まさに酷暑と呼ぶにふさわしかった昨年(2018年)の夏。エアコンを使っても暑い!と各地で悲鳴が上がるなか、屋外やエアコンのない室内・工場などでは命にかかわる熱中症が大きな問題になりました。
そんな中で一躍人気が高まったのが、「空調服」(空調ファンつき作業服)をはじめとした業務用の熱中症対策・予防グッズ。大手通販サイトでは空調服の売上が前年比370%増と、まさにいま一番アツい暑さ対策の商品として注目を集めています。
そこで今回は2019年最新の暑さ対策・熱中症予防事情を探るため、3月12日(火)〜 15日(金)に東京ビッグサイトで行われた「2019NEW環境展」に潜入! 今夏に向け発表された最新の空調服、冷却グッズなどを調査してきました!
暑さ対策で大注目の『空調服』。その成り立ちと最新トレンドとは?
西日本で平均+1.1℃、東日本では+1.7℃と平年の記録を塗り替え、埼玉県・熊谷市では観測史上最高気温となる41.1℃をマーク。全国の熱中症による救急搬送数も過去最大と、まさに記録尽くしの酷暑だった2018年の夏。
そこで、以前工場タイムズで【関連記事】みんなが街中で作業服を着る時代に? 最強の普段着『ワークウェア』に迫る(後編)の記事で特集した「空調服」などの(業務用)熱中症対策・予防グッズが注目を集めた背景には何があるのでしょうか?
まずは空調服のフロンティアともいえる「株式会社空調服」のブースで、最新の空調服事情について、そもそも空調服を作ったきっかけについてなどをうかがいました。
アジアの熱気から着想した空調服のアイデア
お話をうかがったのは、株式会社空調服の岩渕大征(いわぶちともゆき)さん。かつてはテレビやパソコンディスプレイ用のブラウン管を製造・販売していたという同社。
空調服を作ることになったきっかけは、発明好きの会長が取引先として訪問していた東南アジアの気候だったとか。
岩渕さん:今から15年ほど前、液晶ディスプレイの普及にともない縮小するブラウン管事業の替わりに何か新しいものを作ろうと考えていました。
当時販売先として訪れていたアジアの国々はとても暑く、国が貧しいこともあり、経済発展のために毎日膨大な熱エネルギーを放出していたんですね。それを目の当たりにした会長が、『排熱が出ずエコなもので冷却できないか』をヒントに空調服を思いついたのです。
国を越えた地球環境への配慮が、空調服誕生のきっかけになったんですね!
イノベーションが空調服を進化させる
開発スタートから15年目を迎える御社の空調服ですが、最初に比べて大きく変わったことなどはありますか?
岩渕さん:気候そのものが変わってきたというのはありますが、リチウムイオン電池の性能向上でバッテリーの小型軽量化が進みました。
当初はファンの稼働時間が5時間半程度だったものが、今では8時間もちます。これにより仕事途中での電池交換や再充電が不要になりました。
さらに今年(2019年)の最新モデルには、あらたに手元のリモコンでファンを操作できる『ファンフィット』シリーズが加わりました。
これで風量調節のために服を脱ぐ必要がなくなり、バッテリー残量も確認できます。酷暑の現場で突然バッテリーが切れたらシャレにならないですよね(笑)。
キーワードは『普段づかい』カジュアル系デザインが充実
ますます実用的になっていく空調服、最近のイチオシを教えてください!
岩渕さん:instagramなどで女性を中心に大手作業服メーカーの服を『普段づかい』するというのが話題になりました。
高い機能性と手頃な値段にファッション性が加わったことが人気の要因ですが、弊社も今年は『普段づかい』をキーワードに、カジュアル系のラインナップを充実させています。
新たに加わった空調服には『ヘリンボーン』や『デニム』といった綿・ポリエステル混紡の素材に加え、ポリエステル100%や綿100%のカモフラ(迷彩)柄も。
さらにカラーバリエーションも充実。たしかに業務用の作業服とは思えない、普段着としても違和感なく着られそうなデザインですね!
岩渕さん:とはいっても、我々のメインのお客様はプロ(業務用)です。現場によっては火を扱うため、燃えやすい(可燃性の)ポリエステル素材は着られない、などの条件があります。なのでデザインだけでなく素材にも選択の幅をもたせています。
2019年のトレンドは『ベスト(チョッキ)』タイプ
最後に岩渕さんから今年要注目の空調服と、実際に空調服を試したい人にオススメの情報を教えてもらいました。
岩渕さん:今年はなんといっても『ベスト』タイプです。昨年、弊社がベスト型の空調服を発売したところ即完売(予約分含む)となり、その評判が業界を駆けめぐりました。今年は他社も含めて『ベスト祭り』になりそうです。
ベスト型空調服、脇の下を抜ける風が気持ちよさそうですね!
岩渕さん:脇の下を冷やすのは体温を下げるには効果的ですが、本来は長袖の方が風の対流が発生しやすく、日焼け防止にもなります。夏場に長袖が邪魔だと感じる方が多いのかもしれません。
また最近の傾向として、たとえば物流業界では夏場は半袖が当たり前だし、農業関係者には長袖だと土で袖が汚れるからイヤ、などとニーズが多様化しています。
一般ニーズとしてはアウトドアやスポーツ観戦、屋外フェスやイベントなど主に屋外での利用が想定されますので、今後ますます半袖やベストの需要は高まっていくと思います。
直近では某グッズ専門誌で空調服特集が組まれるなど、まさにいま大注目の空調服。そんな最新の空調服を試してみたいという方に朗報です!
2019年4月6日(土)、7(日)の2日間、東京・代々木公園のイベント広場で行われる『 OUTDOORDAY JAPAN(アウトドアデイ ジャパン)2019』に株式会社空調服さんが出展されるそうなので、お近くの方はぜひチェックを!
空調服からミスト!? 『流体力学』を取り入れたデザイン
続いて、ちょっと変わった外観のヘルメットと、タイトな作業服ジャケットを着たマネキンが目立つ「有限会社伊藤組」のブースへ。
趣味のカーレースから広げたアイデア
社長自ら製品開発を行うという同社。もとは大手ゼネコンの一次請けとして多数の鳶(とび)職人を扱う建設会社で、先代から会社を継いで25年という代表取締役の伊藤一広(いとうかずひろ)さんにお話をうかがいました。
伊藤さん:うちは本業が建設業ですので、現場から『熱中症になる職人が多くて困っている』と声が上がりまして。
私がクルマ好きでたまにサーキットを走ってるんですが、レース仲間に医療関係者がいるもので、彼らに相談しながら熱中症対策・予防用製品の開発にとりかかりました。
『頭寒足熱』という言葉のとおり、熱中症対策にはおでこを冷やすのが重要です。ヘルメットの設計にはクルマのターボエンジンの吸入・排気システムからヒントを得て、流体力学を応用して設計しました。
りゅうたいりきがく…つまり、科学的にきちんと考えられたものなんですね!(笑)
一般的な空調服との違いは『加湿』と『風の通り道』
一般的な空調服は「腰部分にあるファンで内部に風を送って冷却」するのに対し、同社の「クロスウインド」は前後2つのファンと超音波ミスト(蒸気)発生機が一体となったユニット内蔵型。
伸縮性が高く吸水速乾性のある生地でできたジャケットを素肌の上に直接着ることで、肌に吹き付けられた蒸気をファンの風で飛ばし、発生する「気化熱」で体を冷やす構造になっている。
伊藤さん:10秒間蒸気を出して、50秒間ファンで冷却を交互に繰り返します。服と体の間に空間がないと風はスムーズに流れず、そこが広すぎても狭すぎてもダメ。ビルの間に吹くビル風のように、ちょうどいい空間があれば少ない風でも勢いよく流れるんです。
そのため、WTP(ウインド・スルーパッド)というウレタン製パッドを服の前後に差し込むスペースを設け、効率よく風が通り抜けるようにしました。
冷却効果を最大化するため、こんなところにも流体力学が応用されていました。まさに社長の趣味と好奇心が結晶となったような、そんな職人魂を感じる製品でした。
空調服は『空冷式』から『水冷式』へ? 50℃の気温でも作業可能
会場を歩いていると、やはり「2019年のトレンド」になるであろうベストタイプの製品が目を引きます。続いては「株式会社A&M」のブースにお邪魔しました。
お話いただいたのは、株式会社A&M・企画担当で取締役の門脇修一(かどわきしゅういち)さん。
モーターの製造を行っていた会社が分社化し、その後ポンプ開発をメイン事業としてきた同社が、なぜベスト服の制作に取り組んだのでしょうか?
門脇さん:弊社はポンプで液体の量を微調整しながら送ったり噴霧したり、というのが得意領域でして、そういった製品のニーズが多い医療業界が主なお客様です。
弊社の冷水循環式ベスト『フルードクール』は、冷水をポンプとチューブで循環させる方式で、保冷バッグに氷を入れれば10℃の水が脇の下と首すじを冷やす、インナータイプのベストです。
『空冷式』と『水冷式』の違いは?
ファンで冷やす「空冷式」で上着(アウター)として着る空調服に対し、こちらは冷水で冷やす「水冷式」で服の下に着るインナータイプ。たしかに構造が違います。
そもそも、水冷式のニーズはどういったところにあるのでしょうか。
門脇さん:業界によりますが、作業場所の気温が40℃を超えるのに、風を発生させてはいけない場所というのがありまして。たとえば製鉄工場の「溶鉱炉」などがそうです。
そういった場所で風を利用する空調服を使うと、ファンが火の粉を吸い込んで事故が起きる可能性があります。そこで、風が発生しない水冷式のニーズがあるのです。
なるほど。風の有無がキーだとは知りませんでした!
米国の某有名レースで培った技術を、一般向けに
会場には水冷式ベストを展示しているもうひとつのブースが。「有限会社 大沼プランニング」代表取締役の大沼敏男(おおぬまとしお)さんによれば、同社はアメリカで30年前から使われてきた「プロ用水冷式レーシングスーツ」を輸入販売してきた会社だそう。
あの「インディ500」や「NASCAR」といった有名自動車レースで使用されてきたプロ用レーシングスーツをベースに、今回民間用に開発したのが、その名も「水冷服」。
大沼さん:水冷服は『確実に冷やせる』というのが強みです。弊社の水冷ユニットには500ミリリットルのボトルが3本入り、4〜6℃の冷水を1時間半〜2時間循環させて50℃近い気温下での作業にも耐えられます。
プロ用だと値段が10万円を超えてしまうので、民間用に半額程度におさえられるものを今回作りました。昨年の暑さで多くの問い合わせをいただき、(民間用を)完成させたのが今年なので、来年のオリンピックに向けさらに市場を拡大していきます。
お話を聞いているうちに、空調服と水冷服がいわば「空調服=扇風機」「水冷服=クーラー」のような関係であることがわかりました。機能だけでなく価格面でも違いがありますので、詳しくは各社HPをご覧ください。
帽子型、マフラー型、スカーフ型にタオルまで!
最後に訪れたのは、たくさんの帽子やヘルメットが並び、やはり今年注目のベストが展示されている「株式会社 日曜発明ギャラリー」のブース。
セールスマネージャーの山田明子(やまだあきこ)さんにお話をうかがいました。
熱中症対策・予防には『頭を冷やす』がとにかく重要
いきなりですが、面白い会社名ですね?
山田さん:経営者がもともとサラリーマンで、『日曜日だけ発明をして、副業として法的に問題がない範囲でやっていた』ことからこの社名になりました。『サンデードライバー』みたいなイメージです(笑)。
わかりやすいですね〜(笑)。頭にかぶる製品が多いようですが、ユーザーはどういった方々なのでしょうか?
山田さん:夏場にヘルメットをかぶるところが多いです。頭が暑くなると熱中症になりますから。主に建設業や土木、最近では警備員の方々にもご利用いただいています。
氷や水の量、温度を調節して『ちょうどよく』冷やすのがポイント
御社製品はどれも「氷や水で冷やしながら使う」というのが特長のようですが、なにかこだわりがあるんでしょうか?
山田さん:氷や水が冷媒として手に入りやすいのはもちろんですが、それぞれの製品を併用して使えば「体を冷やしすぎる」こともあります。
なので「氷や水の量で温度を調整しながら使っていただく」というのが、弊社「クールビット」シリーズの特長なんです。
たしかに! いくら暑いからといって、冷却グッズを多用して体を冷やしすぎては元も子もありませんね。賢く選んで上手に使い分けたいものです。
用途や環境に応じたグッズを使い分けて、快適な夏を!
2019年最新の空調服、冷却グッズなど暑さ対策事情をお伝えしてきましたが、いかがでしたか? どれも基本的には工場などで利用する業務用、プロ用のニーズからはじまっているのが特長でしたが、今年はいよいよ一般向けにさまざまな新製品が登場していました。
東京オリンピックの開催をひかえ、ますます盛り上がっていく「空調服」をはじめとした熱中症対策・予防グッズ市場。商品によってはホームセンターや専門店だけでなくインターネットでも購入することができますので、ぜひチェックしてみてください。
地球に優しく、体に優しく。冷却グッズをうまく活用して熱中症を防ぎつつ、暑い夏を涼しくスマートに乗り越えましょう!
取材・文・写真:工場タイムズ編集部
写真提供(一部):株式会社空調服