「ガラス繊維」と聞いて、どんなものを想像しますか?
ガラスですから、硬くて鋭利なものという印象が強いかもしれませんが、ガラス繊維の形状は私たちが知っているガラスとはかけ離れたものです。しかも、自動車から住宅までいろいろなところで大活躍しています。
では、ガラス繊維とはどんな繊維なのでしょうか?今回は、私たちの身の回りでよく使われているガラス繊維についてご紹介します。
ガラス繊維とは?
「ガラスと繊維の良いとこ取り」と例えられるガラス繊維。一体、普通の繊維とはどう違っているのでしょうか?まずは、その形状や特徴からお伝えします。
ガラス繊維とは?
ガラス繊維は、その名前の通りガラスからつくられた糸や綿のことを指します。固形のガラス素材と、柔らかな繊維素材では形状が違いすぎて、見た目を想像しにくいかもしれません。しかし、実物を見ると、繊維というだけあって、綿菓子のようにふんわりとした手触りの「グラスウール」(短繊維)や、しんなりとした糸状の「グラスファイバー」(長繊維)など、もともとのガラスとはかけ離れた形状をしています。
特徴
ガラス繊維の特徴は、ガラスが持つ耐熱性・不燃性・耐久性と、繊維が持つ柔軟性を併せ持っている点にあります。たとえば、綿菓子のような形状をしているグラスウールの場合、細い繊維が複雑に絡み合うことにより、綿状の物質の中に何層もの空気の部屋をつくっています。この部屋の中では、空気が静止して動けなくなっています。そのため、建築物を造る際にグラスウールを使用すると、冬は外の冷気を部屋の中へ入れにくく、逆に部屋の中の暖かい空気を外部へ逃さないようにすることができます。つまり「断熱材」として優れた役割を果たすことができるのです。一方、糸状のグラスファイバーには、伸び縮みをしないという特徴があります。その強度はピアノ線よりも強く、しかも熱や電気、薬品の影響を受けにくいという特徴も併せ持っています。そのため、自動車や電子・電気部品などに使用される強化プラスチックの材料として広く使用されています。
メリット
耐熱性や強度などいろいろなメリットを秘めているガラス繊維ですが、私たちの身近なところで幅広く使用されている理由はほかにもあります。一つ目は害虫予防です。一般的な断熱材には、白アリなどの被害を受けやすい素材(有機物)が含まれていますが、ガラス繊維の場合はガラスを原料としているので、害虫被害に遭うリスクを抑えることができます。二つ目は劣化しづらい点です。ガラス繊維はプラスチックが原料の繊維と比べると、強度面に優れているだけでなく、劣化しにくいという特徴があります。三つ目は、軽量で施工が簡単なことです。ガラス繊維は、ボード状、ロール状、綿状などいろいろな形状に加工できるため、建材や工業用など用途に応じて使い分けをすることができます
ガラス繊維はどうやってつくる?
硬くて鋭利なガラスを柔らかな糸や綿状にするためには、どんな加工が施されているのでしょうか?次に、ガラス繊維のつくり方についてご紹介します。
原料
ガラス繊維は主原料の80%以上にリサイクルガラスを使用していて、家庭から回収された空き瓶が使われているほか、工場から出された端材なども一部主原料として使用されています。ちなみにガラス素材は施工後も再生利用が可能なため、環境保全の面からも優れた素材と言えます。
溶解
硬いガラスを柔らかな繊維状にするためには、最初にガラスを高温で溶かす「溶解」という作業が行われます。ガラスは薬品からの影響を受けにくいという特徴を持っているため、1300~1600度以上の高温にさらすことにより、ガラスを柔らかく溶かしていきます。
紡糸
次に、柔らかくなったガラスは、綿状のグラスウールか糸状のグラスファイバーに繊維化します。グラスウールの場合は、溶かしたガラスを遠心力で吹き飛ばし、綿状になったところへ結合剤を吹きかけます。仕上げにオーブンで熱することで、使いやすい形状に成形されます。(屋台などで見かける綿菓子の作り方とほぼ同様のイメージです)
一方、グラスファイバーの場合は、溶かしたガラスを白金ノズルと呼ばれる専用の機械に通し、巻き取ることで糸状に成形されます。ガラスの素地を機械から引き出す速度は、なんと毎分約3000メートル!引き出したグラスファイバーは、直径6~24マイクロメートルもの細さになります。(※ちなみに人間の毛髪の細さは50~100マイクロメートル程度です)
加工
紡糸されたガラス繊維は、それぞれの用途に応じて最適な形状に加工されます。綿状のグラスウールは、断熱材などに使用されることから板状や筒状に加工されることが多く、糸状のグラスファイバーは、市販の糸やナイロンテープのように巻きつけられた状態に加工されることが大半です。
こんなにあった!? 身の回りのガラス繊維
ガラス繊維は、自宅や職場、車などに幅広く使われています。
東京ドーム
優れた断熱性や、音の反響を抑える吸音性を誇るグラスファイバーは、大勢の観客が集まるスタジアムやドームに適した材質です。たとえば、東京ドームの上部に設置されているテント状の屋根の膜材にもグラスファイバーは使用されています。
住宅・ビル・自動車
暖かい空気や冷たい空気を逃しにくいという特徴を持つグラスウールは、住宅用の断熱材にうってつけの素材。あなたの自宅や会社の天井や外壁にも使用されているかもしれません。また耐久性と柔軟性の両方を併せ持っていることから、自動車にも緩衝材として使用されています。
発電機のモーターコイル・耐熱ケーブルの被覆
グラスファイバーは、電気絶縁性が高く、熱を通しにくいという特徴を持っています。そのため、高い精度や機能の安定性が求められる電子機器のほか、発電機用のモーターコイル、耐熱ケーブルの被覆に使用されるなど、産業・工業分野で欠かすことのできない素材として知られています。
私たちの生活に必要不可欠なガラス繊維の未来
ガラス繊維は、生活環境の向上や、産業・工業分野の発展、防災・環境保全など、これからの日本を支える重要な素材として注目されています。名前はそれほど知られていないかもしれませんが、身の回りで幅広く使用されているのです。ガラス繊維の研究開発は現在も進んでいます。興味のある人は、ネットで「ガラス繊維」と検索してみましょう。どんなメーカーがどんな方法でガラス繊維をつくり、どの分野に活用されているのかが詳しくわかると、より関心を持てるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部