完成したばかりの船を初めて水に触れさせる儀式が「進水式」です。
進水式と同時に、船主が船に名前をつける「命名式」が行われます。つまり、船の誕生を祝うとともに、航海の無事を祈る式典なのです。ブラスバンドの演奏曲が流れ、紙吹雪やリボンが大量に舞う中を進む船の様子を見たことがある人もいるでしょう。
今回は、船の進水式についてご紹介します。
進水式の歴史
進水式というのは、いつごろから行われているのでしょうか?その歴史から説明します。
進水式の歴史
船づくりは紀元前3000年からの歴史を持っていますが、いつごろから進水式が始まったのか正確なことはわかっていません。ただ、古代ローマの時代(紀元前753~1453年)には、ワインを使って船を清める儀式が行われていた記録が残っています。また、船の甲板に草花を敷き詰め、そこにお酒を注いで祝う習慣などもあったようです。
バイキング(海賊)たちは進水式で、奴隷を生贄(いけにえ)として神にささげたと言われています。それが人間の血から動物の血に変わり、今ではワインになったとの言い伝えがあります。
現在、進水式ではシャンパンの瓶を船首に叩きつけて割る儀式が行われます。これは18世紀に赤ワインの瓶を船首に叩きつけたことが起源とされています。ヨーロッパでは女性が行うことが伝統になっています。これは19世紀初めにイギリスの皇太子が軍艦の進水式で女性に赤ワインの瓶を船に叩きつけて割るよう命じたことから来ているものです。
日本ではシャンパンの代わりに日本酒を使うことがあります。ほかには、教会の船にはミルク、禁酒法時代のアメリカではジンジャーエールが使われることもありました。
進水式の種類
進水式には大きく分けて二種類あります。それぞれ紹介します。
進水式
造船台(船を組み立てる台)から進水台(船を水面へ下ろす台)を滑りながら入水する方法です。船首側から入水すると勢いがついて転覆する可能性があるので、船尾側から入水します。
ドック方式
重量が20万トン以上ある大型の船舶は進水台を滑らせると、重すぎて事故につながるおそれがあります。そのため造船台に乗った状態でドック内に水を注ぎ、船を浮かび上がらせるのがドック方式です。ドック方式は水を注入するだけなので進水式を行わず、その後、船主に引き渡すときに命名式だけを行うのが一般的です。
進水式ってどんなの?
進水式はどのような流れで行われるのでしょうか?
進水式の式次第とは?
まず命名式を行い、船に名前をつけます。次に船と造船台をつないでいる「支綱(しこう)」と呼ばれる一本の綱を「銀の斧」で切断します。支綱にはシャンパンのボトルや、くす玉がつながれていて、綱が切られると同時にボトルとくす玉が船首にぶつかって割れます。その瞬間、くす玉から大量の紙吹雪やリボンが出てきて空を舞います。するとブラスバンドの演奏が始まり、船尾から進水します。
瓶が割れないと、その船は不幸になると言われます。そのため、手で直接船にぶつけて割ったり、瓶を船に投げつけて割ることもあります。最近では、2014年にイギリスのスコットランドで行われた、イギリス最大の軍艦となる空母「クイーン・エリザベス」の命名式で、エリザベス女王自らウイスキーのボトルをぶつけて割り切りました。
支綱を切断する「銀の斧」は、悪魔を振り払うと言われる縁起物です。また、支綱も縁起物とされ、妊婦の腹帯や安産のお守りに使われています。
日本では船の命名は通常、男性が行います。これは明治時代、軍艦の進水に天皇陛下が臨席され、海軍大臣が命名するように決められたことに由来します。
個人での進水式
船は企業や国だけでのものではありません。個人として漁船やボートを持っている人も大勢います。個人で行う進水式については決まった形はありません。一般的には、日本酒を船や海にまいて清め、にぎやかなパーティーを開催します。その際、神主を招いて神事を行い、安全や大漁を祈念します。
華やかな進水式は一見の価値あり!
新しく船が生まれた瞬間は、赤ちゃんの誕生と同じように祝福されます。ヨーロッパでは進水式で、赤ワインなどの瓶を船首に投げて割るのは女性の役割です。人の命を乗せて海に渡る船はまさに「母船」なのです。日本ではコンテナ船や客船など、各地の造船会社が進水式を行っています。造船会社のWebサイトを見ると、進水式の日程が掲載されているところがあります。見つけたら、一度見学に行ってみてはいかがでしょう?ダイナミックで華やかな進水式は一見の価値があります。
制作:工場タイムズ編集部