どのような業種でも職場環境が悪化すると、そこで働く従業員の健康に被害が及ぶ危険性は非常に高くなります。昨今では、このような職場環境の改善が多方面で叫ばれており、そのための取り組みを積極的に行う企業も増えています。
今回は、職場環境の中で健康に被害が及ぶような問題を見つけ、改善する上で重要な役割を担う「衛生管理者」の資格についてご紹介します。
衛生管理者とは?
衛生管理者とは、受験資格を満たし試験に合格することで、その資格を取得した人のことを指します。この衛生管理者は、50人以上の従業員が働いている事業場では1人以上配置することが法令で義務付けられており、これに違反した場合、50万円以下の罰金が科されることが労働衛生基準法で定められています。
衛生管理者を置く必要がある事業場とは、個々の支店や支社、店舗などを指すことから、例えば50人以上の従業員が働く支店が複数ある会社の場合、会社全体で1人の衛生管理者を選任するのではなく、支店ごとに衛生管理者を選任しなければなりません。
また、選任しなければならない衛生管理者の人数は従業員の人数に比例するようになっており、従業員数が201人以上~500人以下であれば2人、従業員数が501人以上~1,000人以下であれば3人といったように徐々に多くなります。よって、会社の規模を拡大していくとひとつの事業場だけでも衛生管理者の人数を増やさなければならないため、注意が必要です。
衛生管理者として選任する人が決まったら、所轄の労働基準監督署へ報告する必要もあります。この報告は衛生管理者を選任しなければならない理由が生じた日から換算して14日以内に行わなければならないため、例えば新入社員を迎えることで従業員が50人を超える場合は、新入社員の入社日前から衛生管理者を選任するなどし、期限を過ぎてしまわないよう注意しなければなりません。
以上のように、衛生管理者とは法令上で選任・報告が義務付けられている重要な役職であり、事業場ごとに資格保有者を採用する必要があります。
衛生管理者の役割
従業員が50人を超える事業場で選任が義務付けられている衛生管理者。その役割としては以下のものがあります。
労働者が安全に働くための管理業務
衛生管理者の役割のひとつとして、労働者が安全に働くための職場環境の整備・管理があります。衛生管理者には毎週1回職場全体を巡視し、設備や作業方法、衛生状態に問題があれば、すぐに対策を講じることが義務付けられています。
また、職場の規模によっては週1回の巡視だけでは、作業員の健康に被害が及ばないだけの十分な安全を確保することが難しい場合もあるため、職場環境に応じた臨機応変な対応によって常によい状態を保つ必要もあります。
作業管理・健康管理
従業員が安全に作業を行えるようにするためには、環境の改善だけでなく、作業方法や作業で使う道具の安全性に関しても十分な管理が必要です。これらをまとめて作業管理と呼び、これもまた衛生管理者に割り当てられた役割となっています。
また、職場では健康診断の結果から従業員の健康状態を把握しますが、現在では個人情報保護の観点から、会社側が従業員の健康診断結果を勝手に見られなくなっています。しかし、衛生管理者にはこれを見る権限が与えられており、その内容を基に従業員の健康管理をすることもまた衛生管理者の役割となっています。
健康の保持・増進のための取り組み
衛生管理者には従業員に健康の保持・増進を促す役割も割り当てられています。例えば、健康診断結果から産業医との面談が必要と判断された従業員のための面談日程の調整や、健康診断結果から統計を作成し、従業員全体にどのような健康面での取り組みが必要であるかを知らせることなどは衛生管理者が行わなくてはならない業務となります。
衛生管理者になるための資格
衛生管理者になるためには、試験に合格し資格を取得しなければなりませんが、衛生管理士の資格は2種類存在し、それぞれで権限に違いがあることから、取得前からしっかりと確認しておかなければなりません。続いては、それら2種類の違いについて説明します。
第一種衛生管理者
第一種衛生管理者と第二種衛生管理者の違いは対応する業種にあります。このうち第一種衛生管理者は全ての業種に対応できるようになっており、衛生管理者の資格の中でも上位に位置します。
このことから、例えば衛生管理者の資格を取得して就職したいと考えているが、具体的な希望業種については決めていないという場合は、第一種衛生管理者の資格取得を目指すのがおすすめです。
また、将来的に衛生管理者として転職することを考えている場合にも、転職先の候補を増やせるという理由から第一種衛生管理者の資格取得を目指すのがよいでしょう。
第二種衛生管理者
全ての業種に対応している第一種衛生管理者に比べ、第二種衛生管理者は有害業務との関連が比較的少ない金融業、保険業、卸売業、小売業などの一部の業種にて衛生管理者として働くことができます。
しかし、農林畜水産業、鉱業、建設業などをはじめとした有害業務を行うことも多い業種で衛生管理者として働くことは第二種衛生管理者の資格しか保有していない人には認められていません。よって、これらの業種への衛生管理者としての就職を希望される方は第一種衛生管理者の資格取得を目指すようにしましょう。
衛生管理者の受験資格
衛生管理者試験の受験資格としてはさまざまな条件が決められており、そのうちのどれかに該当し、なおかつ条件ごとに決められた添付書類を用意できれば受験ができます。代表的な受験資格としては以下のものがあります。
大学(短期大学を含む)または高等専門学校卒業後、1年以上実務経験
衛生管理者試験を受験する人の中でも多いのが短期大学を含む大学、もしくは高等専門学校を卒業後、1年以上の労働衛生の実務経験を積んだ人です。この条件を満たした上で受験する場合、卒業証明書と事業者証明書の提出が必要となります。
高等学校または中等教育学校卒業後、3年以上の実務経験
衛生管理者試験は最終学歴が高等学校、もしくは中等教育学校の卒業であっても受験できます。ただし、この場合労働衛生の実務経験は3年以上積む必要があります。また、この場合も卒業証明書と事業者証明書の提出が必要です。
10年以上の実務経験
衛生管理者試験は最終学歴がどのようなものであっても労働衛生の実務経験が10年以上あれば受験できます。この場合の提出書類は事業者証明書のみとなります。
これら以外にも衛生管理者試験の受験資格としてはさまざまな条件が取り決められています。そのため、これらの条件に当たらない方であっても受験資格を満たしている可能性がありますので、詳しくは安全衛生技術試験協会が発表する最新の情報を確認してください。
職場環境を整える衛生管理者の重要な役割
どのような職場であっても、そこで働く従業員は自分に与えられた仕事をこなすことだけで精一杯なことが多いため、職場環境の問題点を見つけ出し、それらを改善するだけの余裕はないことがほとんどです。しかし、問題がある状態で仕事を続けていれば、従業員に健康被害が及ぶことは免れません。
衛生管理者とは、このようなことを防止するために職場環境を整備する上で、非常に重要な存在です。劣悪な環境下で仕事をさせるブラック企業への目が厳しくなりつつある現状を考えると、その社会的ニーズは今後も高まることが予想できるといえます。
制作:工場タイムズ編集部