夏の風物詩といえば「花火」ですよね。大きな音で迫力のある打ち上げ花火や、色鮮やかな噴射花火も人気ですが、静かに、そして繊細な線香花火は「人の心に寄り添う花火」として多くの人に愛されています。その歴史は江戸時代に始まり、四世紀にわたり、ほとんど変わらない姿で引き継がれています。
線香花火の材料はシンプルで、和紙(こうぞ紙)と、硝石と硫黄、炭素から成る黒色火薬だけです。また線香花火の種類は大きく分けて「手牡丹」(関西主流。藁を軸に作られた線香花火)と、「長手牡丹」(関東主流。藁の代用として紙をねじって軸にした線香花火)の2種類があります。
この記事では線香花火の燃え方や長持ちさせる方法、ギネス世界記録について解説していきます。線香花火の魅力をたっぷり味わうことができますよ。
線香花火の燃え方
線香花火は着火してから消えるまで、温度によって状態が変化し、それぞれの状態に「蕾」「牡丹」「松葉」「柳」「散り菊」と、風情のある名前が付けられています。
線香花火の状態の変化を人の一生にたとえて書かれた小説や歌もあり、線香花火の移りゆく姿は私たちに深く、多くのことを伝えてくれます。
状態変化の五段階が見てわかるものは和製の線香花火です。中でも、日本の数少ない花火職人がこだわりの材料で作り上げた線香花火は、状態の変化をはっきりと見て楽しむことができ、海外ではギフトとして送られることもあるほど人気があります。
1. 蕾(つぼみ)
火薬の部分に着火すると直径5mmぐらいの火玉ができます。火玉は炭素の燃焼により気泡ができて破裂し、また震えながら火玉の形に戻ることを繰り返します。この段階の姿が花の蕾に似ていることから「蕾」といわれています。
2. 牡丹(ぼたん)
温度が上昇することにより火玉の中で燃焼する火薬は液体状に変わります。
火玉が破裂した時に起こる表面張力でつくられた流れに沿って、火花が空中に力強く飛び出していきます。この火花の姿を大きく咲く牡丹の花になぞられ「牡丹」と名付けられました。
3. 松葉(まつば)
たくさんの花火が細い針金のように四方八方に広がります。
この直線的な花火の姿を松葉の姿にたとえられ、「松葉」といわれます。
4. 柳(やなぎ)
火花の勢いは弱まり、細く垂れ下がる姿になります。
火薬が細く垂れ下がる様子が枝垂柳(しだれやなぎ)の細長い枝を長く垂らす姿になぞられ、「柳」といわれています。
5. 散り菊(ちりぎく)
消える直前の姿です。
花火が少しずつ広がらなくなり、最後に火玉のみが残り、燃え尽きます。きれいに咲いた後、花びらを1枚ずつ落として花の終わりを迎える、菊の散り際の姿と重ねられています。
線香花火を長持ちさせる方法
はかなくて、繊細な線香花火を少しでも長持ちさせて楽しみたいですね。ちょっとしたコツで、線香花火を長持ちさせる方法を3選ご紹介します。
1.全体をねじる
和紙(こうぞ紙)をねじったスタイルの線香花火は、ねじれが緩んでいないか確認して、再度優しくねじり直します。特に前年の残りやシーズンの終わりのものなど製造から時間が経過したものは、全体がゆるみがちになることが多く、全体の強度を上げておくことで紙の焼け切れを防ぐことが出来ます。
また、火薬の詰まっている「玉」と呼ばれる先端部分のすぐ上、少しくびれた部分を再度軽くねじっておきましょう。花火に一気に火がつかず、少しずつ火が広がるので、1つの線香花火を長く楽しむことができます。
多少強度がある方が、持つときも火花が真下(足元)に落ちず安全です。
2.斜め45度に持つ
線香花火の種類は主軸にしているもので、「手牡丹」「長手牡丹」と分類されますが、それぞれ長持ちさせるための、着火後の持つ方向が変わってきます。
・「手牡丹」…藁でできており、棒状。火薬の玉が黒い。→斜め上45度に持つ
軸が硬い素材なので、斜め上45度に持ち、火薬の燃え広がりがすぐに先端に進まないようにします。
「長手牡丹」…紙でできており、火薬を包んで全体をねじった仕様→斜め下45度に持つ
真下に向かって火薬が落下していこうとする力が分解され、火薬の燃え広がる速さを遅らせることが出来ます。また、花火の軸と火玉との接地面積が大きくなるので火玉が支えられ、途中落下を防ぎます。
いずれの種類でも、火薬が先端まで燃え広がるスピードを遅らせることができるので、線香花火を長持ちさせることにつながります。
3.ロウソクを使う
着火は直接ライターやマッチ、チャッカマンを使わず、空き缶の底に立てたロウソクを使いましょう。ロウソクの炎が安定することや、片手があくので花火の先に集中でき、片手で風よけを作り、花火の点火をキープできます。
また、着火するときは花火の先と火の先が触れ合う面積が小さくなるよう(花火と火の先端同士が擦れる程度)に工夫しましょう。
火種が小さいほど火玉は落ちにくくなり、線香花火の長持ちにつながります。
線香花火のギネス世界記録
2018年の8月に日本で線香花火のギネス世界記録が更新されました。場所は兵庫県宝塚市武庫川河川敷です。主催は宝塚商工会議所青年部などがつくる実行委員会で、「宝塚23万人の選考花火大会」と称してギネス公式認定員立ち会いのもと、開催されました。
ルールは
「開始の号令から10秒以内に自分で花火に点火し、火玉を落とさずにキープし続けること」です。
武庫川に集合した参加者は燃焼時間が約150秒の大型の長い線香花火を受け取り、号令までスタンバイ。大きな号令と共に一斉に線香花火に火をつけました。その様子はFM宝塚が生中継、また小型無人機のドローン2機が上空から撮影して様子をチェックしました。
号令後10秒以内に線香花火を付け、点火状態の人を確認したところ、1,713人と記録。今までの韓国の記録(1,700人)を抜いて、見事、ギネス世界記録に認定されました。
まとめ
多くの人の心を引き付ける線香花火。燃え方の段階それぞれに名前がつけられているのも、多くの人に親しまれている証でしょう。昔の人の線香花火を愛する気持ちが伝わってきます。
線香花火を長持ちする方法は簡単なコツさえ知っていれば誰でもできる簡単な方法です。
この夏、線香花火の平均燃焼時間の約40秒を少しでも伸ばして1本の線香花火との時間をしっとり過ごしませんか。