家電製品や通信機器などで高性能な機器が簡単に手に入るようになり、私たちの身の回りには「センサー」が内蔵された機器が数多く存在します。そんな“機器の性能を向上させるための”センサーにはさまざまな種類が存在しますが、その中でも「ジャイロセンサー」は、高性能な計測機器としてデジタルカメラやスマートフォンなどのデジタル機器だけでなく、ロボットなどにも搭載されています。
一方、より身近な存在になっているジャイロセンサーは、利用用途の豊富さとは裏腹に、詳しい機能についてはあまり知られていません。そこで今回は、このジャイロセンサーの機能や種類、活用例などについて解説します。
ジャイロセンサーとは?
高性能な電子機器などに搭載されるセンサーのうち、物体の動きを検知するセンサーのことを「慣性センサー」と呼びます。慣性センサーは、搭載された機器の周辺で発生する物体の動きに応じて機器の動作を変化させる働きがあり、例えば人間の動きを感知して点灯するライトや、野球のボールのスピードを計測するスピードガンにも、加速度センサーなどの慣性センサーが内蔵されています。
ジャイロセンサーはこの慣性センサーの一種であり、ジャイロセンサーを内蔵した機器の回転角度の変化を検知する「角速度センサー」とも呼ばれます。この角速度とは、「dps」という単位で表され、 “1秒間に傾いた角度”のことを示します。たとえばある物体が1秒間に1回転したのであれば、その角速度は360dpsということになります。
ジャイロセンサーとは、「それを内蔵した機器が“1秒間にどれくらい傾いた”かを検知し、dpsとして検出することができるセンサー」という認識をすれば分かりやすいでしょう。
ジャイロセンサーの機能
ジャイロセンサーにはいくつかの種類があり、その種類によって機能が異なります。詳しい種類についてはのちほど説明しますが、一般的なジャイロセンサーの機能としては以下のものがあります。
角速度のみの検知
機器に内蔵されたジャイロセンサーは製品自体の角速度のみを検知しなければなりませんが、角速度の変化には外部からの衝撃や振動が影響を与えやすいという難点もあります。これに対し、ジャイロセンサーは外部からの衝撃を除外した、機器そのものの角速度のみを検知することが可能なため、その精度は極めて高くなっています。
ノイズレベルの軽減
電子機器などに搭載されたセンサーからはノイズが発生しやすく、それが機器そのものの機能に悪影響を与えてしまうことがあります。それに対し、ジャイロセンサーはノイズレベルが非常に少ないという機能面での特徴があり、機器を正常に作動させることが可能です。
温度変化の影響を受けにくい
高性能な機器のデメリットとしては、極端な温度変化による影響を受けやすいという点があります。しかし、ジャイロセンサーは0点温度特性および感度温度特性が安定していることから、機能面において温度変化の影響を受けにくくなっています。
ジャイロセンサーの種類
ジャイロセンサーはその仕組みや構造などから主に3つの種類に分類することができます。それらの基本的な機能や仕組みについては次のとおりです。
回転機械式
回転機械式ジャイロセンサーは、「地球コマ」のような形状をした部品を機械的に回転させ、それが傾くことによって発生する慣性力を検出することで角速度を測定します。現在一般的な存在となっている振動式ジャイロセンサーに比べ、この回転機械式ジャイロセンサーは旧型のジャイロセンサーということができ、かつては飛行機に搭載されていたこともありますが、現在は活用されることが少なくなっています。
光学式
光学式ジャイロセンサーは、反射板や光コイル、レーザー光などを使用して角速度を検出することを主な機能としています。この機能は光の周回速度が不変であるという特徴を利用しており、光学式ジャイロセンサーが搭載された機器が傾いた場合、総体的な周回速度にずれが生じ、そのずれ具合から角速度を測定できるようになっています。
また光学式ジャイロセンサーは、リングレーザータイプと光ファイバータイプの2種類に分類することができ、前者はスペースシャトルや飛行機、後者はレーシングカー、モーターボートなどに利用されています。
振動式
振動式ジャイロセンサーは、機械的な動きをする素子とその信号を処理する電子回路から構成されており、この相互関係がセンサーを搭載した機器の角速度を検知する仕組みとなっています。現在、多くの機器で使用されている振動式ジャイロセンサーはICタイプのMEMS「Micro Electro Mechanical System」技術を使っており、その精度の向上は多くの電子機器の高性能化に大きな影響を与えています。
また、振動式ジャイロセンサーはシリコンを使用した静電容量方式と、水晶や他の圧電材料を使用したピエゾ方式の2種類が存在し、機器の特性などに合わせて使い分けされています。振動式ジャイロセンサーが使用された機器としては、スマートフォンやゲーム機器が特に有名で、例えばゲーム機器を傾けると画面内のキャラクターが傾くようなゲームにはこの技術が応用されています。
ジャイロセンサーの活用例
これまでのとおり、ジャイロセンサーには大きく分けて3つの種類が存在し、その特性に合ったさまざまな機器に活用されています。具体的なジャイロセンサーの活用例としては以下のものがあります。
カーナビ
カーナビの多くにはGPSが搭載されており、その働きによって車がどこを走っているのかが分かるようになっています。しかし、GPSの電波はどこを走っていても届くわけではないため、仮にGPSのみに依存しているカーナビがあるとすると、例えばトンネルに入ってしまうとすぐにどこを走っているのか認識できなくなってしまいます。
そのため、殆どのカーナビには進行方向などを感知するジャイロセンサーが内蔵されており、GPSの電波が一時的に届かなくなっても走っている場所を認識することができるようになっています。
ロボット
特に二足歩行型のロボットの開発において、倒れないようにバランスを取りながら歩いたり、障害物を避けたりすることは長年にわたって大きな課題のひとつとなっていました。しかし、高性能化がされたジャイロセンサーを搭載することによって、このようなロボットの動きはよりスムーズになりました。
ドローン
風などの影響を受けることで発生する落下事故などが多かったドローンにも、近年ではより高性能なジャイロセンサーが搭載されるようになっており、ある程度自力でバランスを取ることも可能になっています。
スマートフォン
スマートフォンにもジャイロセンサーは搭載されていることが多く、最近ではその機能を利用したゲームや地図などのアプリも数多く登場しています。
ゲーム機
スマートフォンと同様にジャイロセンサーを搭載したゲーム機は多く、例えば画面を見ながらコントローラーを振ったり傾けたりするようなゲームや、ゲーム機自体を傾けながらプレイする主観型のレースゲームなどには、ジャイロセンサーの技術が活かされています。
活用分野が広がるジャイロセンサーの技術
ここではロボットやドローン、スマートフォンなどに活用されることが多いジャイロセンサーの機能や種類、具体的な活用例などについて解説しました。特にスマートフォンに搭載されるようになったことで幅広く活用されるようになったジャイロセンサーは、今後も新たなスマートフォン向けのアプリや電子機器などが開発されるたびに、その活用分野を広げていくことでしょう。
制作:工場タイムズ編集部