将棋・囲碁などのゲーム、掃除ロボット、スマートフォンの音声認識アプリなど、人工知能の活躍は身近なところですでに始まっています。電力管理を人工知能に任せる工場も登場しました。
インターネット上を飛び交う膨大な量のデータ(ビッグデータ)から、価値ある情報を選び出す能力を持った最新の人工知能は、その汎用性(はんようせい=一般的に幅広く活用できること)の高さから、いろいろな分野で利用される可能性を秘めています。
今回は、工場とも関係の深い、人工知能についてご紹介します。
そもそも人工知能って何?
人工知能(Artificial Intelligence、AI)とは、人工的に作られた知能を持つ機械、およびそれを実現させるための基礎技術のことを言います。
人間の脳内にある「大脳新皮質」と呼ばれる部位では、「言語」知覚」「思考」「推理」「計算」「記憶」などが行われています。大脳新皮質は神経細胞とニューロン(神経回路)がつながり、複雑な情報ネットワークとなって外部から入る情報を処理しています。この仕組みをコンピュータで実現したものが人工知能です。
これまでも人工知能と言われるものはありましたが、いずれも人があらかじめプログラムをしたようにしか機能しませんでした。これに対し、今話題の人工知能は、プログラムを組み込まなくても、対応の仕方を自分で学習し、目的を達成するためのコツや着眼点さえも見つけ出します。これを音声の認識に役立たせたのが、iPhoneに搭載されている「Siri」という音声認識アプリケーションです。スマホに話しかけるだけで友達に電話をかけたり、メールをしたりできます。音声認識の精度向上は、人工知能の進化に不可欠な大量のデータ、そしてハード側の高速な処理能力のおかげです。スマホでは入力文字の予測変換にも人工知能が利用されています。
第3次AIブーム?今人工知能が注目されている理由
2016年は「第3次AIブーム」と呼ばれています。人工知能の研究は1950年代、80年代と二度のブームがありましたが、実用化は難しく、長続きはしませんでした。三度目のブームの場合は事情が違います。それは、インターネットが普及したことでデジタルデータが爆発的に増大したこと、2000年代にコンピュータ自身が学習する「機械学習」という手法が開発されたことが背景にあります。
機械学習とは、人が経験を通して学習するように、コンピュータに自己学習させる技術です。ここから「ディープラーニング(深層学習)」という革新的な技術が生まれました。人の神経回路を手本にソフトウェア化したもので、自己学習の能力に加え、色や形、質感、全体像などから複数の特徴を人工知能自身が選んで、より正確な識別を行います。特徴の抽出は、これまで人が教えていました。それを不要にしたことで、人工知能の汎用性が高まり、産業分野への幅広い応用が期待できるようになったのです。
囲碁のプロを負かして話題となった人工知能では、過去の棋譜をデータとして与え、3000万局もの自己対局、つまり自己学習をさせて鍛えました。今までは人に頼っていた画像認識、音声認識、顔認証、医療用画像の解析などで、人間を超える精度を実現しつつあるのがディープラーニングです。
人工知能と共存!工場での働き方はどう変わる?
人工知能は工場でも導入されはじめています。最後に人工知能と工場、そこで働く人たちの関係性についてお伝えします。
モノのインターネット
パソコンやスマホだけでなく、冷蔵庫やテレビまでインターネットでつながるIoT ( Internet of Things 、モノのインターネット)が現実になっています。工場などの生産現場でも機械同士がつながり、情報のやり取りをしています。多数のセンサーが取得した情報は内容も量も膨大です。これを人工知能が解析することで、集めた情報から意味のある情報を引き出します。エネルギー管理システムに人工知能を導入すれば、発電と蓄電、省エネの各装置を連携させ、工場の稼働状況に応じてエネルギー消費を最適化します。工場内での人の動きを計測し、作業の負担が偏らないよう、仕事の割り当てを変えたりすることにも人工知能が役立ちます。こうして生産管理も含めた工場全体の最適化や、人が快適に働ける環境を実現するのが人工知能を活用した新しい工場の形である「スマート工場」です。
工場に人間は必要不可欠
工場に人工知能が導入されたからといって、工場が人工知能とロボットだけになってしまうことはありません。人間が機械のそばについていることで、機械の異常に気付いたり復旧をさせたりすることができるからです。それに生産上の課題を見つけることや、人が不快・不便に感じる問題を解決するのも、人間でなければできない仕事です。今後は人工知能と人がお互いに支えながら、工場で働くことになるでしょう。
人工知能と共生できる働き方を目指そう
「人工知能が人の仕事を奪う」という脅し文句がメディアに取り上げられることがあります。実際、人工知能によって受付やコールセンターの業務がコンピュータに取って代わられたり、ホテルのサービスもロボットが対応するようになるかもしれません。医師や弁護士、会計士といった「エリート」たちも安心はできません。専門的な知識と判断が必要な仕事こそ、人工知能に代替される可能性が大きいのです。しかし機械にはできない、人だけが持っている能力があります。それが何かを見極め、活かしていくことが大切です。人工知能と共生、協働を考える時代がやって来ようとしています。
制作:工場タイムズ編集部