「植物工場」という言葉を聞いたことがありますか?これは、野菜や果物を育てる農業を工場の中で行うシステムのことです。
現在、日本全国に約50カ所あり、大手電機メーカーが本格参入するなど盛り上がりを見せています。「工場の中でどうやって植物が育つの?」と疑問を持つ人がいるかもしれませんが、秘密は人工光などの最新装置にあります。
今回は、植物工場で使われる装置についてご紹介します。
室内でも育つ?植物工場の照明とは?
植物工場のメリットは、天候に左右されずに植物を育てられることです。
太陽にあたらなくても育つの?
植物と言えば太陽の光を受けてすくすくと育つというイメージが強いもの。実際、光を受けなければ植物が育つことはありません。この光をつくり出しているのが、人工的に植物の育成を促すLED(発光ダイオード)照明の装置です。
最近、企業や店舗だけでなく一般の家庭でもLED照明を取り入れるところが増えてきました。そのLEDを使った特殊な照明は、太陽に代わって植物を育てるための光としても活躍しています。照明をコントロールすることで日中と夜間を人工的につくり出し、まるで屋外で育てているように工場内で植物の光合成を促して育成することができるというわけです。
植物工場の最大のメリットは日照不足の心配がないことです。屋外で育てていると、どうしても天候によって作物の生育状況が左右されます。日照不足、雨不足、逆に雨が多すぎても思ったように植物が育ちません。台風などの大きな自然災害が起きると、大きな被害を受けてしまうこともあります。
しかし、工場の中なら、このような心配がありません。自然の影響を受けないために一年中、安定して植物を育てることができます。だから安定した価格で消費者へ商品を提供できるのです。これが、植物工場が「農業革命」と言われる理由です。
自然災害の被害を受けない!植物工場の空調とは?
植物工場では、植物がよく育つのに最適な空調システムを取り入れています。
最適な環境を維持!空調の仕組み
植物の生育に適した気温を一定に保つことができるのが植物工場の空調システムです。たとえばレタスは20~25度の温度を常に保つことが大切ですが、植物工場なら簡単に行うことができます。さらに、温度だけでなく風を調整して工場内に気流を起こすことで、それぞれの植物にふさわしい湿度を確保することができます。
同時に、植物の成長に欠かせない二酸化炭素の濃度を調整することができます。植物は光だけでなく、葉や茎などから二酸化炭素を吸収することによって光合成を行います。二酸化炭素の濃度が高まると光合成の速度が1.5~2倍ほど早くなると言われているので、これを調整することで、より育ちやすい環境を整えられるのです。
こうして光・気温・湿度・風・二酸化炭素といった植物の成長に欠かせないエネルギーを調整することで、季節や環境に左右されずに品質の高い植物を安定的に生産できるのが植物工場です。近年、異常気象が問題になっている日本では、非常に注目される技術となっています。
植物工場の種類って?
植物工場にはいろいろな種類があります。その中から3つご紹介します。
完全人工光型
完全人工光型は、完全に外からの光をシャットアウトした閉鎖環境の中で、蛍光灯やLED照明などを使って栽培する方法です。太陽の光をまったく使わずに育てるため、気候に影響されることがなく、効率よく栽培できるメリットがあります。また、工場が完全に密閉されているため、病気や害虫の心配がありません。そのため農薬を使わずに植物を育てることができます。
太陽光利用型
太陽光利用型は、その名の通り太陽の光を使って温室などで栽培する方法です。基本となる光は太陽から取り入れ、雨天や曇天時に不足した分を人工光によって補います。
太陽光・人工光併用型
太陽光利用型より人工光の割合を多くしたものです。太陽光利用型よりも安定した生産ができ、同時に完全人工型に比べて費用を安く抑えられます。
シンガポールでオープン!屋内植物工場とは?
実際に植物工場を取り入れた例をご紹介します。
2014年7月に、日本の大手電機メーカーがシンガポールでは初となる植物工場をオープンしました。約250平方メートルの屋内農場でミニ赤大根・サニーレタス・水菜を栽培し、それを日本のレストランに提供するという仕組みで注目を集めました。今では野菜の種類を拡大し、ベビーホウレンソウやルッコラ、バジル、大葉なども栽培されています。日本の高い技術力が生み出す高品質野菜は現地でも評判になっていて、東南アジア地域での大量生産を目指しています。
食の安定供給と地域活性化につながる植物工場
季節や環境に左右されず、高品質で安全な植物を安定的に供給できる植物工場。LED照明や空調設備を使うことで、世界各地で同品質の野菜を生産することが可能になり、大きなビジネスチャンスととらえた企業が相次ぎ参入しています。こうした食の安定供給という点だけでなく、地方の遊休地を活用することで地域の活性化につなげることも期待されており、今後さらに注目されるのは間違いありません。植物工場に特化したWebサイトなども登場しています。興味がある人はそちらも見てみてはいかがでしょうか。
制作:工場タイムズ編集部