2022年6月22日から3日間開催された「日本ものづくりワールド」。
工場設備・備品展で展示を行っていたのは、1919年創業の東京彫刻工業株式会社(東京都)。
今年で創業103年になる、伝統のある企業だ。
長年、金属製品への刻印の手打ち、海外製の刻印機の販売をされていた。そのような中、自社でも刻印機の製造に着手した。そのプロセスや製品の特徴を、営業部営業1課の夏目良氏に伺った。
刻印機とは?
製造年月日や型番を記すために、主に金属に用いられる。打刻ピンを高速振動させて製品に打ち付ける仕組みのドット式であるので、印刷の概念と似ており、塗料と打ち込みの違いであると考えると仕組みが理解しやすい。製造現場で、印刷やシールではなく、なぜ刻印の打ち込みが利用されるのかと言うと、こすれて消えないことが必要不可欠であるからである(こすれて消えないことに関しては、詳しくは「開発の苦労」の章で言及しているので参考にして欲しい)。ソフトウェアで打ち込みの内容を制御し、刻印機で実際に打ち込むという流れだ。実際に展示されていたのが、こちらの「MarkinBOX」という製品である。左が機械を制御するソフトウェアが入ったパソコン、右奥が刻印機である。
打ち込む様子を見せていただいたが、人がペンで文字を書いているような動きに見えた(以下の写真)。
しかし、実際は刻印機が見えないぐらいの速さで何回もドットを打ち込んでいるのである。
製品を2つ持参されていたので、それぞれの違いを伺うと、打てる文字の範囲だそうだ。それぞれのお客様のニーズに合わせて、適切な製品を選べるようになっている。
操作性について伺うと、「ワードやエクセルに使い慣れている人は簡単に直感的に使えますよ」と語る夏目氏。
キーボードで文字を入力し、文字の装飾方法(向き、フォント、間隔等)を編集し、製品の材質に応じた深さを選択する。データをソフトウェアに同期させると、QRコードやロゴなど様々な図形に対応することも可能である。確かに、直感的でシンプルに操作ができると感じた。
刻印機の歴史とマーケット
刻印機は主に海外製が主流で、20年〜30年ほど前から存在はしていた。日本で製造している会社は、東京彫刻工業を入れてたったの2社だそう。国内では非常にニッチな業界ではあるが、需要は非常に高い。老舗の刻印屋のプライドから、自社でも開発できたらと挑戦したそうだ。東京彫刻工業は、海外にも代理店を持ち、国内外合わせると年間1000台以上を販売している。主な取引先としては、大手自動車メーカーが4、5社、他にも様々な機械や部品のメーカーがある。
開発の苦労
開発の苦労について伺った。最も苦労した点は「打刻の深さ」だそうだ。「ただ自動化すれば良いわけではなく、文字の品質をしっかり守ることにこだわってます。刻印屋として、綺麗な文字を作りたい」と夏目氏は語る。自動化のメリットは大きいが、文字の品質が守られなければ「刻印」の意味が薄れてしまう。何か製品に問題が発覚したときに、正しくわかりやすく刻印がなされていることで、製品をたどることができる「トレーサビリティ」が担保される。そのためには、消えない「打刻の深さ」を機械でも実現できるかが鍵となってくる。手打ちでは約0.2~0.3mmの深さが一般的だが、今では機械でも同程度を実現できているそうだ。家庭用の電源でも使える100Vでそれを実現するために、パワーをいかにして出すか、コイルの巻き回数を調節する等の苦労があったそうだ。このようにして、機械でも「消えない」刻印が誕生したのである。
刻印機のメリット
刻印機の導入のメリットを2点伺った。
1点目は、ヒューマンエラーが起こらないことである。手打ちだと、誤った文字の打刻、誤って自分の手を打って怪我をするといった事故などが起きる可能性がある。機械では、ソフトウェアで入力を間違えさえしなければ、正しく自動的に打刻される。
2点目は、製品ロスを防げるということである。1点目で言及したヒューマンエラーの結果、誤った打刻により製品ロスが起きる可能性があるが、機械なら起こり得にくい。したがって、環境にも優しい。安全性・環境への配慮・効率性・正確性を、刻印機は実現するのである。
ただ、刻印機は手打ちに比べて数十倍の値段がするので、導入のハードルはどうしても高くなってしまう。その中で、いかに機械での自動化のメリットを訴求できるかが課題になってくるそうだ。
このように、103年もの伝統がある「刻印屋」として文字の品質への情熱とプライドを持ちつつ、時代に合わせたものづくりに挑戦し続けているのである。
取材先:東京彫刻工業株式会社
URL:https://www.tokyo-chokoku.co.jp/
制作:工場タイムズ編集部