2022年6月に開催された「日本ものづくりワールド」。
出展企業のひとつ昌和プラスチック工業株式会社は、長年、数億個単位で発注されるプラスチック製品の大量生産を行ってきたが、ここ数年、数百個からの少量生産にも力を入れているという。
その狙いを代表取締役の内川 毅氏に伺った。
ベンチャー・スタートアップ企業がぶつかるものづくりの壁
1952年創業の昌和プラスチック工業株式会社(千葉県茂原市)。
長年、金型を使用して合成樹脂を加工する射出成形(注1)によって、数万個単位で発注されるプラスチック製品の大量生産を行っている。
(注1):金型に、溶かした合成樹脂(プラスチックなど)を流し込み、冷やし固めることで、形をつくる加工方法。
金型通りの形のものが出来上がるため、複雑な形状をした製品をつくることも可能。
「プラスチックは一般的に安価なイメージが強いため、限られた予算で商品開発を行っているベンチャー・スタートアップ企業が、 ”プラスチックであれば商品化できるのではないか”と期待して当社にやってくることが多いんです。しかし、加工を行うのには高価な金型が必要なことを知らない人も多く、早々に壁にぶつかり話が頓挫してしまうこともあり、私自身歯がゆさを感じていました」と語るのは、昌和プラスチック工業株式会社 代表取締役の内川 毅氏。
どんなにAIやIoTのシステム開発に優れた企業であっても、開発段階から基盤を覆うカバーにまで目を向けられる開発者は少ないそう。試作段階であれば、数個程度は3Dプリンターで製作することが可能だが、数百個の発注となると金型がなければ、成形に時間がかかり、不可能に近い。
そこで思いついたのが、パーツの取り外しが可能な簡易金型を自社で手掛けること。
プラスチックの成形に使用する金型は、全てを一から作るのが一般的だが、枠は既存のものを使い、樹脂を流し込み形をつくる部分のみを取り外し可能にし、カスタマイズすることで、手間とコストを削減できる。
企業から受け取ったイメージデータを元に、まずは3Dプリンターで試作品をつくり、実際に基板などを入れて、動作確認を行う。問題がなければ金型を設計し、成形に取り掛かる。
金型はものによって価格も変わるため、一概には言えないが、一から金型を作るのに比べて、費用を半分から3分の1程度まで抑えることができるそう。
これまで開発した商品
これまで手掛けたものとして、IoT領域で位置情報センサーを開発した企業と連携し、お年寄りの見守りや、忘れ物防止のため、腕に巻きつけられる時計型のカバーや、ポケットに装着できるボタン型のケースをつくった。
「どこまでベンチャー・スタートアップ企業の意向に沿ったものづくりができるかを、
常に考えています」と内川氏は話す。
従来よりも低価格で簡易な金型をつくることができるようにはなったものの、依然として初期費用のハードルは高い。3Dプリンターで数十個の製品をつくるのが良いのか、金型を早い段階でつくった方が良いのか、価格を抑えられる金型の大きさの限度はどれくらいなのかなど、相手の意向に合わせて柔軟に開発を行うようにしているという。
お客様の声から得た新ビジネスのヒント
昌和プラスチック工業株式会社では、1952年の創業から70年以上大量生産を続けているが、コストでの競争は年々厳しさが増している。価格競争に加えて、ニーズの多様化により大量生産自体が難しくなってきており、新しいことに挑戦しなければならないという思いが強まっていたという内川氏。
「当初は自社の大量生産の仕組みでは、少量生産に対応することはできないと考えていました。しかし、熱意あるお客様の希望をどうしたら叶えられるかを考え、行動したことで、これまでになかった簡易金型の製造を自社で手掛けられるようになりました。お客様の声を聞く中で、突破口を見つけられた気がします。特に、IoTやAI領域で、ベンチャー・スタートアップ企業が次々と誕生し、新製品の開発も盛んに行われている今、商品開発にあたって必要となる”型”に大きな可能性を感じています」と話す。
長い年月をかけて、日用品や工業製品など、あらゆるプラスチック製品の成形を手掛けてきた経験があるからこそ、開発段階のアイデアを形にする具体的な方法を提案できるそうだ。
「挑戦してみない?」と言える土壌づくりのために
2015年からは、千葉ものづくり企業商品開発推進協議会と共同で「房総ものづくりネット MOVA(もーば)」を設立。地域でものづくりをしたい人が集まるコミュニティに、内川氏も月に1回参加し、アドバイスを行っている。
「初めから大量に作った製品を販売できる企業は少ないと感じています。だからこそ、ベンチャー・スタートアップ企業に大量生産の仕組みを押し付け、足踏みさせてしまうのではなく、”決して安くはないけれど、挑戦してみない?”と背中を押してあげられるような材料を用意したいという思いがあります。現在は、作りたいものの具体的なイメージ(設計図など)を持っている企業の製品の、試作から製造までを担っていますが、今後はイメージのみのお客様にもワンストップで対応できるようになりたいと考えています。プラスチックの成形には金型が必要となるものの、様々な形に加工することで幅広い分野に参入でき、多くのニーズに応えられるのではないかと感じています。あらゆる人の様々なアイデアを前向きに進めていく力になりたいですね」と内川氏は力強く語った。
取材先:昌和プラスチック工業株式会社
URL:https://showaplastics.jp/
制作:工場タイムズ編集部