ボイラーは、空調管理や給湯、殺菌などのために使う温水や蒸気を作り出す設備で、工場やビルなど、多くの施設で活用されています。ボイラーは、稼働させると高温に達するため、取り扱い方法を誤れば重大な事故につながる可能性があります。このことから、一部の小規模なものを除き、ボイラーの取扱いには「ボイラー技士」免許が必要となっています。
今回は、このボイラー技士の資格の詳細や有資格者が活躍できる場所、ボイラー技士免許の試験などについて解説します。
ボイラー技士とは?
ボイラー技士とは、ボイラーの取り扱いや管理などをおこなう場合に必須となる免許で、労働安全衛生法に基づいた国家資格です。特級・一級・二級の3区分があります。
なお、小規模ボイラーや簡易ボイラーなどといった一部のボイラーでは、ボイラー技士の免許がなくても取り扱うことができます。詳しくは「ボイラーの資格がなくても作業できるって本当?」で後述していますので、ぜひそちらもご覧ください。
ボイラーを使う事業所などでは、ボイラーの伝熱面積に応じた級の免許を持つボイラー技士から、ボイラー取扱作業主任者を選任することが法令で決められています(一部例外を除く)。ボイラー技士の級位は、そのボイラー取扱作業主任者になる上での規模に関する制限の違いであって、ボイラーの取り扱い範囲には関係しません。級を問わず、ボイラー技士の有資格者であれば、すべての規模のボイラーを取り扱えます。
ボイラー技士の仕事内容は、ボイラーを正常に作動させ、建物内の空気や温水、蒸気などを調整することです。適切な状態を維持していくためには、ボイラーの操作や管理だけではなく、定期的なメンテナンスや点検を行わなければなりません。
ボイラー技士が活躍できる場所
ボイラー技士免許が活かせるのは、大きなボイラーを使って温水の供給や室温の調節などをおこなっている施設です。ここでは、その具体例をご紹介します。
ビル管理会社
多くの大型商業施設やオフィスビルなどでは、空調管理や温水の供給時にボイラーが使われるため、求人広告でボイラー技士を募集している管理会社が多くあります。このことから、ビル管理会社におけるニーズは高く、ボイラー技士が活躍する代表的な企業として挙げられます。
建設会社
ボイラーを設置する施設の建設時に、ボイラー技士に立ち会ってもらい、設置場所などに関する助言を求めることがあります。そのため、建設会社でもボイラー技士を必要としているケースは多く、資格を活かせる会社のひとつといえます。
ホテル
空調管理や温水の供給などのため、幅広くボイラーを活用しているホテルでは、地下などに大規模なボイラールームを設けていることがあります。このようなホテルでは、大型のボイラーが使われていることが多く、ボイラー取扱作業主任者を置く必要が出てくるため、ホテルでもボイラー技士の有資格者が重宝される傾向にあります。
病院
入院設備が整っているような大型の病院は、ホテルと作りが似ており、ボイラールームが設置されていることがあります。空調管理や温水の供給、高温の蒸気による殺菌など、大型のボイラーが必要となる状況が多いためです。
こういった病院でも、ボイラー取扱作業主任者を選任しなければならないことがあるので、ボイラー技士が必要とされる場のひとつになっています。
ボイラーの資格がなくても作業できるって本当?
小規模ボイラーや小型ボイラー、簡易ボイラーに分類されるものは、ボイラー技士免許がなくても取り扱うことができます。
ただし、小規模ボイラーはボイラー取扱技能講習を修了した人、小型ボイラーは小型ボイラー取扱特別教育を修了した人が取り扱い可能です。講習などを受けていない、完全に無資格の人が扱えるのは、簡易ボイラーのみということになります。
ボイラーの条件 | 取り扱える資格 | |
小規模ボイラー | ・伝熱面積が3㎡以下の蒸気ボイラー・伝熱面積が30㎡以下の貫流ボイラー など (参照元:労働安全衛生法施行令 第20条第5号) |
・すべてのボイラー技士・ボイラー取扱技能講習修了者(作業主任者も可) |
小型ボイラー | ・ゲージ圧力0.1MPa以下の温水ボイラーで、伝熱面積が8㎡以下のもの・ゲージ圧力1MPa以下で使用する貫流ボイラーで、伝熱面積が10㎡以下のもの など (参照元:労働安全衛生法施行令 第1条第4号) |
・すべてのボイラー技士・ボイラー取扱技能講習修了者・小型ボイラー取扱特別教育修了者 |
簡易ボイラー | ・ゲージ圧力0.1MPa以下の温水ボイラーで、伝熱面積が4㎡以下のもの・ゲージ圧力1MPa以下で使用する貫流ボイラーで、伝熱面積が5㎡以下のもの など (参照元:労働安全衛生法施行令 第13条第25号) |
制限なし |
小型ボイラーや簡易ボイラーは作業主任者を置く必要はありませんが、小規模ボイラーは法令上のボイラーに含まれるため、ボイラー取扱作業主任者の選任が必要です。選任できる対象者は、すべての級のボイラー技士とボイラー取扱技能講習修了者となっています。
ボイラー技士の資格
前述の通り、ボイラー技士は級によって、ボイラー取扱作業主任者に就けるボイラーの規模が異なります。ここでは、級位ごとの詳細を解説します。
特級ボイラー技士
特級ボイラー技士は、3区分の中で最も上級にあたり、ボイラー規模の制限なく作業主任者となることが可能です。
基本的に、伝熱面積が500㎡以上のボイラーを扱う施設では、特級の免許を持つ者をボイラー取扱作業主任者に選任しなければなりません。そのため、特級ボイラー技士の活躍の場は広く、就職の際には大きな強みとなります。
大規模工場やプラント建設会社で必要とされることが多い免許なので、特級の有資格者はこういった企業を中心に、就職先を探してみるのがおすすめです。
一級ボイラー技士
一級ボイラー技士は、伝熱面積500㎡未満のボイラー(貫流ボイラーのみの場合は無制限)に対して、ボイラー取扱作業主任者となることができます。工場や事務所、病院など、多くの施設で対応できる階級です。
二級ボイラー技士
ボイラー技士の中で、作業主任者になれるボイラー規模が最も小さいのが二級ボイラー技士です。伝熱面積が25㎡未満のボイラー(貫流ボイラーのみは250㎡未満)に対して作業主任者になることができ、対象となる主なボイラーは冷暖房機器や給湯機器です。
仕事をする上で、二級ボイラー技士自体の需要は限定的ですが、より上級のボイラー技士へステップアップを目指す場合、二級ボイラー技士免許の取得が受験資格を得る方法のひとつとなっています。
ボイラー技士試験の概要
ボイラー技士の資格を取得するためには、安全衛生技術試験協会がおこなっている試験に合格しなければなりません。ボイラー技士試験について、項目ごとにご紹介します。
日程
ボイラー技士試験は階級によって開催頻度が異なります。特級の場合は年1回だけしか開催されていないため、その日時はしっかりと確認しておくようにしましょう。一方で、一級は2カ月に1回程度、二級は毎月1回と頻繁に開催されていることから、比較的スケジュールなどの都合に合わせやすくなっています。
受験資格
ボイラー技士試験では、特級と一級に受験資格が設けられています。二級では受験資格が設けられておらず、誰でも受験可能です。
特級を受験するには、一級ボイラー技士免許取得者や、ボイラーに関する学校を卒業して2年以上の実地修習がある人など、5つの受験資格の中からどれかを満たしている必要があります。一級の場合は、二級ボイラー技士免許取得者や、汽かん係員試験合格者で伝熱面積の合計が25㎡以上のボイラーを取り扱った経験がある人など、6つの受験資格から選ぶことが可能です。
受験資格を満たしていることを証明するために、添付書類として免許証の写しや証明書などを提出します。また、選択した受験資格の中には、試験合格後に実務経験の証明書などを添付して免許状の申請をしなければならないものもあります。詳しくは安全衛生技術試験協会や厚生労働省のホームページなどでご確認ください。
合格基準
ボイラー技士試験では、科目ごとの得点が40%以上、かつ全体の合計が60%以上で合格となります。基準ラインを超えれば合格できるようになっているため、周りのレベルなどを気にする必要はありません。
後述する合格率からみると、特級は難易度が高めのようですが、一級と二級は比較的容易に合格が見込めます。科目ごとに確実に合格点が取れるよう、試験勉強のほかに日本ボイラ協会が開催する受験準備講習を活用するなどして試験対策を講じましょう。
ボイラー資格の種類・受験資格・難易度まとめ
ボイラーに関連する国家資格には、ボイラー技士のほかに、ボイラー溶接士とボイラー整備士があります。
ボイラー溶接士は、ボイラーの溶接作業を行う場合に必要な免許で、特別ボイラー溶接士と普通ボイラー溶接士の2階級に分かれています。ボイラー整備士は、一定の大きさを超えるボイラーの点検や整備に必要となる資格です。
ボイラー技士・ボイラー整備士試験は学科のみですが、ボイラー溶接士試験は学科のほかに実技試験も合格しなければ免許が受けられません。
それぞれの免許の試験概要は以下の通りです。
受験資格 | 試験内容 | 合格率 | |
特級ボイラー技士 | ・一級ボイラー技士免許取得者・学校でボイラー関係の学科などを修めて卒業し、その後2年以上の実地修習を経た人・海技士(機関1、2級)免許取得者 など | ・ボイラーの構造に関する知識・ボイラーの取扱いに関する知識・燃料及び燃焼に関する知識・関係法令 | 24.0% |
一級ボイラー技士 | ・二級ボイラー技士免許取得者・学校でボイラー関係の学科などを修めて卒業し、その後1年以上の実地修習を経た人・汽かん係員試験合格者で、伝熱面積の合計が25㎡以上のボイラーを取り扱った経験がある人 など | ・ボイラーの構造に関する知識・ボイラーの取扱いに関する知識・燃料及び燃焼に関する知識・関係法令 | 45.0% |
二級ボイラー技士 | なし | ・ボイラーの構造に関する知識・ボイラーの取扱いに関する知識・燃料及び燃焼に関する知識・関係法令 | 51.0% |
特別ボイラー溶接士 | 普通ボイラー溶接士免許を取得後、1年以上ボイラーまたは第一種圧力容器の溶接作業の経験がある人(ガス溶接、自動溶接を除く) | ・ボイラーの構造及びボイラー用材料に関する知識・ボイラーの工作及び修繕方法に関する知識・溶接施行方法の概要に関する知識・溶接棒及び溶接部の性質の概要に関する知識・溶接部の検査方法の概要に関する知識・溶接機器の取扱方法に関する知識・溶接作業の安全に関する知識・関係法令 <実技>横向き突合せ溶接 |
69.6% |
普通ボイラー溶接士 | 1年以上溶接作業の経験がある人(ガス溶接・自動溶接を除く) |
・ボイラーの構造及びボイラー用材料に関する知識・ボイラーの工作及び修繕方法に関する知識・溶接施行方法の概要に関する知識・溶接棒及び溶接部の性質の概要に関する知識・溶接部の検査方法の概要に関する知識・溶接機器の取扱方法に関する知識・溶接作業の安全に関する知識・関係法令 <実技>下向き突合せ溶接及び立向き突合せ溶接 |
54.8% |
ボイラー整備士 | なし | ・ボイラー及び第一種圧力容器の整備の作業に関する知識・ボイラー及び第一種圧力容器の整備の作業に使用する器材、 薬品等に関する知識・関係法令・ボイラー及び第一種圧力容器に関する知識 | 67.7% |
※合格率は令和4年度の統計(参照元:安全衛生技術試験協会)
未経験からステップアップできるボイラー技士の魅力
今回は、工場やホテル、病院など幅広い分野で必要とされているボイラー技士の資格の詳細や活躍の場、試験の概要などをご紹介しました。空調や温水の供給などで欠かせないボイラーは誤った方法で取り扱うと重大な事故が発生する危険があります。そのため、ボイラー技士は今後も求められる仕事であることが予想されます。
ボイラー技士の資格は3段階に分かれている上に二級は受験資格が指定されていないため入り口が広く、なおかつステップアップも目指せます。そのため、未経験からでも上を目指せるという点もまたこの資格の大きな魅力となっています。
制作:工場タイムズ編集部