自動車を軽くする材質「マグネシウム」を成形
株式会社東海理化では、自動車の中でも⼀番軽い材料「マグネシウム」を自動車部品に採用している。
運転席周りのステアリングホイールやキーロック等の部品にマグネシウムを使うことで、自動車の軽量化・燃費向上に貢献してきた。この様々な部品に加工できる技術と自動車の中でも⼀番軽いとされる「マグネシウム」を、他業界に活用できないかという想いで、自動車以外の福祉用品やアウトドア用品などを展示・提案しているようだ。
軽く、成形しやすい「マグネシウム」
展示されている杖を手にしてすぐに「軽い」という⾔葉がでてしまった。
4本足の杖なのに市販の杖と比べる必要もないほどの軽さを感じた。杖の足の部分は株式会社東海理化の製品で、杖の柄の部分は株式会社マクルウの製品を合わせた商品となっている。
また、JIS認定の強度も出るように設計されているので、軽さと丈夫さを兼ね備えている。さらに、東海理化でしている自動車塗装の技術も採用。単純な塗装だけでなく、フィルムに自由な画像を作ったりもできるので樹脂の上でも、金属の上でも、好きなカラーリングを提案できる。
アウトドア用品として展示されていたぺグは、さらに驚きがあった。42本の鉄ペグのセットと、42本のマグネシウムペグセットを持ち比べてみると、圧倒的な重量の差に興奮を覚えた。
もちろん、軽いのはマグネシウムペグの方だ。
鉄ペグは1本約150グラム〜200グラムなので、42本セットでは約6kg〜8kgになる。マグネシウムペグは若⼲かさばるものの、軽さは鉄ペグの半分以下になるのだから「マグネシウム」の軽さがいかに、「持ち運びの良さ=利便性」につながるかは容易に見当がつく。
アルミニウムと同等の熱伝導率とそれ以上の軽さ
マグネシウムを加工したダッチオーブンの展示もあった。
担当者からは「実際、私も何回か料理をしたんですが、これで米を炊くととてもおいしいんですよ」とコメントがあった。
鉄の鋳物のダッチオーブンと並べて、同じコンロ、同じ時間、同じお米を使って比較した結果、おいしさの違いを感じたと語ってくれた。この理由は熱伝導率の良さと、熱ムラがないことがあげられる。
自動車部品ではEV車の普及に伴い、熱交換部品が重要視されている。通常これらの部品には、アルミニウムが採用されているが、マグネシウムはアルミニウム同等の熱伝導率を得られるとのこと。
マグネシウムを素材として使うことで、アルミ同等の熱伝導率とアルミ以上の軽さを実現でき、鉄のダッチオーブン以上のふっくらおいしいお米を炊き上げられるのだ。
アウトドア用品では、軽量化にチタンがよく使われているが、熱伝導率が良くないので、火の当たっている所と当たっていない所で熱ムラがあり、焦げてしまうことがある。マグネシウムのダッチオーブンなら熱伝導率も、軽さも満足いく評価を得られるだろう。
環境負荷低減への取り組み
東海理化では、環境の負荷低減につながる製造工程の開発にも積極的だ。マグネシウムはリサイクルできるように、社内で出たスクラップは全て再生し、循環させている。
マグネシウムは⼀般的に「燃えやすい材料」というイメージが強く、溶かす時に燃焼してしまう。そこで、東海理化ではマグネシウムを鋳造する際に保護ガス用のカバーガスを使用。
カバーガスは、⼀般的に六フッ化硫⻩ガス(SF₆)を使っており、地球温暖化係数がCO 2 の約23,900倍あり、⾮常に環境に悪いのが現状である。
そこで東海理化では世界に先駆けてフッ化ケトン(FK)ガスという、地球温暖化係数1のガスを代替使用することでSDGsに貢献している。
東海理化の半導体センサー
半導体センサーが内蔵されているロボットについても話を伺った。
写真は光センサーが内蔵されたロボット。ロボットから肉眼では見えない光(赤外線)が発光しており、ロボットの前に手を出すと、光センサーの検知によりロボットが止まるようになっている。
東海理化では、半導体センサーを内製で設計から製造まで対応。半導体センサーの種類は、光に反応するセンサーや磁石に反応するセンサーなど様々だ。
こちらは磁気に反応するセンサーとセットで使うマグネットだ。東海理化で作っているマグネットは、樹脂の中に磁石の粉を混ぜて⾦型に流し込んで作っている。
形も様々に成形でき、プラスチックのような軽さがあることが特徴だ。純粋な磁石に比べるとパワーは弱いが、自動車部品などのパーツの中で自由に形を変えられるという利点がある。
また、磁石に溝を作ったり、彫り込んだ形にできるので、センサーに伝わる磁力を調整し、比例関係で伝わるようにすることで、センサーの負荷を減らすことができるようだ。
東海理化の既存製品であるマグネットは、車両に搭載されるシフトレバーの部品として使われている。私たちが操作するレバーの先端にマグネットがついているのだ。
自動車部品のノウハウを他業界に
今後の展望を担当者に伺ったところ、「マグネシウム」も「半導体センサー」も共通することは、新たなニーズに応えるということだった。
「商品自体は軽量な上、熱伝導率も良いので、アウトドアのニーズもこれからできてくるかなと思います。実際、アウトドアメーカーさんとのコラボも検討中です。今まで、自動車の中にいた材料を使って貢献できることを目指しています。」
マグネシウムの実用化について、担当の方は嬉しそうに語ってくれた。昨今のキャンプ熱もあいまって、世の中に浸透するのも時間の問題かもしれない。
東海理化で脈々と受け継がれてきた⾼い技術力と新たな知恵が詰め込まれた製品がまた⼀つ、私たちの⽣活の⼀部になっていく⽇もそう遠くないだろう。
取材先:株式会社東海理化
URL:https://www.tokai-rika.co.jp/
制作:工場タイムズ編集部