近年の少子高齢化などの影響により、深刻な人材不足にある日本。企業では労働力確保のため、女性や高齢者、外国人など、多様な人材への期待が高まっています。
2023年の内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」によると、女性就業者数は、2012年から2022年までの10年間で約370万人増加し、女性の採用が活発化していることが分かります。
一方で、出産や育児などによる女性のキャリア形成の難しさや賃金格差など、女性の就業の妨げとなる課題は現在も山積みです。ライフスタイルの多様化に合わせ、女性が働きやすい環境整備を積極的に進めていくことが求められています。
本記事では、女性の人材採用の重要性と課題について、最新の官公庁データを用いて解説します。
女性を採用するメリットとは?
女性は結婚や出産、子育てなどのライフイベントに生活が左右されやすいことなどから、雇用するリスクが高く、思い切った採用に踏み切れないという企業もあるでしょう。
しかし、女性の登用を進めることで、企業全体が享受できるメリットもあります。
- 優秀な人材の確保
- ダイバーシティ経営の実現
- 社会的責任の履行
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
1.優秀な人材の確保
企業が女性人材の採用を積極的に進めることで、優秀な人材を確保できる確率も高まります。
2019年の日本の女性の大学(学部)への進学率は、女子50.7%・男子56.6%と男子の方が5.9%ポイントが高いものの、女子の短期大学への進学率7.9%を合計すると、女子の大学等進学率は58.6%となり、男子よりも若干高くなっています。(参照元: 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和2年版 第4章第1節)
入り口にあたる採用場面で女性の割合を増やすことで、企業にフィットした人材が増え、キャリアアップに意欲的な人材が確保できる確率は向上します。優秀な人材によって組織の人材の質が向上し、企業全体の競争力も強化されるでしょう。
女性比率が多く、いきいきと活躍している企業は、女性の求職者にとっても魅力的に映り、さらなる採用強化に繋がるという好循環が生まれます。
2.ダイバーシティ経営の実現
女性人材の登用により、雇用者の多様化を推進することで得られるメリットもあります。
女性をはじめ、外国人や高齢者、障がい者など、多様な人材を登用することをダイバーシティ経営と言います。価値観が多様化する現代社会においては、時代のニーズに対応できる自由な発想が求められており、多様な視点から提案される新たなアイディアは、企業の活性化に直結すると考えられます。
以下、多様性によって企業にもたらされるメリットをご紹介します。
マーケティングの改善
企業は、女性を含めた多様な視点をマーケティングに取り入れることにより、消費者のニーズに合った商品やサービスの開発・提供が可能になります。
少子高齢化による人口減少に伴い、日本市場は縮小傾向にあります。企業には、これまで以上の競争力の強化が求められるようになるでしょう。そのためには、ターゲットとなる消費者への深い理解が必要です。女性は家計や消費活動において決定権を持っているケースが多く(参照元:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 特集編 女性の活躍と経済・社会の活性化」平成22年)、消費者ニーズに合わせた商品やサービスの開発・提供が期待できます。
企業内の多様な人材により、従来の組織では生まれなかった創造性が生まれ、イノベーションが促進されるでしょう。
環境整備による全体の離職率低下
女性にとって働きやすい職場環境の整備は、従業員全体の離職率の低下に繋がります。
キャリアアップを目指す方や、家庭との両⽴を第一に働きたい方など、女性が希望する働き方は一様ではありません。様々な働き方を考慮した職場環境を整えることで、多様な人材を採用しやすくなり、労働力の獲得が見込めます。
厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」ことを離職理由に挙げたのは、女性では10.1%、男性では8.0%というデータも出ており、働きやすさに配慮した職場環境は離職を防ぐと考えられます。
また、女性が活躍しているという実績は「労働環境や制度が整っている」という企業イメージの向上に繋がるため、企業に優秀な人材が集まることも期待できるでしょう。
3.社会的責任の履行
ダイバーシティの推進は、企業の社会的責任(CSR)活動の一環として位置付けられます。企業が社会的責任を果たすことで、自社のイメージアップをすることが可能となります。
CSR活動を通して、企業が利害関係を有するステークホルダーからの信頼を得ることは、円滑な資金・資材調達につながります。結果的に社会的評価が高まり、企業全体のイメージ向上が望めるでしょう。
また、企業のステークホルダーには従業員も含まれています。従業員が安心して働ける環境が整備され、事業内容に対する満足度が高まることにより、雇用の安定に繋がります。
製造業界の女性人材採用の動向
製造業における女性就業者数は、2022年時点で約312万人。全就業者数における割合は29.9%と低水準となっています。全産業の女性就業者の割合は、2022年時点で45.0%へと上昇傾向で推移しているのに対し、製造業の女性就業者の割合は、2009年頃から30%前後の横ばいの状況が続いています。(参照元:経済産業省「2023年版ものづくり白書」就業動向と人材確保・育成)
一方で、産業別の平均勤続年数の推移を見ると、製造業は男女ともに上昇傾向にあり、製造業に従事する女性の平均勤続年数が最も長くなっています。(下図)産業全体で見れば、製造業は比較的安定した雇用が確保できている業界だと言えますが、女性の平均勤続年数は男性と比べて4〜5年ほどの差が生まれており、定着率の向上にも課題が残ります。
女性採用に向けて取り組むべき課題とは?
内閣府政府広報室「男女共同参画社会に関する世論調査(令和4年11月調査)」概略版によれば「こどもができても、ずっと仕事を続ける方がよい」という意見が59.5%を占めており、「出産しても働き続けたい」と考える女性は増え続けています。
しかし、2022年の女性の年齢階級別正規雇用比率を見てみると、就業率は20代以降70%を維持している一方で、正規雇用比率は25〜29歳をピークに50%を切る結果が出ています。(下図)
女性は出産や育児などのライフイベントを期に正規雇用から離れ、時間の融通がきく非正規雇用に切り替えたままのケースも多く、人材を十分に活かしきれていないと言えるでしょう。女性のキャリアの断絶は、労働者と企業にとって未だ大きな課題となっています。
ここからは、女性の働き方の現状を踏まえた人材採用の課題について解説していきます。
ジェンダーバイアスや性差別の問題
日本には、世帯主の男性が一家の稼ぎ手となり、女性は家事労働に専念(または収入を補うために働く)という固定的な性別役割分担意識が、未だ強く根付いています。
内閣府男女共同参画局「令和5年版 男女共同参画白書」のグラフから、日本の男女別の一日当たりの生活時間を見ると、諸外国に比べて男性の有償労働時間が極めて長く、無償労働(家事労働)時間が非常に短いことが分かります。
長時間労働や転勤を当然とする男性の働き方と、それを支えるために家事に専念しなければならない女性。この古い社会モデルを見直すことが、女性の就労と男性の家事・育児参加に繋がると考えられます。
また、製造業などの一部の産業や職種では、就業者に男性が多く、女性が進出しにくい状況があります。男性中心の均一的な企業風土は、性別で仕事上の役割分担が行われていたり、長時間労働が評価されたりと、女性に不利なだけでなく、男性にとっても負担の大きい環境です。
企業には、業務効率化による労働時間の短縮や、個人の能力を適切に評価する人事評価制度の確立、キャリアアップを希望する女性の支援などの対策が求められます。
ワークライフバランスの課題
日本では社会構造の変化と、人々の働き方に関する意識や環境にギャップが生まれており、仕事と生活の両立が困難な状況が生まれています。労働者のワークライフバランスの実現により、企業の成長力と経済力を高め、国の人口減少、ひいては労働力減少の流れを止めることにも繋がります。
総務省の「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果」における「6歳未満の子どもを育てる夫婦の家事・育児時間」を見ると、男性は1日平均で家事に30分・育児に1時間を費やしている一方、妻は倍以上の家事に3時間・育児に4時間費やしており、女性が大部分の家事育児を担っていることが分かります。しかし、2001年には男性の家事時間は約0.1時間・育児時間は0.4時間だったところからは、男性の家事参加が徐々に進んでいる状況も見て取れます。
つまり、家事・育児・介護など、ライフイベントによって働き方を変えざるを得ない女性を雇用するためには、女性だけでなく、男性を含めた全従業員が働きやすい職場環境の整備が必要だと考えられます。
給与・待遇格差の撤廃
日本の男女の賃金格差は、長期的には縮小傾向にあります。しかし、2021年の男性労働者の給与を100%とした場合、女性一般労働者の給与水準は75.2%です。OECD(経済協力開発機構)の平均数値が88.4%ということを考慮すると、諸外国と比較して日本の男女間賃金格差は大きいと言えるでしょう。(参照元: 内閣府男女共同参画局「男女共同参画に関するデータ集」)
理由のひとつとして挙げられるのは、30代以降の女性の非正規雇用の比率の高さです。出産などを機に、時間の融通がきく非正規雇用に切り替える女性が多い中で、企業にはその後の正規雇用への転換促進が求められています。従業員の相談体制を整備し、非正規雇用労働者の正社員化に取り組むことも重要です。
また、2021年からは「パートタイム・有期雇用労働法」が施行され、非正規雇用と正規雇用の間の賃金や福利厚生等の不合理な待遇格差を禁止しています。非正規で働き続けたいと考える労働者に対しても、働きに応じた待遇を用意し、働く意欲を高めることが労働力確保に繋がると考えられます。
本記事のまとめ|女性採用の重要性
最後に、今回解説した内容をまとめます。
<女性を採用するメリット>
1.優秀な人材を採用できる確率が上がり、企業の成長が見込める
2.多様な視点を持つ人材の登用がマーケティング改善に繋がる
3.「女性が働きやすい」という企業イメージにより、さらに優秀な人材が集まる
<課題>
1.雇用者全体のワークライフバランスの見直し
2.女性のキャリアアップ支援
3.多様な雇用形態の整備
4.労働時間ではなく、能力に応じた正当な人事評価の確立
5.相談しやすい体制の整備
将来の労働力不足の解消には、女性の潜在的労働力の活用が鍵となると言われ、「女性が輝く企業」という言葉がよく使われます。
しかしこれは女性に”子どもを産み育て、働き、キャリアアップをしなければならない”といった何重ものプレッシャーをかけ、男性社員や未婚者に不公平感を与えていることも否定できません。
女性を含めた雇用者全体のために、企業には「様々な生き方が尊重され、どんな形でも働き続けられる環境」を整備することが求められています。労働者の多様な価値観を捉え、誰もが意欲を持って働けるよう、企業が一丸となって取り組んでいきましょう。