時には力強く、時には安らかな音色で私たちを魅了するピアノ。みなさんの中にもピアノを見たり音色を聴いたりしたことがある人は多いと思います。
しかし、ピアノの製造過程はあまり知られていません。ピアノは多くの部品を組み立てて作られていて、ピアノを組み立てる人のことを「ピアノ組立工」と言います。
今回は、ピアノの製造工程やピアノ組立工の仕事についてご紹介します。
ピアノっていつできたの?
現在は曲作りにパソコンが使われることがありますが、昔はピアノを使って作曲することが一般的でした。まずは、楽器としてのピアノの特徴と歴史をお伝えします。
ピアノはどんな楽器?
ピアノは鍵盤楽器と言われますが、弦楽器・打楽器どちらの要素も含みます。ピアノの鍵盤を押すとその力がハンマーに伝わってハンマーが弦を打ち、弦から出た音を「響板」という板が広げる仕組みです。ピアノの鍵盤は88個で、ピアノ全体に使われている部品はおよそ8000個!これらの部品がうまく機能し合うことで、音楽の3大要素である「メロディー」「ハーモニー」「リズム」を生み出すのです。
ピアノの歴史
ピアノはイタリアで生まれた楽器
ピアノの始まりは、1709年、イタリアに住むチェンバロ製作者のクリストフォリが開発した楽器であると言われています。当時の鍵盤楽器はピアノの前身であるチェンバロが主流であり、鍵盤を押すと ツメが弦を弾いて音を鳴らす仕組みでした。クリストフォリが発明したのは、チェンバロよりも強弱をつけた楽器。それは、弦を「弾く」のではなくハンマーで「叩く」という現代のピアノにつながる仕組みを備えたものでした。一台一台手作りのため5オクターブしかなかった音域も、19世紀に工業生産されるようになってからは徐々に音域も広くなっていきました。19世紀半ばのショパンやリストが活躍した時代に、ピアノは現代のものとほぼ同じ仕組みを持つ楽器になったのです。
日本に入ってきたのは明治時代
ピアノが日本に入ってきたのは、長かった鎖国が終わりヨーロッパの文化が一気に押し寄せた明治時代。ピアノは外国から船で運ばれてくる高価なもので、上流階級の人たちの間でピアノブームが巻き起こりました。国内でピアノ製造に初めて成功したのは、三味線作りを仕事にしていた西川虎吉であると言われています。西川は外国人の楽器輸入商のもとで修業し、オルガン作りから始めて明治20年からピアノを作り始めるようになりました。
<ピアノの製造工程を教えて!>
ピアノは工場で幾つもの工程を経て作られます。グランドピアノを例に製造工程をご紹介します。
響板制作
ピアノを叩いたときに出る音を響かせる「響板」を制作します。各地から集められた原木を板状に加工して乾燥させます。モノによっては10年以上乾燥させることも。十分に乾燥させた後は板をつなぎ合わせて一枚の響板にします。
支柱組立、駒や響棒などの取り付け
薄い板を張り合わせて、ピアノの土台となる支柱を作ります。その後、弦の振動を響板に伝える役割の「駒」や響きを支える「響棒」を機械で響板に接着します。
響板、側版接着
響板を支柱にのせて接着する作業です。この接着により音の響きが左右されるので、大切な工程です。駒などを加工し、支柱に側版を接着していきます。
塗装、乾燥
何度も重ね塗りをしながら塗装し、コンピューターに管理された乾燥室で一定期間乾燥させます。
研磨(側版)
艶と輝きが出るまで人と機械によって磨きが繰り返されます。
棚板、フレーム(外枠)の取り付け
鍵盤などをのせる棚板を取り付け、フレームを取り付けます。フレームは弦の張力を受け止め、弦と一緒に振動して音に影響を与える役割をしています。
張弦、下調律
約230本の弦を張ります。張った弦の張力に各部分をなじませるため、特殊発信機を使って下調律(音の調子を整えること)を行います。
アクションの組み立て、取り付け
鍵盤の動きをハンマーに伝える構造であるアクションは、各専門ラインでロボットや人の手によって組み立てられます。アクションと鍵盤を棚板に取り付ける際には、正確にハンマーが弦を打つように位置を合わせる微妙な調整が行われます。
調律、調整、整音
音の調子を調べたり整えたりする「調律」を行います。その後、各部品と弦、ハンマー、鍵盤、アクションにつながる部分をなじませるため、数千回の打弦が機械によって行われます。また、ハンマーの打弦距離や鍵盤の高さなどを整えながらアクション全体を調整します。再度調律が行われ、ピアノの音質や音量を均一にするための「整音」を行います。
仕上げ、出荷
最終的な調律や整音作業を行った後、外装などのチェックを終えたらグランドピアノの完成です。その後は厳重に梱包(こんぽう)されて出荷となります。
ピアノ組立工になりたい!
ピアノを組み立てて作る人のことを「ピアノ組立工」と呼びます。最後は、ピアノ組立工になる方法についてお伝えします。
ピアノ組立工になるには?
資格などはなくても、未経験から仕事を始めることができます。ピアノ製造工場やピアノの部品工場、楽器メーカーなどに勤め、現場で経験を積むのが一般的です。技術力だけでなく音感や聴力も大切なので、専門学校や大学などで音楽を学んでおくことも役に立つでしょう。また調律師を目指して勉強していた人は、その経験を活かせるでしょう。一方、海外ではピアノ組立工になるための資格試験があります。
ピアノ組立工に向いている人は?
ピアノ組み立ての際は、微妙な調整技術や繰り返しの作業が比較的多くなります。たとえば「整調」という、ピアノ全体で1000カ所を超える調整を行う作業もあるので、忍耐力がありていねいにコツコツと仕事をこなせる人が向いています。手間をかけた分、出来上がったときの達成感は格別なので、モノづくりの面白さを体感したい、モノづくりに情熱を傾けたいという人も向いていると言えます。
名曲の影にピアノ組立工あり!
ピアノは「木の精密機械」と言われます。未経験でもピアノ製造会社や製造工場などの求人に応募することで、ピアノ組立工への道が開けます。自分の作ったピアノから名曲が生み出される可能性もありますし、奏者が演奏することによって人々を感動に包むことがあるかもしれません。ピアノ組立工という仕事からは、楽器を作り上げる満足感だけではなく、人の心を響かせる音色を生み出すというやりがいも得られることでしょう。興味のある人は、ピアノ製造工場の工場見学に出掛けてみませんか?
制作:工場タイムズ編集部