「宇宙産業」というと、「遠い世界の話で自分には関係ない」と思う人がいるかもしれませんが、日本のモノづくりの技術がロケットや人工衛星の製造に大きく貢献しています。
宇宙には無限の可能性が秘められていて、宇宙開発を推進することが人類の未来を切り開くと考えられています。その宇宙産業を支えているのは、工場なのです。
今回は、そんな日本の宇宙産業についてご紹介します。
日本の宇宙産業の歴史とは?
宇宙産業の歴史は決して順風満帆ではありませんでした。その歩みを振り返ります。
日本の宇宙開発の発足
世界の宇宙開発の歴史は、西暦1200年頃の中国で、火薬を使ったロケット花火のような「火せん」という“ロケット”がつくられたことが始まりとされます。
一方、日本の宇宙開発の始まりは、1952年の「東大生産技術研究所」の発足からです。その研究所で、故糸川英夫教授らによって開発されたのが長さわずか23cmの「ペンシルロケット」でした。大型ロケットを徐々に小型化していったロシアや米国とは対照的に、小型のものから大型化していく方針でスタートしたのです。このペンシルロケットを打ち上げる実験が1955年に行われ、そこから宇宙開発が始まりました。
宇宙開発の禁止
第二次世界大戦後しばらくの間、日本では航空機の技術開発が禁止されました。それを受けてロケットの開発もストップ。1951年のサンフランシスコ平和条約締結で開発が解禁されましたが、他国に対して大幅に後れを取ってしまいました。また、莫大なコストがネックになって、ロケット開発の技術を他の産業に応用するという発想が生まれず、しばらくは研究だけにとどまるという状態が続きました。
それでも進歩する日本の宇宙開発
その後、宇宙開発の研究が進む中、いくつもの研究機関が乱立する事態に陥りました。各機関の連携不足によって開発の停滞や失敗が続いたため、政府は、日本の宇宙産業の信頼回復を目的に各機関を統一、2003年にJAXA(宇宙航空研究開発機構)が発足しました。JAXA発足当初も失敗の連続でしたが、現在では小惑星探査機「はやぶさ」の成功など、日本の宇宙開発の技術は世界から注目されています。
日本の技術が世界へ!
日本での宇宙開発の現状と今後について、わかりやすく解説します。
はやぶさの帰還
上でも触れたように、「はやぶさ」の成功は、日本の宇宙開発にとって非常に価値のあるものになりました。「はやぶさ」は、JAXAの前身であるISAS(宇宙科学研究所)が2003年5月9日に日本の種子島から打ち上げた小惑星探査機です。
世界が「はやぶさ」に注目した理由の一つは動力源にあります。たとえば車はガソリンを使用して動きますが、「はやぶさ」はイオンエンジンで動きます。イオンエンジンは、イオンを反応させて静電気を起こすことでエネルギーをつくり上げるもので、コストパフォーマンスの良さが特徴です。
もともとは米国で研究が進められていたのですが、実用化は難しいとして研究がストップしていたのを、日本が独自に開発。「はやぶさ」は、イオンエンジンを搭載した初めての宇宙探査機になりました。「はやぶさ」は2005年に小惑星「イトカワ」に到着してサンプルを採集した後、2010年6月13日に約60億kmの旅を終え、無事に地球に帰還。日本の技術力の高さを世界中に知らしめました。
イプシロンロケット
今後の宇宙開発で注目されるのは、「イプシロンロケット」です。宇宙開発のネックは莫大なコストがかかることです。JAXAの「H-ⅡAロケット」を1回打ち上げるためには、約100億円ほどかかります。しかし、毎回そんなに費用がかかっていては、宇宙開発の発展は見込めません。そこで登場したのがイプシロンロケットです。
イプシロンロケットはコストパフォーマンスに優れたロケットをつくることを目的に、モーターの仕組みを簡易化するなどして開発されたもので、最終的には30億円以下の打ち上げ費用を目指しています。これが成功すれば、日本の宇宙開発技術はグンと身近なものになるでしょう。2013年に試験機の打ち上げに成功。2016年度中に強化型イプシロンロケットが打ち上げられる予定になっています。
宇宙産業の技術を支える工場
ロケットや人工衛星には、多くの機器や部品を使います。その数はH-ⅡAロケットで100万点以上。それらの部品を作っているのが工場です。
ロケットを組み立てる工場
大手企業が持つ全国の工場で、ロケットや人工衛星の部品が製造され、組み立てられています。作られているのは、ロケットエンジンやエンジン心臓部のターボポンプ、太陽電池パネルなど多岐にわたります。さらに、大型ロケットの組み立ても工場で行われています。組み立てに際しては、少しのミスが大きな事故につながりますので、個々の部品が人の手によってチェックされ、細かな作業には熟練者のみが取り掛かるなど丁寧な製造環境がつくられています。
宇宙ゴミの除去
宇宙空間には、過去に打ち上げたロケットや衛星の残骸など「デブリ」と呼ばれるゴミが多数存在しています。このデブリを取り除くための最先端技術を提供しているのが、漁網を主力商品にしている会社です。
宇宙に高速で舞うデブリを取り除くためには、デブリに長さ数kmの網状のワイヤーを取り付け、発生した磁場によって速度を落としてから、大気圏に落下させます。大気圏に落下したデブリは、大気圏の摩擦熱で消滅するので、低コストで宇宙ゴミを消滅させるには最善の方法だと考えられています。この技術の実現のためにはアルミ線で網を編む必要がありましたが、太さ0.1mmのアルミを編むのは至難の業でした。それを実現させたのが、日本の民間企業の技術力でした。
大阪の衛星「まいど」
大阪では東大阪工業地帯の不況の波を押し切るために、「宇宙開発協同組合SOHLA(ソラ)」と呼ばれる組織をつくり、航空宇宙産業を地場産業へと発展させる取り組みが行われました。2008年には小型衛星「まいど1号」が完成、09年に打ち上げに成功しました。現在は資金難などが原因で運用を停止していますが、二足歩行ロボット「まいど君」をJAXAとの協力で月に打ち上げる研究が続けられています。
日本の製造業が宇宙産業の未来を切り開く
戦後、他国に後れを取っていた日本の宇宙開発ですが、現在では「はやぶさ」の成功などで世界中から評価されるまでに発展しています。また、JAXAを中心とした宇宙開発だけでなく、民間の取り組みも活発化してきました。
有名な例が、ライブドア元社長の堀江貴文氏が北海道で進める宇宙事業でしょう。宇宙開発を支えるのは、製造業の技術力の高さです。宇宙産業に興味のある人は、ロケットのどの部品が、どこの工場でどんなふうに作られているか、Webサイトなどで調べてみてはどうでしょうか?
制作:工場タイムズ編集部