)」や「樟(くすのき)」です。
木曽檜は、収縮が少ない材質で、現存する多くの仏像に使われているスタンダードな木材です。堅さや耐久性はもちろん、艶や芳香にも優れ、別名「火の木」とも呼ばれて、縁起がいいとされます。
彫刻した後の立体感がよく表現できるのが樟です。大木もあり、「一木仕上げ」(継ぎ足したりせず、一本の木を彫って作る仏像)に相性が良いことが特徴です。ただ、木曽檜より収縮が大きいので、仏像の素材として使う前に、よく乾燥させておきましょう。
ほかには、安価で入手できることから仏像彫刻の練習材として使われることが多い「木曽松」、レリーフや欄間(らんま)彫刻によく使われる「桂」などがあります。
仏像彫刻に必要な道具とは?
彫る道具は彫刻刀です。彫刻刀には、深い切り込みができる「印刀」、平に削れる「平刀」、広い面を大まかに彫り進めるときに使う「丸刀」、曲線の感じをうまく出せる「三角刀」などがあります。彫刻刀は、学校で使うものであれば数千円ほどで買うことができますが、仏像彫刻で使う彫刻刀をひと通り揃えようとすると、入門セットで3万円程度します。
彫刻刀に加えて、こんな道具があると便利です。たとえば、水平線を引くには「トースカン」と呼ばれる道具があると良いでしょう。仏像の目など、左右対称となる部位の高さを合わせるときにトースカンを使います。凹凸があっても水平線を引くことができるので、仏像彫刻にはとても役立ちます。
また、彫刻しているうちにナマクラになった彫刻刀の刃先を手入れできるのが「ミニハイスケア」という彫刻刀研磨機です。小型で持ち運びができる上、家庭用電源でも使うことができます。こまめにミニハイスケアで刀研ぎをすれば、彫刻刀の切れ味を保つことができます。
趣味でできる!仏像彫刻の魅力とは?
ストレスの多い日々の生活や仕事から離れて、心静かな時間を過ごせるのが仏像彫刻の魅力です。特に、手先が器用で、「モノづくりに興味がある」「一生続けられるような趣味を持ちたい」という人にはピッタリでしょう。「彫刻刀を手に取るのは中学生以来」という人が多いかもしれませんが、初めは良い作品ができなくても、少しずつ上達していきます。この「うまくなっている」という実感と、自分の手で彫って仏像を完成させたという達成感を味わえるのがもう一つの魅力です。
「仏像を彫る」というと、「そんな畏(おそ)れ多い」と感じる人がいるかもしれません。しかし、仏像ブームもあって、仏像彫刻を始める人は年齢、性別に関係なく大勢います。仏像彫刻教室は全国にありますし、著名人でも「千の風になって」で知られるテノール歌手の秋川雅史さんが玄人はだしとして知られています。今や、手軽に始められる趣味として幅広い世代に親しまれているのです。
仏像彫刻の面白さを体感しよう
仏像彫刻というと、ハードルが高いイメージがあったかもしれませんが、材料と道具さえ揃えれば、手軽に始められる趣味なのです。子どもの頃から工作が好きな人、忙しい日々の中に落ち着いた自分だけの時間を持ちたい人、仏像に興味がある人などは興味を持って取り組むことができるでしょう。仏像彫刻教室に通う時間がないという人でも、最近では、仏師が仏像彫刻を教える動画がWebサイトにあります。興味のある人は、ぜひチェックしてみてください。
制作:工場タイムズ編集部