「TIG(ティグ)溶接」という言葉をご存知でしょうか。TIG溶接とは「アーク溶接」のひとつで、鉄はもちろんアルミやステンレスといった溶接のしにくい金属でも手軽に溶接することが可能なうえ、火花も飛ばないため、溶接のなかでも人気がある方法です。本記事ではそんなTIG溶接の仕組みやメリット・デメリットや手順、役立つ資格などをまとめました。
TIG溶接とは
まずはTIG溶接の仕組みや機械の種類を見ていきましょう。
TIG溶接の仕組み
TIG溶接は「タングステン・イナート・ガス溶接」の略称で「ティグ溶接」とも呼ばれています。アークを発生させる電極にタングステン、シールドガスに不活性ガス(イナートガス)を使うのが特徴です。
アーク溶接のなかでも初心者でも扱いやすいものとされているTIG溶接ですが、その歴史は古く1940年前後には実用化されたといわれています。ガス溶接と同じように、それぞれの手に「溶接トーチ」と「溶接棒」を持って溶接する方法です。
TIG溶接機の主な種類
「溶接機」といわれる機械を使って行うTIG溶接ですが、使用するTIG溶接機は数万円から100万円を超える高いものまでさまざまで、「200V専用」「100V / 200V兼用」「ガソリン・ディーゼル」の3種類に分類することができます。
「インバーター」と「デジタルインバーター」という制御方式がありますが、高価格なのはデジタルインバーターのもの。溶接条件の記憶や再生、溶接管理機能を付けるとさらに値段が上がり、また小さい出力電流より大きい出力電流の方が高価格です。
溶接をする金属の材質や厚さ、使用する状況などによって使用するTIG溶接機は異なり、DIYに向いているものや持ち運びに適したもの、鉄工所に適したものなど、さまざまなTIG溶接機が販売されているので、用途に合わせたものを選ぶ必要があります。
TIG溶接の活用事例
TIG溶接は溶接する金属を選ばないのが特徴でもあり、DIYでステンレスやアルミを接合することが可能です。またバイクショップなどで亀裂(クラック)が入ってしまったホイールを修理するときなど、身近なものの溶接にも使われています。
TIG溶接のメリット・デメリット
TIG溶接を行う上で覚えておきたいメリット・デメリットをご紹介しましょう。
TIG溶接のメリット
溶接のなかでは比較的手を出しやすく、個人で使う機械を購入する際も資格は必要ないため、DIYなどの趣味にも溶接を容易に取り入れられます。また仕事でTIG溶接を行う場合、不活性ガスをシールドガスとして使用しているので空気をシャットアウトできます。
溶接部の強度を高くできるうえ、ピットなどの溶接欠陥が起きにくいだけでなく、溶接部の見た目も美しくなるのです。アルミやステンレスも問題なく接合できるので、車のカスタムや配管などにも使われています。
また溶接作業中に火花が出ることもなく、溶接部をしっかりと見て作業することができます。なので作業がしやすく複雑な形状の溶接に向いています。そして溶接の悩みでありがちな「うるさい音」もなく、作業音が静かなので作業に集中しやすいというのもメリットとしてあげられます。
TIG溶接のデメリット
溶接速度が他の溶接方法と比較すると遅いため、作業に時間がかかってしまう傾向があります。TIG溶接と同じようにアーク溶接のひとつである半自動溶接と比較すると、5~10倍近い時間がかかるといわれているのです。そのため、短時間での仕上げが必要とされている作業には向いていないといえるでしょう。
またTIG溶接は溶接部をシールドガスで覆う方法なので、屋外など風が吹いている場所での作業には向きません。というのも、シールドガスが風で飛ばされてしまうこともあり、作業効率が落ちてしまうため、TIG溶接をする場合は室内やガレージの中など風の影響を受けない場所で作業する必要があります。
TIG溶接は火花が出ない溶接方法ですが、溶接時に強い光が発生することに変わりはなく、溶接面や保護メガネなどを使用しなければなりません。強い光が直接目に当たってしまうと紫外線による角膜の炎症などを引き起こすほか、さらに悪化してしまうと白内障や網膜の損傷など目にダメージを受けてしまうこともあるので注意が必要です。
TIG溶接の基本的な手順
TIG溶接とはどのようなものかご説明してきましたが、ここからは実際にTIG溶接をおこなう場合の基本的な手順をご紹介します。
準備する物
・TIG溶接機
・イナートガスのボンベ(アルゴンガスが一般的ですが、ヘリウムガスが使われることもあります)
・溶接棒(溶接する母体と同じ材質のものを選びます)
・革手袋
・流量調節器
・溶接面および保護メガネ
・タングステン電極
ホームセンターで売っているものも多いですが、ガスボンベなどは専門のガス業者から買う必要があります。
手順
1. トーチにタングステン電極を4~5㎜出すようにして取り付けます
2. トーチのスイッチを入れ、イナートガスの量を調節します
3. 素材に合わせてTIG調節器の設定を行います
4. 溶接面を装着し、母体から45度程度の角度でトーチのスイッチを入れ、溶融池(プール)ができたらトーチの反対側から溶接棒を差し込んでいきます。このとき、溶接棒がアークの下に入らないように注意しましょう
プールを保つため利き腕にトーチを持ち、逆の腕で溶接棒を持つ形が望ましいです。TIG溶接を行う素材はステンレスがもっともやりやすく、アルミでTIG溶接を行いたい場合は機械を変えなければいけないこともあります。そのためTIG溶接機を買う前に、溶接母体の素材をきちんと確認するようにしましょう。
TIG溶接に役立つ資格
TIG溶接を行うにあたって、個人で使う場合に資格がいらないことはメリットのひとつです。とはいえ仕事としてTIG溶接を行う際、資格があるほうが良い、あるいは企業によっては資格がなければ作業不可といったケースもあります。そこでTIG溶接を仕事で行う場合に取得が望ましいとされる資格をご紹介します。
TIG溶接技能者
TIG溶接技能者は被覆アーク溶接やガス溶接と同じように、日本溶接協会の基準にもとづいた検定試験を行い、資格を認証しているものです。ティグ溶接においても基本級とされる「T-1F」をはじめ、専門級とされる「V、H、O、P」の5種類が存在しています。この末文字のアルファベットは溶接の姿勢を意味しており、Fは板が下向きの一般的な溶接のため、もっとも難易度が低いです。
専門級にあたる4つのうち、Pを除く3種類は難易度としては同列とされていて、それぞれ縦向き、横向き、上向きを意味しています。最後のPはパイプ、つまり「管溶接」を意味していて、他の4種類が薄板を突き合わせて溶接するのに対し、管を突き合わせて溶接するため高い技術が必要です。
TIG溶接の技術を仕事に生かしたい場合、ティグ溶接技能者の資格の有無によって企業側が作業者のレベルを判別することもあります。また転職などを考える場合、資格の有無が結果を左右することもあるので、TIG溶接の仕事をしている人であれば取得しておきたい資格といえるでしょう。
初心者にもおすすめのTIG溶接
TIG溶接の仕組みやメリット・デメリット、仕事で生かす場合に有用な資格などをご紹介しました。風に弱いという欠点はありますが、音が静かで火花も出ないTIG溶接は、細かい部分の溶接やほかの溶接では難しい複雑な部分の溶接に向いています。
仕上がりが美しく、個人で使う分には資格もいらないなど、たくさんのメリットがある溶接方法であるTIG溶接。初心者でも気軽にチャレンジできますので、まずはやりやすいステンレスなどからはじめて、いろいろなものにTIG溶接を生かしてみませんか。
制作:工場タイムズ編集部