私たちの身の回りには、水やガスなど日々の生活を支える資源を供給するためのパイプが数多く存在し、これらは「配管」と呼ばれます。工場のような規模の大きな施設では、このような配管が特に多くなっており、ものづくりの現場においても欠かすことのできない設備です。
そんな配管を設置する工事では、基本的に溶接技術が用いられることが多く、その作業を「配管溶接」といいます。今回はそんな配管溶接の基礎知識や主な方法、配管溶接工の主な資格などをご紹介します。
配管溶接の基礎知識
配管溶接とは
配管を接続する方法には、開先(かいさき・配管の接続部分)をネジのような形状に加工して(ネジ山を作ってオスとメスの)2本の配管をつなげる「ねじ込み接続」や、開先の外周にボルトとナットを取り付けられるよう加工してつなげる「フランジ接続」などがあります。しかし、これらの接続方法は「圧力に弱い」という欠点があり、水のような高圧が加わるものを供給する配管の接続方法としては適していません。
これに対し、配管の接続部分に溶接施工を行い、2本の配管をつなげる「配管溶接」は圧力に強く、水のような高圧が加わるものの供給にも対応できるというメリットがあります。すなわち配管溶接とは、配管の接続方法の中でも「特に高い耐久性や強度が得られる方法」であると考えると分かりやすいでしょう。
ちなみに配管溶接の方法には、配管そのものを突き合わせた状態で溶接する「突き合わせ溶接」と、接続部分にフランジやソケットを取りつけ固定した状態で溶接する「差し込み溶接」の2種類があります。
配管溶接工の仕事内容
配管溶接工とは、一言でいうと「配管を溶接する仕事を行う人」のことを指しますが、配管溶接とはただ配管を加熱し、接続すればよいわけではありません。
例えば、工場の天井に配管を設置するケースは数多くありますが、この際には作業そのものが非常に困難となり、高い技術が必要となるだけでなく、天井を加熱してしまうことによる破損やほかの配管への影響も考えなければなりません。そのため、配管溶接工の仕事には溶接作業そのものだけでなく、作業を安全に行うための準備や事前確認も含まれます。
また、配管溶接工の仕事には溶接作業を行った後の検査も含まれます。具体的には「超音波検査」と「放射線検査」の2つは配管溶接工が行う検査となっており、溶接機器の使用方法を覚えるだけでは就くことのできない、難易度の高い仕事といえるでしょう。
ちなみに配管溶接工と配管工を同じ仕事だと考える方は少なくありませんが、配管工は溶接に限らず配管の設置やメンテナンスを幅広く行うため、配管溶接工に比べると仕事の範囲が広いという違いがあります。
配管溶接工の年収傾向
平成29年に厚生労働省が行った賃金構造基本統計調査では、溶接工の平均的な年収は約425万円との結果が出ました。この溶接工という仕事には配管溶接工以外の溶接を行う仕事も含まれているためあくまで参考データとなりますが、配管工の基本的な年収水準もこの金額と同等と考えて問題ないでしょう。
また、配管溶接工の仕事では難易度の高い作業を行うための技術を取得していくことでステップアップを図ることができ、より高い技術を持つ人ほど高収入を得られるようになっています。
配管溶接の主な方法
配管溶接は主に以下の方法で行われます。
被覆(ひふく)アーク溶接
配管溶接に限らず溶接作業で広く行われているのが「被覆アーク溶接」です。この溶接方法では最大20,000℃程度の高い温度で「被覆材」と呼ばれる素材を溶かし、部材をかぶせ包んで接続部分を付着させます。
固まった被覆材は非常に高い強度を得るだけでなく、溶接した部材の酸化も防ぐことができるため、高い耐久性が求められる配管の溶接では、この被覆アーク溶接が最も多く行われる配管溶接方法になっています。
ティグ溶接
ティグ(TIG)溶接とは、アルミ、鉄、ステンレス鋼、チタンなどのほとんどの金属に対して行うことができる溶接方法です。基本的な作業方法はアーク溶接と同じで、片方の手に溶接棒、もう片方の手に溶接トーチを持って行います。
ティグ溶接の大きな特徴としては、作業時に火花が飛び散らず、配管溶接時に周辺の配管に熱が加わることで生じる悪影響を最小限に食い止められることが挙げられます。また、溶接した箇所の見た目がよいという点もこの溶接方法の魅力といえます。
ガスメタルアーク溶接
ガスメタルアーク溶接(ガスシールドメタルアーク溶接)は、金属製の電極ワイヤを使用するアーク溶接の一種です。この溶接方法ではガスを使用し、その中でも不活性ガスを使用する方法を「ミグ(MIG)溶接」、二酸化炭素もしくは二酸化炭素とアルゴンの混合ガスを使用するものを「マグ(MAG)溶接」と呼びます。
ガスメタルアーク溶接では専用の溶接機器を使用しますが、この機器を使用できる環境は条件が限定されるため、天井付近や狭い場所で作業をしなければならない配管溶接でガスメタルアーク溶接が採用されることは少なくなっています。
セルフシールドアーク溶接
セルフシールドアーク溶接は、シールド用のガスを使用しない溶接方法です。この溶接方法は被覆アーク溶接に比べ作業効率がよく、見た目がきれいに仕上がるというメリットがあります。
その一方で、セルフシールドアーク溶接は使用するワイヤの値段が高いため、溶接箇所が多くなりがちな配管溶接ではあまり採用されない方法となっています。
半自動溶接
半自動溶接とは、溶接時に使用するワイヤが機器によって自動で供給されるため、作業を行う人はトーチを両手で持つことができます。溶接方法の中では比較的難易度の低いものとなっており、ガスメタルアーク溶接もこの半自動溶接の一種です。
配管溶接工の主な資格
配管溶接工はより難易度の高い技術を身に付けていくことで難しい作業にも携われるようになり、年収アップが見込めるようになります。そのために、以下の資格取得を目標にするのがおすすめです。
アーク溶接特別教育
配管溶接に限らずアーク溶接作業を行うためには、こちらの「アーク溶接特別教育」を受けなければなりません。この資格は学科11時間、実技10時間の講習を2日間にわたって受けることで取得でき、特に試験はありません。そのため、取得は比較的簡単な資格だといえるでしょう。
ただし、この講習を受けるためには「満18歳以上であること」と、受講料12,000円(税込、テキスト代含む)の支払いを済ませていることが条件となります。講習が行われる会場は各自治体で異なるため、最寄りの技能講習協会などが発表する情報を参照してください。
ガス溶接作業者
溶接では可燃性のガスを使用することもあり、その作業を行うためには「ガス溶接作業者」の資格が必要となります。この資格を取得するためには、1時間の試験を含む学科講習9時間と実技講習5時間を2日間にわたって受けなければなりません。
この講習は試験も含むため、アーク溶接特別教育に比べると難易度は上がるものの、しっかり準備をしておけば比較的簡単に取得ができる資格といえます。また、こちらの受講料は講習を行う団体によって若干の違いがありますが、およそ16,000円程度となっています。
溶接技能者資格
配管溶接ではパイプの周囲全体をまんべんなく溶接しなければならず、そのための特殊な技術が必要となります。こちらの「溶接技能者資格」を取得すると、このような配管溶接ならではの技術も身に付けられることから、配管溶接工として働く上では不可欠な資格となります。
この資格は溶接方法によっていくつかの種類に分類されており、試験内容や受験料はそれぞれで異なります。詳細は、試験を主催している日本溶接協会が発表する情報を確認してください。
専門性の高い配管溶接は仕事としても魅力的!
配管溶接は一般的な溶接とは違い、工場などの現場に赴いて作業を行うのが基本となります。また作業の難易度はそれぞれの現場の環境によって異なることから、より専門的な技術を身に付ける必要があります。
これらのことから、配管溶接工の仕事には常に変化があり、それに上手く対応していかなければならない特徴があります。しかし、これは「マンネリ化することが少ない仕事」だといい換えることもでき、ステップアップを目指しやすいという点も含めると大変魅力的な仕事だといえるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部