2022年6月開催の「日本ものづくりワールド」。出展企業の一つである小倉クラッチ株式会社は、その名のとおりクラッチやブレーキの開発・製造を行う会社だ。
クラッチ、ブレーキと聞けば、自動車を思い浮かべる人も多いかと思うが、実はロボットにも使われている。
現在は協働ロボットが主流だが、クラッチやブレーキといった製品はロボットの中に組み込まれてしまうと表面上見ることができない。
そこで、小倉クラッチ株式会社では、「クラッチやブレーキのパーツが表から見えるロボット関連製品」の開発に着手した。
今回は、無励磁作動ブレーキをはじめとするロボット関連製品の開発に携わった担当の方にお話を伺った。
主力製品「無励磁作動ブレーキ」とは
さっそく、⼩倉クラッチ株式会社の主⼒製品でもある「無励磁作動ブレーキ」について質問していきます。
— さっそくお伺いしたいのですが、「無励磁(むれいじ)作動ブレーキ」とはどういったものでしょうか︖
ご担当者:ロボットの関節の中にサーボモータ―が⼊っているのですが、そこに⼀緒に使われるブレーキです。
ロボットの中に⼊っているサーボモーターは高性能ですが、1つだけ絶対にできないことがあります。それは電気がないところでは⼒が発⽣しないということです。
そのため、ロボットの稼働中に停電すると、ロボットのアームが下に落ちてしまいますよね。その時に、無励磁作動ブレーキは電気がないときにブレーキが効くので、停電時にアームの動⼒がなくなってもブレーキがアームを保持してくれます。
アームの下に⼈や製造ラインがあると、⼤きな怪我や事故につながりかねません。
そのため、無励磁作動ブレーキは、⾃動⾞会社の重要なラインをはじめロボットの全般的に使われております。
— 特に需要が多い分野はありますか。
ご担当者:従来は、無励磁作動ブレーキの内径は少し⼩さかったのですが、最近では内径が⼤きいものの需要が増えています。
ロボットに使⽤するブレーキはその内径部へハーネス(電線)を通すために大きくする必要があります。内径を大きくすることで多くのハーネスを通せて且つ損傷を防ぐことができるというわけですね。
我々はこうした需要を受け、内径の⼤きい無励磁作動ブレーキを開発・製造しています。
— 内径を⼤きくするにあたって、弊害はなかったのでしょうか。
ご担当者:内径を⼤きくすると、ブレーキ全体の体積が減ってしまいますよね。この狭いスペース内にコイルを⼊れて性能を確保するとなると苦労するのです。
無励磁作動ブレーキは電気を通電すると軸が⾃由に回り、電気がオフになるとこの軸が固定されてブレーキがかかるという仕組みです。
その⼒のもとはブレーキの摩擦面に作用するバネ力で、そのバネ力を電磁石の力で解除するのですが、その電磁石の力はコイルの銅線の巻き数と電流値の積算になるため、スペースがないとその巻き数が稼げなくなるので設計的な苦しさがありました。
磁気回路の効率的な設計、良質な摩擦材の選定など、これまで培ったブレーキに関する技術をフル活⽤して開発しました。
1台何役もこなすための「ツールチェンジャー」
ブレーキ以外にもロボット上で目に見える製品として「ツールチェンジャー」や「ロボットハンド」を展⽰。こちらについても御話を伺いました。
— ツールチェンジャーとはどんなものでしょうか。
ご担当者:簡単にいうと、ロボットの⼿になる部分を付け替えて、いろいろな作業ができるようになる、作業協働ロボットに必要なパーツです。
このツールチェンジャーにも無励磁作動ブレーキの技術が使われています。
— 物をつかむ動作は、どんな仕組みでしょうか︖
ご担当者:ロボットハンドには荷重センサーが⼊っており、そのセンサーがワークの直近のところで荷重を測り、ワークにかかる⼒を正確に読み取ります。
我々は張⼒検出器という製品を開発する中で荷重センシング技術を持っていたため、その技術をロボットハンドの⽖の先に装着しました。
また、荷重センサーの構造の⼀部に特許申請している部分もあります。ワークの形がばらついていても正確にワークに作用する⼒を測定できる技術を確⽴しました。
寿命予知システムを考案
ご担当者:無励磁作動ブレーキにも寿命があり、寿命をむかえるとブレーキが効きっぱなしになってしまいます。
そうなると、モーターが回せなくなって過負荷エラーとなり、ロボット⾃体が⽌まってしまいます。
そこで我々が考えたのが寿命予知システムです。ブレーキの寿命を常にモニタリングするというものですね。
— どのような方法でモニタリングをするのですか?
ご担当者:システム画面の⽔⾊の線が寿命を⽰していて、寿命間近の赤ラインに近くなってきたら保守点検、交換⽬安となります。
突然ラインがストップすることが⼀番困りますし危険ですので、保全の計画⽴案に役⽴てることが⽬的です。
原理的には⾮常に簡単で、このブレーキに流れる電流をモニタリングすることによって寿命を推し量ることができます。
また、ブレーキの寿命をシステムで読み取り、スマートフォンなどで⾒られるようになっています。
クラッチ・ブレーキの用途は多彩
— ブレーキというと完全に⽌めるものというイメージだったのですが、⾊々な⽤途があるのですね。
ご担当者:そうですね。変わりものだとツースクラッチ、⻭でかみ合ってものを⽌めるものもあります。
今回の取材を通じて、クラッチやブレーキの⽤途は多彩で、⾃動⾞にもロボットにも⽋かせないパーツの⼀つであることが分かりました。
⼩倉クラッチ株式会社では、これからもクラッチやブレーキの開発・製造で培った技術を活かし、ロボット関連製品の開発・製造をはじめ、新たな価値をこれからも創造し続けていくことでしょう。
制作:工場タイムズ編集部
取材協力:⼩倉クラッチ株式会社