私たちが着ている洋服などの布製品をはじめ、カバン・靴といった革製品のほとんどは、見た目を美しくするために染色加工が行われています。普段の生活の中で意識する機会は少ないかもしれませんが、染色は私たちの暮らしと大きな関わりを持っているのです。
では、その染色加工とは一体、どのようにして行われているのでしょうか?
今回は、染料の種類や、染色工場で行われている染色の方法などについてご紹介します。
染色って一体何?
そもそも染色とは何でしょうか?まずは、染色に関する基本情報をお伝えします。
「染料」「染色」「媒染」とは?
染料
繊維をはじめモノを染める力を持った物質のことです。染料自体に色がついています。
染色
染料を使って布や革などの繊維質に色素を吸着させたり結合させて、色をつけることです。
媒染(ばいせん)
繊維を媒染剤の溶液に浸して、繊維に染料を定着させることです。染料が繊維にうまくつかないときに媒染が用いられることがあります。
天然染料と合成染料
染料の中にも「天然染料」と「合成染料」の2種類があります。
天然染料
動物や植物、鉱物といった天然のものから得られる染料のことです。合成染料が開発されるまでは天然染料のみを使って染色が行われていましたが、染色方法が複雑で原料を採取するのにコストがかかるため、現在はあまり使用されなくなりました。
合成染料
化学的に合成して作られた染料のことで、「人造染料」とも呼ばれています。1856年にイギリスの科学者が実験中に偶然発見したのが世界初の合成染料と言われていて、1900年頃までには500種類もの染料が開発されました。量産化の技術が確立された現在では、ほとんど合成染料が使用されています。
どうやって染色するの?
ひと口に染色と言っても、使用する材料や染色方法によって大きな違いがあります。続いては技術面から染色についてご説明します。
「染料」と「顔料」
衣服などの繊維を染色するときに使用する材料には、大きく「染料」と「顔料」の2種類があります。染料と顔料の大きな違いは「水や油に溶けるかどうか」です。
染料染め
染料は水や油に溶ける性質を持っています。そのため、染料を使って染色をすると、繊維と科学的に結合して繊維の内部まで染めることが可能です。
顔料染め
顔料は水や油に溶けない性質を持っています。そのため、繊維の中までは浸透しません。「顔料染め」とは、接着剤(バインダー)を使って顔料の粒子を繊維の表面に付着させる染色方法です。
ほかにもこんな染色方法が!
硫化(りゅうか)染め
「芳香族化合物」と呼ばれる有機化合物を、硫黄(または硫黄と硫化ナトリウム)などで加熱・溶解して作られる染料を使って染色する方法です。硫化染めをした後でその生地を空気に触れさせると酸化して発色するため、使えば使うほど生地に独特の風合いが生まれます。
藍(あい)染め
デニムなどで「インディゴブルー」という言葉を聞いたことがありませんか?藍染めは、植物に含まれている「インディゴ」という色素を使って、生地を青や紺色に染める染色方法です。藍染めを行った布はただキレイに見えるだけでなく、消臭効果や虫除け効果、さらに細菌の増殖を抑制する効果もあります。
染色工場では、どんなふうに染めているの?
染色は染色工場(染工場)で行われることが一般的です。最後に、染色工場で行われている「硫化染め」の工程についてお伝えします。
硫化染めの工程
染色の工程は使用する素材や染料によって違いますし、染色工場によっても方法は変わります。ここでは「帆前掛け(ほまえかけ=酒屋さんや八百屋さんがしている、腰部分から下につける前掛けのこと)」を硫化染めする際の一例を紹介します。
糊置き
まず染める前の帆前掛けの生地に付いている余分な汚れを落として生地を柔らかくするために、一度生地を煮て脱水させた後で乾燥をさせます。乾いたら文字や絵柄の部分として使用する白く抜きたい部分に、防染剤を入れた糊を塗ります。糊を定着させるために砂をかけて再度乾燥させ、そこに金属製の伸子(しんし=布をピンと伸ばすための道具)を張って布が縮まないようにします。
染め
事前に調合をして50℃~70℃程度の温度まで温めておいた染料が入った染窯に、生地を浸け込んで染め上げていきます。染色をする時間は、反物の種類によって5分程度となります。
水元
一度染めた生地を水洗いすることを「水元(みずもと)」と言います。生地を染めたらすぐに真水ですすぎ、その後空気に20分ほどさらして酸化させることで色を定着させていきます。生地によっては糊を落とすためにさらに「仕上げ洗い」を行うこともあります。
天日干し
しっかりと洗い終わったら日光で天日干しをします。梅雨などの天候がよい日が少ない時期は、室内で乾燥させる場合もあります。
伝統と歴史を受け継ぐ染色のお仕事
染色は紀元前の時代から行われてきた伝統文化であり、染色の技術は人類の歴史とともに人から人へと受け継がれてきました。染色業として働くことは、そんな染色の歴史と技術を守ることにもつながります。染色工場の中には工場見学を行っているところがあるので、関心のある人は一度出掛けてみてはどうでしょうか?染色の奥深い世界を間近で見て、さらに興味が湧いてくるかもしれませんよ。
制作:工場タイムズ編集部