2022年9月に開催された「町工場NOW!」。
展示を行っていたのは、東京都八王子市にある1974年創業の有限会社小池製作所。
創業以降蓄積された技術「人の手」と、先端機械の技術「機械の手」の「 ふたつの手 」を融合させながら、医療機器や音響機器、光学機器の内部で使用されるパーツ・部品の製造を行っている。
会場では、展示されていたコーヒードリップスタンドについて、代表取締役の小池孝広氏に伺った。
精密部品機械加工からコーヒードリップスタンドにたどり着くまで
ー今回コーヒードリップスタンドなど、普段製造されているものとジャンルが少し異なるものを展示されていますが、ここに行きつくまでにどういったことがあったのでしょうか?
自分の実体験から生まれました。
コーヒードリップスタンドになったのは、実際に僕がハンドドリップをしたのがきっかけでした。カップの上にドリッパーを載せると少し不便なことがあったりして、スタンドがあったらいいなと思ったんです。
最初の作り始めはまったく違う形だったのですが、知り合いの方とかに見ていただいて製品化できるんじゃない?というところから始まり、デザインももっとコンパクトになったらいいよねというアドバイスもいただいて、最終的にこのデザインになりました。
コーヒードリップスタンド「PORTABLE COFFEE STAND」
この製品は、パーツを分解すると1つにまとめることができるデザインになっています。
収納前(分解時)と収納後
コーヒードリップスタンドは、ばらせないものが多く、収納時も棚の半分を占めてしまったりしますが、これだと家でもかさばりません。これを持ってキャンプに行ってみたいと思っています。
もともと、自分で思ったことを形にして作るということが好きでした。
例えばメガネのスタンドだったり、こんなのがあったらいいなっていうものは趣味程度で作ったりしていて。本当に色々な方にアドバイスをいただいたので、自社製品にできたらいいなと考え、今回の展示に至りました。
また、普段は図面をいただいてこの部品を製造するという受注生産なので、売上が左右されやすい。その中で、やっぱり自分たちで仕事を作り出さなければいけないなという思いがありました。
自分が好きなものを作るのって楽しいですし、働く人も多分楽しいと思います。そういった様々な課題とかも含めて、自社でこういうことやっていった方がいいなっていうのが今ここまでの経緯ですね。
ーそのような経緯だったのですね。このスタンドは、ご自身で図面起こしからされたんでしょうか?
実は、これには図面は存在しないんです。僕の頭の中で起こしました。
なんとなく思いついて、その場でプログラムを組んで製作しました。感覚で作っています。
ー感覚でこれが出来上がるんですか?!正しくプロの技ですね。
ありがとうございます。製作の知識があるので、自社の技術を活かしながら作ります。
でも皆さん値段を見て引きます。(笑)
別の場所で展示した際に、登山をされる方が「これ見てよ!山の頂上でこれを使ってコーヒー飲んだらたまらないだろうね」って奥様に一生懸命プレゼンされていました(笑)
ープレゼンしたくなる気持ち、わかります。畳んであると、パッと見コーヒードリップスタンドだとは思えないくらいとてもスタイリッシュでカッコいいですね!
実際コーヒードリップスタンドですが、使う人が自分らしく他の使い方をしてくれていいと思っています。その人なりの使い方をしてもらって、逆にその使い方を教えてもらえると嬉しいなと思ったりもします。
ーなるほど。「自分らしく」使ってほしいということですね。
こだわりは無駄を無くすこと
ーそんなコーヒードリップスタンドですが、製品化する上で大変だった点や苦労した点はどういった点でしょうか?
この「1つに収める」という点ですね。
コーヒードリップスタンドは、このネジ(赤丸)がないと止まらないんですよ。
試作段階では、これとは別にストッパーを作っていたのですが、ストッパーだけにしか使わないとなると、外で使って落としたら無くしそうという懸念点があって。これは機械工学などで使われる止め方なのですが、これを活用できるなと思って、収納時の留め具かつストッパーとなるように作りなおしました。
このストッパーの先端は山になっていて、棒の溝にハマることによってストッパーの役割を果たしています。
完全に無駄なパーツを無くして、余すことなく1つに収めるまでが大変でしたね。
次回も日常生活で見つけたヒントから
ー今後こういったものを製作していきたいものなどあったりしますか?
結局これも僕の実体験から生まれたものなので、多分僕が何かを体験しないと次のものを作るのってなかなか難しいんですよね。今後も本気で遊んでその中で生まれたものを作りたいです。
例えばコーヒードリップスタンドのシリーズや、コーヒーにまつわるもの・キャンプにまつわるものですね。使う方たちにとって、その時間が楽しめるようなものを作れたらいいなと思います。
ーありがとうございます。シリーズ化、楽しみにしています!Instagramも更新されていますよね?
はい。会社のアカウントと製品のアカウント2つあります。実際にInstagram経由で購入くださる方もいらっしゃいます。
会社のアカウント(左)@k_industrial 製品のアカウント(右)@k_industrial1974
コーヒーを入れたりキャンプをするようになってから、パンを焼くようになったりパスタを自分で打つようになったりなど、何か一つ始めたことで自分の暮らしがすごくおもしろくなりました。
その中で新しくアイディアが浮かんだら、また製品化できたらいいなと思います。
お話を伺う中で、これまでの技術を活かしつつ「自分が好きなものをつくる」ことの楽しさを語るシーンが非常に印象的であった。また、苦労しながら設計しつくった製品を「こだわらず、自分らしく自由に使ってほしい」という思いは、製造側としては新しい目線だと感じた。この先も、小池製作所の新しい挑戦が非常に楽しみである。
取材先:有限会社小池製作所
URL:https://www.koike-s-s.com/
制作:工場タイムズ編集部