石油や石炭など資源の乏しい日本では、これまでにいろいろなエネルギー開発の研究が行われてきました。原子力もその一つですが、2011年の東日本大震災以降はこれ以上積極的に開発と利用を進めるのは難しい状況になっています。
一方で近年注目を集めているエネルギー源の一つに「バイオマスエネルギー」というものがあります。このバイオマスエネルギー、名前を耳にしたことがあるという人でもどんなものかを詳しく知っている人は少ないかもしれません。
そこで今回は「バイオマスエネルギーとは何か?」について解説します。
バイオマスエネルギーとは?
バイオマスエネルギーは、薪や炭のような形で日本では古くから活用されてきました。薪や炭の元は植物です。植物は光合成して、太陽エネルギーを蓄え、根から吸収した水と空気中の二酸化炭素を利用して自ら栄養分(炭水化物)と酸素をつくり出します。
植物はその後、動物に食べられたり、木材として利用されます。こうした植物や動物などの生物体(バイオマス)を利用するのがバイオマスエネルギーです。つまり、もともとは植物が蓄えた太陽エネルギーであると言えます。現在バイオマスエネルギーは、石油、石炭、天然ガスに次いで世界で4番目のエネルギー資源です。
バイオマスを燃やした際に出る熱を利用して電気を起こすことを「バイオマス発電」といいます。バイオマスを燃やすと二酸化炭素が排出されますが、これはもともと光合成で吸収した二酸化炭素に由来していると考えられます。そのため、バイオマスを燃やしても空気中の二酸化炭素の量はプラスマイナスゼロという計算が成り立ちます。こういう考え方を「カーボンニュートラル」と呼びます。
バイオマスエネルギーって何があるの?
次に、バイオマスエネルギーの元になる原料について説明します。
木質バイオマス(廃材、木くずなど)
手入れがされていない森林は、木がうっそうと生い茂っていて、木と木の間隔が非常に狭くなり、太陽の光が十分に届かなくなっています。こうした状態を未然に防ぐために定期的に伐採を行います。そのときに伐採された木は「木質バイオマス」として薪などに利用されます。
ほかには建築廃材や製材廃材、流木が木質バイオマスです。ボイラーやストーブの原料として活用されるのはもちろん、バイオマス発電として活用されています。発電時に燃やして二酸化炭素を排出しても、それを吸収してまた木々が育つわけですから、素晴らしいサイクルです。
バイオエタノール
サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを利用して作る「エタノール」のことです。エタノールとはアルコールの一種です。原料にはほかに、さつまいも、じゃがいも、麦、糖蜜、テンサイなどがあります。こうした原料を発酵させ、蒸留してつくるのです。このバイオエタノールをガソリンに混ぜたり、あるいはガソリンの代わりにそのまま使って車を走らせる「バイオ燃料」としての取り組みが注目を集めています。
バイオガス
生ごみや食品廃棄物、動物の排泄物などに残る有機性廃棄物から発生するガスが、バイオガスです。家畜の排泄物や生ごみは、熱による分解や発酵を経て、肥料として畑に還元されます。発酵の過程で発生するガスは、発電機の燃料などに利用されます。
バイオディーゼル
菜種油やオリーブオイル、腐食用油などを原料にしたものが「バイオディーゼル」で、ディーゼルエンジンに利用されています。バイオエタノールのように発酵させる必要がなく、つくり方は簡単です。ただし油分の粘度が高いことから、そのままでは使いづらく、化学処理をしてグレセリンという成分を取り除き、軽油に近い状態にして使用します。
問題は? バイオマスエネルギーへの期待と有効活用法
バイオマスエネルギーは、「太陽光」「地熱」「風力」などと並んで、日本が研究開発に力を入れている分野です。再生可能エネルギーであり、カーボンニュートラルであることから環境にやさしいエネルギーとして大きな期待と注目を集めています。米国とブラジルではバイオエタノールの利用が進んでおり、特にブラジルでは車の燃料としてガソリンにバイオエタノールを混ぜるのが義務化されています。
一方、日本でも、ごみや藻を利用して自動車や飛行機を動かそうという取り組みが民間でも広がっています。サプリメントとして知られるミドリムシを飛行機の燃料に使おうという研究も進んでいます。
ただし、こうしたバイオ燃料については問題がいくつかあります。代表的なものは以下の3つです。
1つはコストの問題です。原油安の状況が続いていますが、今後バイオ燃料を普及させるためには、既存のガソリンなどより価格を安くしないと難しいでしょう。
2つ目は生産量です。バイオ燃料の普及をさらに進めようとすると、サトウキビやトウモロコシを大量に消費します。しかし、現在の生産量ではとても賄えません。耕作面積を増やす大号令を国を挙げてかける必要があります。
3つ目は食物をエネルギーとして利用することで、肝心の食糧が不足するおそれがあるという点です。世界的に見ても、食糧はエネルギーではなく、まず食べ物として活用すべきだという意見があります。
課題をクリアし、本格的な実用化を
自然の力を最大限に活用した、環境にやさしいエネルギーとして研究開発が進むバイオマスエネルギー。石油を大量に消費する時代から、廃材やごみ、藻などを自動車や飛行機のエネルギーとして本格的に利用する時代へ――。
「エネルギー革命」とも言うべき変化の波は、すぐそこまで来ています。まだいろいろと課題はありますが、資源の乏しい日本にとっては、本格的な実用化が待たれるところです。
制作:工場タイムズ編集部