自動車や家電などに使われる大量生産の機械部品の多くには、鋳造によって作られた部品が使用されています。そのため、鋳造は日本のもの作りにおいて欠かすことができない技術のひとつといえます。
鋳造の作業は工場や特殊な環境でしか行われておらず、一般人がその工程を見ることはあまりありませんので、実情を詳しく知らない方は多いでしょう。そこで今回は、この鋳造とそれによって作られる鋳物の特徴やメリット、作業上生じやすい欠陥などの不具合についてご紹介します。
鋳造とは?
鋳造は紀元前4000年ごろには既に行われていた金属の加工方法のひとつであり、日本においては青銅製の鏡や大仏などの製作、建立においてもこの技術が活かされていました。そのため、この技術自体の歴史は非常に古く、また、世界的に見ても古くからもの作りの重要な役割を担ってきた技術ということができます。
鋳造の基本的な方法は、熱することでドロドロの状態にまで溶かした鉄などの金属をあらかじめ作製しておいた鋳型に流し込み、それを冷やすことで固めるというもの。一度鋳型を作ってしまえば、同じサイズや形の製品を大量生産することが可能なため、近代産業の発展においてこの技術の存在は大きかったといえるでしょう
この鋳造の技術を活かして加工ができる素材としては、鋳鉄、鋳鋼、銅合金、チタン合金、アルミニウム合金など、さまざまなものが挙げられます。それぞれの金属の特性を活かすことで、現在では強度や見た目などが特に優れた鋳物の製造にも、鋳造の技術が活かされています。
また、同じ鋳造でも薄く複雑な形をした鋳物の製造に適した「ダイカスト法」や、見た目や寸法の正確性が特に高い「ロストワックス製造鋳造法」、遠心力を利用して中心が円柱状の空洞になった鋳物を製造することができる「遠心鋳造法」など、さまざまな方法が発明されており、そのことから鋳造の技術の重要性はより高まっていることがわかります。
鋳造で使用する鋳型の種類
鋳造の技術を応用して製品を作るときは、熱した金属を流し入れる鋳型の種類が製造する製品の特長に合うことが重要となります。鋳造に使われる鋳型は「砂型」と「金型」の2種類に分けられますが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
砂型
「砂型」と呼ばれる鋳型は、その名のとおり砂を固めて作られています。鋳物を造る際には「砂型」に溶けた状態の金属を流し込み、金属が固まったら「砂型」を壊して鋳物を取り出します。そのため、ひとつの「砂型」で製造ができる鋳物はひとつ。よって、同じものを量産する場合には「砂型」での鋳造は向いていません。
一方、「砂型」はその素材である砂が安価なので、コストを抑えることができます。また、砂は鋳型の素材として使うときに形状の自由度が高いため、デザインの細かい製品の鋳造にも「砂型」は向いています。
金型
「金型」はその名のとおり、金属で作られた鋳型です。何度も繰り返し使うことが可能なため、「金型」を使った鋳造は同じ型の大量生産に適しているというメリットがあります。
ただし、金属は切削がしづらいことから砂に比べて形状自由度は低く、通常は複雑なデザインの鋳物の製造には適さないというデメリットも。なお、最近では「金型」を使用した鋳造の方法として「精密鋳造法」や「ロストワックス法」、「シェルモールド法」なども一般的になっており、これらの方法を使えば「金型」でもデザイン性の高い鋳物が製造できるようになっています。
鋳造の特徴とメリット
それでは鋳造を行うことによって得られるメリットとしては、どのようなものがあるのでしょうか
大量生産が可能
「金型」を使用した鋳造の場合は同じ型を何度も使用できることから、短時間で大量生産がしやすいという点が鋳造の大きなメリットです。また、大量生産では同じ型を使うので、寸法やデザインなどの個体差が生じにくいという点も鋳造のメリットといえます。
鋳物の強度が高い
鋳造の工程では型に流し込んだ金属を圧縮するため、金属内部の結晶が整うことにより強度が非常に高くなります。そのため、特に自動車や航空機の部品など、特に高い強度が必要となる製品の製造においても、鋳造の技術は活かされています。
金属の特性を活かしやすい
鋳造で製造する製品の素材としては、鋳鉄、鋳鋼、銅合金、チタン合金など、さまざまな金属が利用できます。これらの金属には、耐食性や耐熱性が優れていたり、軽量であったりなどといった独自の特性を持っており、それらを活かした製品を作ることができます。
薄い製品やデザイン性の高いの製造も可能である
もともと鋳造には、薄い製品やデザイン性の高い製品の製造には不向きであるというデメリットが存在しました。しかし、今日では「消失模型鋳造法」や「ロストワックス精密鋳造法」などを用いることにより、薄い製品やデザイン性の高い製品の製造も可能になりました。
鋳造で起こる不具合
メリットばかりではなく、鋳造の過程においてはさまざまな不具合が生じることがあります。
寸法不良
鋳造においては、設計時の寸法どおりに製造できない場合があります。この原因としては、設計時の採寸ミスや型の加工や組み立てにおけるミス、さらには溶かした金属を鋳型に流し込み、固めるまでの間に生じた技術的なミスなどが考えられます。特に鋳造に使用した「金型」に問題がある場合にはそれを破棄しなければならなくなるため、加工においては十分な注意が必要です。
ひけ巣
ひけ巣とは、固めた鋳物の内部に大きめの空洞ができてしまった状態のこと。このような不具合は鋳物の強度にも大きく影響を及ぼすことから、特に高い強度が必要な自動車や航空機の部品の製造では、このひけ巣が生じないよう細心の注意が必要です。
ひけ巣ができる原因としては、液体が固体に変わる際の体積収縮や溶かした金属の量が不十分であることなどが挙げられますが、いずれの場合も技術的なミスがなければ防ぐことができます。
割れ・亀裂
鋳物は、表面に割れや亀裂を生じさせる場合もあります。このような不具合は鋳物の冷却中に生じることが多く、原因は液体が固体に変わる際の体積収縮が考えられます。鋳物の割れや亀裂を防ぐためには型をいくつかに分割し、ひとつずつ適切なタイミングではがしていくという方法が有効です。
さらに進化する鋳造の技術
昔は「金型」や「砂型」に溶かした金属を流し込み固めるだけだった鋳造も、今では「消失模型鋳造法」や「ロストワックス精密鋳造法」など高度な製造法が発明され、それによって従来の鋳造のデメリットが解消され、新たなメリットも生まれています。そのため、鋳造過程で生じがちなひけ巣や割れ、亀裂などといった不具合も、今後は有効な対策が開発されることが予想されます。
このように鋳造の技術は日々進化を遂げており、今後もさまざまな製品の製造においてその技術は活かされていくことでしょう。
制作:工場タイムズ編集部