ハイレベルな溶接技術と加工技術で、鉄で作られているとは思えないほど自由な発想のアート作品を生みだす鉄彫刻家・飯田誠二(いいだせいじ)さん。
前回「工場タイムズ」にて、彼の鉄彫刻家としての軌跡を「鉄彫刻家・飯田誠二さんが作り出す『鉄を楽しむ心地よい空間』」という記事でご紹介させていただきました。
その飯田さんと、家庭用溶接機のブランド「SUZUKID(スズキッド)」のアンテナショップである中目黒の溶接DIYショップ/教室「FeNEEDS(フェニーズ)」とがコラボし、個展「IRON ART EXHIBITION by Seiji Iida」が5月5日(土・こどもの日)~13(日)まで開催されました。
今回はその個展の様子をレポート! また当日「FeNEEDS中目黒店」で開催されていた溶接ワークショップ参加者の方にもお話をうかがうことができました。
飯田さんが作り上げた“鉄を楽しむ心地よい空間”と、初めての方でも気軽に参加できる溶接ワークショップ。今回も内容盛りだくさんでお届けします。
ぜひ最後までお楽しみください。
個展のコンセプトは「cave & abode(洞窟と棲み家)」
個展会場である「FeNEEDS中目黒店」は、東急東横線の中目黒駅から徒歩5分、線路の高架下に飲食店や洋服ブランドのセレクトショップ、オフィスなどが立ち並ぶ一角にあります。
高架下のため絶え間なく電車の音が響き渡る、コンクリート打ちっぱなしの店内には、いたるところに飯田さんの作品が置かれ、いつもの店内とは違った空間が演出されています。
飯田さんが今回意識したのは、「LUUMOS(ルーモス)」という空想の生き物(「LUU(ルー)」と「MOS(モス)」という兄弟のオブジェ作品)と、揺らすとキラキラと美しい音を奏でる作品「sei(セイ)」とを組み合わせた、トータルな空間作り。
「今回の個展には『cave & abode(洞窟と棲み家)』というコンセプトがありました。最初にこのスペースで打ち合わせをしたときに『ここはLUUとMOSが住む洞窟の棲み家だな』という印象を受けたんです。そのコンセプトに従って作品を配置し、空間を作っていきました」
周りを見渡すと、天井から垂れた水が起こす水紋をイメージしたオブジェがいたるところに配置されています。そこに「sei」が奏でる美しい音色と、電車が通過する大きな音が絶妙のバランスで響きわたる空間は、まさに「洞窟と棲み家」のイメージにピッタリ。
今回来場したお客様の反応にも、新たな気付きがあったと飯田さんは言います。
「中目黒という場所柄か、外国人のお客様も多かったのですが、日本人のお客様がオブジェ作品に興味を持ってくれたのに比べ、彼らは音の出る『sei』に興味を持ってくれました。
『どういう構造になっているんだ?』『中身は何が入っているの?』など、いろいろな質問攻めにあいましたが(笑)。特に今回初出展の、手にとって揺らすとひとつひとつが違ったコード(和音)を奏でる『sei-waon(セイ・ワオン)』を聞き比べて買ってくださったのも外国の方が多かったです。私は音楽が好きなので、その違いを聞き分けて選んでくれたのは嬉しかったですね」
『sei-waon』を手にとって振ってみると、中に入っている部品の音がぶつかり合って、それぞれが異なる美しい和音を奏でます。複数揃えれば、ギターやピアノなどの楽器と同じように合奏もできるそう。
個展が生んだ新たな出会い
今回の個展を通じて、飯田さんに新たな出会いがありました。東京をはじめとする、日本各地の美術館や店舗で国内の芸術家たちの展覧会のプロデューサーが来展され、風が吹いてプロペラが回ると音が出る作品「SUZUMUSHI」に注目。
個展終了後から7月9日(月)までのおよそ2ヶ月間、代官山の蔦屋書店2号館2階のカフェギャラリー「Anjin(アンジン)」にて、「SUZUMUSHI」をはじめ飯田さんの作品数点の展示が決まりました。
「個展に来てくれた、とある女性と話しているうちに、その方が国内のアーティストをプロデュースしている方だとわかりました。この個展にはネットの情報を見て足を運んでくださったそうなのですが、『SUZUMUSHI』の実物を見てとても気に入ってくれ、その場で次の展示の話をいただきました。
さすがに驚きましたが、それだけの評価をいただいたことはとても嬉しいです。次の展示でも、訪れた人が作品に触れ、揺らし鳴らして存分に楽しんでもらえたらと思います」と飯田さん。
そんな思いがけない出会いも生まれた今回の個展。「FeNEEDS中目黒店」を代表して、今回の個展のきっかけを作ったスタッフ・桑原康介(くわばらこうすけ)さんにも、今回の個展の感想を聞いてみました。
「私は以前から飯田さんの作品をもっと世の中に知ってもらいたいと思っていましたが、今回の来場者の方々からは想像以上の反響を得ることができ、とても嬉しく思っています。特に、お子さんたちが作品を手に取って音を聞き楽しんでいる様子を見て、開催してよかったと心から思いました。
またFeNEEDSでは、このコラボ個展プロジェクトを通じて飯田さんのような新進気鋭のアーティストを応援していきたいと考えているのですが、開催中に次の展示のお話をいただくという展開となり、1つの実績ができました。
これを機に、今秋の開催を予定している次のアーティストの個展にも注力していきたいと思っています」
来場者の方々、および開催パートナーであるFeNEEDS(桑原さん)からも好評だった今回の個展ですが、飯田さん自身の目にはどのように映ったのでしょうか。
「イメージしていた空間が作れたことが嬉しいですし、予想もしなかった海外のお客様の反応も勉強になり、そのうえ新しい展示へのお誘いもいただくという結果に、とても感謝しています。
最近まで音の出る『sei』シリーズに注力してきましたが、『LUUMOS』のようなオブジェ作品を作ってみたいという思いも再び強くなってきたので、新たな作品制作にもチャレンジしていきたいですね」
今回の個展でさらなる創作意欲をかきたてられたと語る飯田さん。これからの展開がますます楽しみです。
続いては、同日開催された溶接ワークショップの参加者・源田(げんだ)さんに、溶接体験の感想インタビューを行いました。
「鉄が溶けて固まる、その神秘的な様子に感動」
源田さんは都内にお勤めのサラリーマン。大学時代には工学部で旋盤(せんばん。※回転する素材に刃物をあて、送りながら削る加工)の経験があるものの、溶接はまったく初めての体験だったそうです。
今回のワークショップで作ったのは「シェルフ(棚)」。雑誌などを置く棚としても、キャンプや植木鉢を置く花台としても活用できる優れもの。
脚のパーツと天板枠のパーツをそれぞれ溶接によって作って組み立てるというシンプルな構造ですが、いきなり1人で溶接するのはちょっと難しそう。源田さん、溶接を実際に体験されてみて、いかがだったでしょうか?
「目の前で鉄が溶けてしっかりとつながっていく様子は神秘的でしたし、思っていた以上に簡単に、立派なシェルフができたことに感動しました。
はじめは危険なんじゃないかとか、溶接で接着した鉄棒の角度がずれてしまったら、などと心配していたのですが、桑原さんがしっかりサポートしてくださったので安心でした。またこういった機会があれば挑戦してみたいです」とのこと。
完成したシェルフは、鉄の枠にネジ止めした木の板と、溶接した鉄の足枠を組み合わせたもの。源田さんの笑顔がこのワークショップの楽しさを伝えていますね。
ちなみにこのシェルフ、持ち運びの際にはコンパクトにまとめることができるので、夏のキャンプなど、アウトドアでも重宝しそうです。
「FeNEEDS中目黒店」ワークショップ情報
溶接ワークショップの参加者は、性別を問わず下は小学生から上は70代までと幅広い年齢の方がいるそうです。どんな年代の方でも気軽に楽しめるのですね!
こちらのワークショップで制作できるのは
・サインプレート(所要時間1時間/5,000円)
・ドリップスタンド(所要時間2時間/6,000円。上記写真参照)
・表札(所要時間2時間/8,000円)
・角スツール(所要時間2時間/8,000円)
・アームライト(所要時間2時間/10,000円)
・シェルフ(所要時間3時間/10,000円)
・自由制作(1時間当たり5,000円)
※すべて要予約、材料費込、料金は税別
など7種類。お好きなものを選べます。
ものづくりが好きな方や溶接を一度やってみたいという方は、「FeNEEDS中目黒店」ウェブサイトにある「ワークショップメニュー」のページから申し込むか、直接店舗に電話(03-6303-0755)でお問い合わせください。
個展とワークショップ、どちらも鉄を楽しむ心地よい空間と感じた今回の取材。
みなさんもこの機会に、溶接にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
→ 前回記事「鉄彫刻家・飯田誠二さんが作り出す『鉄を楽しむ心地よい空間』」を読む
飯田誠二instagram
https://www.instagram.com/seijiiida/
FeNEEDS中目黒店
https://feneeds-nakameguro.shopinfo.jp/pages/816037/profile/
溶接ワークショップメニュー
https://feneeds-nakameguro.shopinfo.jp/pages/816001/workshopmenu
SUZUKID オフィシャルサイト
http://www.suzukid.co.jp/
取材・文:柳澤史樹/写真:飯田誠二(有限会社飯田工務店)、工場タイムズ編集部/取材協力:飯田誠二(有限会社飯田工務店)、SUZUKID(スター電器製造株式会社)