日曜大工やDIYなどで使用する工具にはさまざまな種類があり、その中には使い方があまり知られていないものや種類が多くあります。中でも「トルクレンチ」は一般的なレンチと仕組みが異なることから、一般的なレンチの使い方は知っているけどトルクレンチの使い方は知らない、という方も多いことでしょう。
今回はそんなトルクレンチの種類や使い方、使う際の注意点、選び方をご紹介します。
トルクレンチとは?
所定のトルクでねじやボルトを固定するための器具
自動車のホイールや自転車のペダル部分にはボルトやナットと呼ばれる部品が取りつけられていて、ホイールやペダルといった部品はその締め付ける力によって固定されています。しかし、トルク値と呼ばれる数値で表されるこの「締め付ける力」が強すぎたり弱すぎたりしてしまうと、ホイールが外れて重大な事故を招いたり、自転車のペダルがうまく回らなくなってしまうことがあります。
一般的なレンチやスパナは、このようなボルトやナットを締め付けるために使われる道具ですが、「トルク値を表す単位『Nm(ニュートン・メートル)』を調整できない」というデメリットがあり、トルク値が指定されたボルトやナットを締め付けるのには向いていません。一方でトルクレンチはトルク値を確認しながら使用できるため、最適な強さでボルトやナットを締め付けられるという特徴があります。
以上のことから、トルクレンチとは、ボルトやナット、さらにはそれらに接しているねじを最適な強さで固定するための道具と言うことができます。
トルクレンチの主な種類
トルクレンチには「シグナル式」と「直読式」という大きな2つの種類があり、それぞれはさらにいくつかの種類に細分化することができます。続いては、それらの種類を見ていきましょう。
シグナル式
シグナル式のトルクレンチは、指定したトルク値に到達すると音や光の点滅などのシグナルで知らせてくれることから、この名称で呼ばれています。シグナル式のトルクレンチは主に以下の3種類に分けることができます。
a. プレセット型
握る部分にデジタルやアナログの目盛りがついている、最も一般的なタイプのシグナル式トルクレンチです。この目盛りでトルク管理(トルク値の指定、調整を行うこと)が行えることから、これ一本だけで設定可能なトルク値内であればどんなナットやボルトも回すことができます。
b. 単能型
単能型は最初からトルク値が設定されているトルクレンチです。トルク値の変更ができないことから「単能型」と呼ばれ、その数値に合ったボルトやナットしか回すことができません。そのため、このタイプのトルクレンチは、トルク値が異なる複数のものがセットになって販売されていることもあります。
c. 外付け型
目盛りの部分を外付けするタイプのトルクレンチです。基本的な仕組みはシグナル式と変わりません。
直読式
シグナル式は指定したトルク値に達するとシグナルで知らせてくれるのに対し、直読式では目盛りにその時のトルク値が表示され、それを見ながら使用する人が力の調整を行うという違いがあります。直読式のトルクレンチには主に以下の4種類があります。
a. デジタル型
目盛りがデジタル表示になっているタイプの直読式トルクレンチです。このタイプのものにはセンサーが用いられた精度の高いものも多く、トルク値の厳密な調整が求められる現場でも使用されています。
b. ダイヤル型
目盛りがダイヤル式(アナログ式)になっている直読式トルクレンチです。古くから使われており、最もオーソドックスな直読式トルクレンチといえます。
c. プレート型
レンチの握る部分の少し上あたりにあるビームと呼ばれる梁の部分のたわみ具合と、そこに刻印されている目盛りからトルク値を判断する直読式トルクレンチです。「FLレンチ」と呼ばれることもあります。
d. 外付け型
目盛りを外付けするタイプの直読式トルクレンチです。見た目はシグナル式の外付けレンチに似ていますが、こちらは直読式であるため仕組みは全く異なります。
トルクレンチの使い方
トルクレンチの使い方はシグナル式と直読式で若干異なります。続いては、これら2種類の詳しい使い方を見ていきましょう。
シグナル式の使い方
シグナル式トルクレンチは最初にトルク値を指定する「トルク設定」を行う必要があります。この数値が間違っているとボルトの破損や欠落などを招いてしまうため、しっかりと確認しましょう。
トルク値を設定したら、対象となるボルトやナットを回します。設定したトルク値に達すると「カチッ」という音や光の点滅によってそのことを知らせてくれるため、それ以上回してしまわないよう、ゆっくりと回していくのがコツとなります。
直読式の使い方
直読式はその時のトルク値が目盛りにリアルタイムで表示され、最初にトルク値を設定する必要はありません。よって、すぐにボルトやナットを回し始めてしまって問題ありません。
しかし、直読式のトルクレンチはシグナル式のように音や光の点滅でトルク値が適正値に達したことを知らせてくれないため、目盛りから目を離さずにボルトやナットを回さなければなりません。よって、直読式の場合も回しすぎを防ぐためにゆっくりと回し、目盛りを目で追えるようにしておくのがコツとなります。
トルクレンチを使う際の注意点
トルクレンチを使う際には以下のことに注意しましょう。
締め付けすぎ
シグナルや目盛りの変化を無視して締め付けすぎてしまうとボルトやナットは形が崩れてしまい、二度と回せなくなってしまうことがあります。車のホイールをはじめとした高価なものについているボルトやナットをダメにしてしまうと、損害額は非常に高くなってしまうため注意しなければなりません。
ボルトを緩めるのに使う
トルクレンチは基本的に締め付けるための道具なのでボルトやナットを緩めるのには向いていません。また、緩めるのに使ってしまうとトルク設定の精度が落ちてしまうため注意が必要です。
トルク値をそのままの状態にして保管する
シグナル式トルクレンチを使った後、トルク値を最小値に戻さないで保管すると高い負荷がかかってしまいます。そのため、使った後は必ずトルク値を最小値に戻す必要があります。
トルクレンチの選び方
トルクレンチを選ぶ際には以下の点を押さえるようにしましょう。
差込口のサイズを見る
トルクレンチはボルトやナットと差込口のサイズが合っていないと使えません。よってトルクレンチ選びでは、まず差込口のサイズから調べるようにしましょう。サイズが変えられるモンキーレンチ型のものやソケット(先端部の取り外し可能な部品)の種類が多いものは、さまざまなサイズのボルトやナットに対応できるためおすすめです。
トルク値を調べる
トルクレンチはものによってトルク値の最大値が異なります。よって、トルクレンチ選びではトルク値をしっかり確認するようにしましょう。また、常に最大値で使っていると劣化が早くなってしまうので、7割から8割程度のトルク値で使うことを考えて選ぶのがおすすめです。
「シグナル式」「直読式」は好みで決めればOK!
トルクレンチは差込口のサイズとトルク値が適正であれば、基本的にシグナル式、直読式のどちらでも問題はありません。よって、自分が使いやすいと感じるタイプを選びましょう。
トルクレンチは、私たちの身を守ってくれる高性能な工具!
ボルトやナットはさまざまな製品に取りつけられていますが、その中にはタイヤ交換の際に回すもののように、厳密に決められたトルク値で締め付けないと、重大な事故の原因となりうるものもあります。トルクレンチとはこのようなトルク値の微調整ができるレンチであることから、私たちの身を守ってくれる高性能な工具といえるかも知れません。
制作:工場タイムズ編集部