塗装といっても、家の壁からプラモデルまで塗るものはいろいろあります。
では、「造船塗装」という言葉を聞いたことがありますか?これは単に船に色を塗ることではありません。船の安全性にかかわるとても大事な仕事です。未経験でもできるので、船好きの人には魅力的な仕事かもしれません。
今回は、造船塗装の仕事についてご紹介します。
造船塗装の重要な役割とは?
一般的な塗装作業の役割とは、装飾や保護のために材料の表面に塗料を塗ることです。小学校の図工の時間にペンキやニスを塗った経験がありますか?では、船に施す塗装にはどんな効果や役割があるのでしょうか?
船艇の保護
造船塗装の役割のひとつは、フジツボやカキなどの貝類、海藻類などが船底に付いて汚すのを防ぐことです。これらの生物が船底に付着すると、スピードや燃費に悪影響を与えます。船によっては振動などの影響が出ることがあります。
船の底に塗る「船底塗料」には二つのタイプがあります。塗料自体が少しずつ水に溶けて生物の付着を防ぐ「自己消耗型」がひとつ。もうひとつは、塗装面から防汚剤が染み出て付着を防ぐ「高硬度型」です。どちらのタイプも、船底に付きやすい水棲生物の繁殖期に合わせて年二回(五月・十月)実施します。
錆やカビの腐食を防ぐ
大気中よりもはるかに鋼材の腐食が早いのが海水です。そのため船体が海水で濡れると二~三日で赤錆が発生し、腐食が進行します。こうした腐食から船体を守るのに優れている塗料を使用することで錆止めを行います。
造船に赤い塗料が塗られている理由
船好きの人にはおなじみですが、船底は赤く塗られています。これはデザインのためではありません。船体にはさまざまな色があるのに、船底だけは共通して赤色なのは、塗料に銅が含まれているからです。
一般的な船底は、錆止め塗料を下地として塗り、仕上げとして色彩塗料を塗って二重ガードを行います。これで十分ではなく、さらにその上に赤褐色の「亜酸化銅」を塗ることで船底が強化され、世界の大海原を旅するのに耐えられる船舶になるのです。この亜酸化銅という成分は水棲生物が嫌う化学物質のため、大きな効果を発揮しています。
造船塗装の工程とは?
次は造船塗装の進め方をご紹介します。それぞれの工程を順番に説明します。
ショッププライマー塗装
「プライマー」とは、最初に塗る塗料という意味です。ここでは船をつくる材料である鋼板を錆から守るために行う第一次塗装を意味します。下塗り塗装なので速乾性があり、その後の工程で使われる塗料との相性が良い塗料を使います。
ブロック塗装
塗装工場や屋外の施設内で、船のブロック(船首、貨物部、船尾など)ごとに塗装を行います。腐食や汚れ、生物の付着を防ぐための塗装です。
外板塗装・船内塗装
仕上げの塗装です。外板塗装は船台(造船所で修理するときに船体を乗せる大きな施設)やドック、船内塗装は岸壁で塗装を行うのが一般的です。
船舶の塗装ってどうやるの?
では、実際に船舶の塗装がどのように行われるのか、流れに沿って見ていきます。必要になるのは船底塗料、ハケ、ローラー、トレー、マスキングテープ(作業箇所以外に塗料がはみ出ないようにするための保護テープ)、スクレイパー(へら状の器具)、金ダワシ、サンドペーパー(紙やすり)などです。塗装するときはマスクや帽子、メガネ、手袋を着用します。
付着物を取る
まずは表面の付着物をスクレイパーなどで削ぎ落とし、水で塩分をキレイに洗い流します。
サンドペーパー掛け
塗り替えをする場合、もともと塗られていた塗料は一度除去します。そのため船底全面にサンドペーパー掛けを行います。その後に、水などでホコリを除去します。
塗装
喫水線(きっすいせん)と呼ばれる船舶が浮いているときに水面に接している境界線に沿って、マスキングテープを貼ります。
ここから塗装が始まります。新艇の場合には、接着効果の高いプライマーを塗ります。塗り替えの場合には、ムラが出ないようしっかり塗り込むのがポイントです。冬は塗料が固まって塗りにくいことがあるため、シンナーで薄めて使います。また、プロペラや合金部分には専用の防汚塗料を使用します。
仕上げ
表面が乾燥してきたら、二回目の塗装を行います。夏は四~五時間、春・秋は八~十時間、冬は十~十五時間程度が乾燥時間の目安です。喫水線など水圧流が強く掛かる場所は、増し塗りをしておくことが大切です。そしてマスキングテープを剥がし、二回目に行った塗装を乾燥させれば完了です。
船の安全を守るのが造船塗装という仕事
「色を塗る」という仕事とは、ひと味違う造船塗装。大海原を日々泳ぎ続ける船の命にかかわる工程です。そんな仕事だからこそ、やりがいは大きいもの。しかも未経験からできるので、船好きの人にはたまらない仕事でしょう。興味のある人は「造船塗装」や「船舶塗装」という言葉で検索してみてください。さらに詳しい造船塗装の知識や具体的な仕事内容がよくわかりますよ。
制作:工場タイムズ編集部